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人形と私

私は人形になりたかった。

何かに感情を揺れ動かされることもなく、微動だにせずただそこに居るという孤高の存在に憧れた。

人形には感情がない。
だから私と人形は相思相愛になることがない。一生一方通行だ。
どれだけ追いかけても絶対に追いつけない。わかりえない。手が届かない。
私はそういうものに恋い焦がれ、憧れた。

私にとって憧れとは、対象そのものになりたいということと同義だった。
そこに自分らしさなんてものは1ミリもいらない。
そのものになればあなたから愛されると思っていた。
そのものになれば自分を愛せると思っていた。


私は過去に一度、ビスクドールを壊したことがある。もちろん故意にではなく、不注意で倒してしまった。
ガチャ、という嫌な音をたてて額から割れた。
私は泣きながら欠片を拾い集め、ごめんねと繰り返しながら欠片のひとつずつを接着剤でくっつけた。
私だけが泣いていた。壊したのは私なのに。


これらは全て過去の話だ。
事実として過去に在り続けている。


割れたビスクドールは、きちんと人形に戻すことができた。
今も私の部屋に座っている。
何事もなかったかのように。以前と同じように。
顔のひび割れ跡を除いては。



幻影だけを信じていたのはいつだったか。
あのアリスは何を見つめていたのだろうか。
泣いていたのは私だけだったのだろうか。
本当に全て過去の話なのか。
覚めない夢など、なかったじゃないか。


今日はクリスマスだ。

12月になるとあっという間に街が華やぎ、どこへいってもクリスマスソングが流れ始める。
ケーキ屋のショウケースは1年で1番ぴかぴか光り、なんてことない街路樹にも電飾がなされ、コンビニのチキンは増量され、街中にはスーツを着たサンタやサンタ服を着た労働者が溢れている。

明日には何もかもなくなっている。

私は今日も恋い焦がれ、人形を作る。



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