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天使のともしび

あっという間に10月が終わる。年々月日がたつのを早く感じる。
毎月、「何もせずに終わった」と思ってしまうのは何故だろう…決してそんなことはないのに。

毎年この時期になると、ある出来事を思い出す。
温かい明りが灯る小さなアンティーク屋で、天使のランプを買った日のこと。

5年か6年ほど前、私はそのランプに出会った。
たくさんの素敵なアンティークのランプが吊るされている中に、それはあった。

可愛らしい幼い天使がピンク色の花を垂れ下げるように持っていて、その花がランプになっている。
よくあるタイプのものだけれど、色のくすみ具合や全体の風合い、何よりも天使の表情が本当に愛らしくて、これ以上の天使にはこの先出会わないだろうなと密かに確信していた。

そのお店に行くと天使はいつも変わらずに私を迎えてくれた。

住宅地にひっそりと天使が棲んでいるなんて、私だけが知る秘密のような気がしていた。
前を通るたび、お店にお邪魔するたび、その天使がちゃんといてくれることを確かめては安心した。

それだけで私の心は十分に満たされた。

当たり前のように毎日が過ぎ去る中、
「あのランプはいずれ私が買うことになるだろう。だったら早いほうがいい。」という気持ちがふっと訪れた。

いつの間にか天使は、棲み処をあの店から私の心の中に変えていたのだろう。
5年前の10月30日、私は天使を迎えに行った。

その日どんなふうにしてそのランプをくださいと言ったのかは思い出せないけれど、
高揚感に包まれたままの帰り道、天使が入った紙袋を持つ手をこれでもかというくらい強く握りしめていたことはハッキリと覚えている。
傷つけることなく無事に持ち帰るという使命感と、ついにだ…!という気持ちがないまぜになって力が入る。
本当に買ってよかったんだろうか?というような気持ちには1ミリもならない。

すれ違う人は私がどんな気持ちでこの紙袋を持っているのかを知らない。

誰も知らない、けれど私だけが知っている。この気持ちは私だけのものだ。

秋が深まる10月の終わりに、私は天使のことを思い出す。

この一連を思い返しながら、天使のランプを自分の作品に置き換えて考えてみる。
こんなふうにして自分の作品がお迎えされたならばどんなにうれしいだろう。

紙袋の紐をぎゅっと握りしめてしまうような。

いつの間にか、自分の心の中に棲んでいるような。

密かな確信を与えられるような。

温かく灯るランプのような。

そんな出会いを願って。

#天使 #エッセイ  

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