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魔々勇々3巻掲載話全感想 紛うことなき神漫画

林先生こそが勇者。
3巻掲載話(特に後半)をジャンプで書いているときには、多分既に打切りは決まっていたんじゃないだろうか。
そんな中、残された掲載話を見て終わりまでの道筋を描きながら、コミックスで補充することまで考えていたとすれば、その心の強さは計り知れない。
最後まで読者を楽しませようとしてくれるその姿勢を勇者と言わずしてなんと言おうか。

そんなわけで感想いきます。
各話感想は既に記事にしているので、ジャンプ掲載話は一口感想とリンクを貼る形にします。
と言いつつそれなりの量になっちゃったけど。
ページ数は電子版準拠です。

掲載話(プラス合間のおまけ)感想

4ページ(書き下ろしミネルヴァ)

私服も素敵ですね!!
キャラの魅力がほとばしってるから、一枚絵を見るだけでも幸せになれる。
林先生の絵は、台詞がついていなくてもストーリーを想起させられるから見ていて楽しい。
大好きな漫画はたくさんあるけど、画集がほしいと感じるのは鳥山先生と林先生だけだなあ。

第18話

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書き下ろしを読んだ今だと、エスカバの激昂の理由も分かる。
単なる堅物にしか見えなかった男は、エスカバからすればウルビダの窮地を救えなかった木偶の棒に見えていたんだろう。
諜報員だらけの勇者軍からなぜ姉を守れなかったんだと。
ラルフはラルフなりに全力で姫を守っていたことを思うとすれ違いが辛すぎる。
和解へ踏み出した26話は本当に救い。

モニカ初登場。
モニカ以外のキャラは登場時にはコルレオと対等だったりコルレオより強い存在だったりする中、初めて最初から守るべき対象として登場した妹キャラ。
このキャラ付けだからこそ、後のサディコとの問答シーンで救援に入るのがモニカであることが熱い。

そしてジャンプ掲載時と比較してたゆんたゆんがパワーアップしてて草
最終的にばゆんになってるし…
コミックスに向けた修正作業をしているときに「よーし、エリシアのπを全力で揺らすぞ!」と考えた林先生のことを考えると温かい気持ちになりますね。

第19話

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心情描写の丁寧さが光る回。
飛ばした下駄に込めたモニカの心情を丁寧に掬い上げるエリシアがヒロインとしての魅力に溢れている。
この頃になると、ほとんどの読者が、コルレオの「泣き虫で強がりなところが好き」っていうエリシアの台詞に首がもげるほど頷いていたんじゃないだろうか。
傘を持ってるくせに自分のためにはさすことを考えなかったという細かな描写にコルレオの本質が見える。

47ページ(モニカ)

そんなわけで第一印象ではプイっとしていたモニカがどれほどエリシアに心を許したか分かる幕間に思わずにっこり。
四巻でミネルヴァも含めた3人でただただ楽しく戯れるエピソード見られたら嬉しいなあ。

第20話

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観覧車に乗る3人を見て幸せになれる回。
あまりに自由なポンチ君に対する「ハロハロの目指した自由って多分そういうことじゃないよ!」ってツッコミは我ながら上出来だったと思う。
魔人と人が争わないことに対するモニカの違和感、エリシアの羨望。
最終話まで読むと、この平和を当然と感じるコルレオの感覚が、魔々勇々世界全体でいかに貴重なものか分かる。

67ページ(ノンデリ)

コルレオ…全女性キャラにやるんだなそのデリカシー皆無精神攻撃…
4巻でサディコに対してもやってもらおうじゃないか。
単純に年齢を指摘する程度ではサディコはダメージ受けなそうだけど、コルレオなら無自覚にダメージを与える発言を出せそうな気がしてくる。

第21話

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この漫画、一生読んでいたいなーと思わされた回。
少年漫画の面白さにバトルがあるということは否定しないけれど、敵を能力を使って倒すこと以外の部分に面白さが凝縮されていることが多いこともまた事実だと思う。

肉体的にも精神的にもモニカに負担を与えないことを最優先に、ぶれない決意でYESと扉を叩くコルレオは、気付けばどこからどう見ても主人公。
立派になったなあ…
バトル的な描写は実質階段を昇る2ページだけなのに、相手に精神的に競り勝つ緊迫感も主人公が窮地を切り抜ける熱さも味わえる。

この展開からまさかのサイコパスみがある実年齢60超えの美女が登場するのだから、展開の引き出しが多い。
毎週どんな展開でも面白いなあと感じて読んでいたことを思い出す。

89ページ(ポンチ君)

ここは哲学的すぎて理解の範疇を超えていた。
要するにポンチ君は幸せの象徴を食い荒らすとんでもねえ奴ってことなのか・・・?

第22話

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107ページ、ジャンプ掲載時は「合格だコルレオ」だったのが、コミックスだと「いいぞコルレオ」に。
「合格」というニュアンスは、サディコが正解を知っている前提。
サディコにはたどり着けなかった答えを目指すコルレオに対する言葉としてはしっくりこないという判断だったのかな。
サディコの強さ的には「合格」という発言もそれはそれでしっくりきていたので、どっちの表現も好きです。

サディコの「君である必要はない」という問いは、言い換えれば「君の自己満足に他者を巻き込んでるのでは?」という、相当辛辣なもの。
自分がいなければ今の事態になっていない可能性があるという側面からすれば、全てを救いたいコルレオにとってはこの問いに自分一人で正面から答えるのは難しい。

だけど、コルレオが他者を守りたいように、コルレオだって他者からすれば大切な存在。
悪に対抗するために何かを犠牲にする必要はない。
この答えをエリシアとモニカの二人が出すという展開が構成として美しすぎる。
そしてそれを見て勇者の在り様をコルレオに託すサディコ。投げる勇者カードが小粋。
なんておもしれー漫画なんだ。100巻までいくのが楽しみだぜ!
ううっ…

109ページ(ホラー)

サディコ普通に性格悪いよねwww

第23話

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過去勇者が紋章術を使うシーンで考察が捗った回。考察は↑の過去感想から。
コルレオ世界でも紋章術が以前から存在したはずでは?と考えていたので、当時めっちゃわくわくしたなあ。
地震と津波の使い手って時点で単純に少年の心がくすぐられるし、ネーミングセンスもたまらん。

エリシア、モニカ、マママがわちゃわちゃやっているシーンがこれまた読んでて楽しい。
マママ、手紙を全然送ってこない息子が電話してくるたびに脳を破壊してくるの気の毒でならない。いいぞもっとやれ。
序盤、フェードアウトが残念と思っていたけど、時折登場してはフックを効かせる母ちゃん、いい味出してると思う。

129ページ(サディコ)

林先生マジで絵がうめえ。
ミドルネーム「リング」でテレビに座ってるのはまずいですって!
焦げた和紙の意味するものがわからなかった。
何かのモチーフなのかな?

第24話

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ここまで王道にヒロイン救出シーンをやってくれるか。
母に捨てられたトラウマがコルレオの救援で癒されていく。
助けてもらうミネルヴァの表情からしか摂取できない栄養がある。

「彼は君より役に立つさ」のサディコ、ジャンプ掲載時と口元がほんの少し違う。
修正前はちょっと恍惚としすぎていたからね。仕方ないね。

救出シーンが山場の回だけど、エリシアとコルレオの信頼、シンプルにかっこいいラルフレッド、圧倒的強さのコルレオと、見所満載。

書き下ろし感想

感想を書こうとして、改めて書き下ろし量の多さに圧倒された。
林先生ありがとうございます。

第25話 エクストラ(書き下ろし①)

弁当魔王掘り下げてくれるとは…!
こいつ喋んないなって連載時思ってたけど、そういうキャラだったんか。
顔で押し通すのも笑っちゃうけど、ナレーションで紋章術名まで明らかにするくせに名前を明らかにしないせいで、最後まで弁当と呼ばざるを得ないのが一番面白い。

パンネロさんの強さの秘訣は本当に鍛えただけだった。
魔王に匹敵する強さに紋章術なしでたどり着いたのはもはや異常と言っていいレベル。
平和な世界で物足りなさを感じていたのかもしれない。
目を付けたグリシャはかなり鋭い。これはクソカスハゲ。
グリシャの蒔いた寝返りの種を刈り取ったのはハロハロと同じ強さを備えつつあったコルレオ。熱い。

場面は変わってエスカバ&ラルフ&エリシアパート。
影を起点にそれを伸縮させることで攻撃できるエスカバの能力は思った以上に汎用性が高い。
服の隙間、口の中にだって確かに影はある。
閃光弾を利用するということは、光陰の差が大きいほど影から出せる出力が上がるんだろう。
連載時から思っていたけど、バトル自体にしっかり尺を取ったシーンも見てみたかったなあと改めて思わされる。
少ないコマに凝縮された情報を読み取るのも面白いし、心情描写の方の魅力に惹かれて読んでるから、贅沢な願いではあるんだけど。

エリシア、本当にいい女だなあ。
最初から最後までクプトゥラに恨み言を言わなかった。
「母親は子供の為にならどんな道でも進む」
「確かに血は通っていた」
からのエスカバに対する
「冷酷非道も道は道」
という対話スタンスはコルレオに通じるものがある。
道である以上、そこを歩むと決めた理由がきっとある。
しかし、ここまでいいシーンを重ねながらエスカバにくそみそに罵倒され、それをラルフに無表情で見詰められるというオチを担当する姿に涙が止まらない。
平静を装っているものの、最初の「ババァ」の時点ですでにライフを削られてる。

169ページ(ラフスケッチ)

服装、雰囲気、表情。
一人のキャラクターを生み出すための試行錯誤が見られて新鮮。
ここからあのグルグル目のサディコに辿り着いたのすげえ…こんな感じのラフスケッチが何枚あるんだろうか。

我々が読むことができる物語の裏に、作者が頭を悩ませ、練り込まれた設定が山ほど隠れている。
創作物を生み出す苦労に比して、それに対する感想を発信することのいかに簡単なことか。
ここまで手軽に発信できる時代だからこそ、発信する際に作者への敬意を絶対に忘れてはいけないなと思う。

第26話 どうだ(書き下ろし②)

「どうだ」のサブタイトル、もちろんウルビダのエスカバに対する、「上手くなったでしょう!」の頭につく言葉ではある。
でも、それ以上に、林先生から読者に向けてのメッセージのように思ってしまう。
「どうだ、これが自分の作品だ。」と。

恐れ入りました。最高でございます。
そもそも書き下ろす前の時点で林先生には平伏しているのに、こんなものを提供されたらどうすればいいのやら。
既に頭は垂れきっている。
感謝する以外もうできることがない。

本編の内容へ。
ウルビダ、エスカバ、ラルフの関係性がたったの数ページで明らかになっていく。
仲の良かった姉弟。
無愛想なだけで、いつかはわかり合えそうにも見える勇者と魔王。
わかり合えたかもしれない。
何事もなければ。

「お前は知りもしねェんだろうなァラルフレッド」に全ての想いが込められている。
6歳で引き離され、望みもしないのに魔王側に担ぎ上げられ、誰とも心が通じ合うことなんてなかったんじゃないだろうか。
俺が苦しんでいた間、お前は何をしていたんだ。
勇者軍は諜報員だらけ。
和平協議の場なんて暗殺の格好のチャンス。
ここに至ってしまえばウルビダの暗殺を避ける手段はない。
こうなる前に手を打てなかったのは、お前が何も考えずにただ付き従っていたからじゃないのか。

ラルフはラルフでウルビダを守るために全力で尽くしてきたはずだし、魔人と人の共生に向けた国の方針に口を出せる立場にはなかっただろう。
そう考えるとエスカバの怒りは筋違いとも言えるが、恨みを向ける先がなければ正気を保てない状態でもあっただろう。

◆考察 ウルビダを殺したのは誰?
この点、SNSでも意見が割れていたし自分も悩んだ。
作中描写からは明らかではない。
「逃げる訳にはいきません」
の直後の茎から切り落とされる花の描写は、「この決意のせいで命を失った」ことを示しているに留まり、この発言の瞬間に殺されたことまでは示していないと思う。

個人的には、ウルビダを殺したのは他の魔人で、それを見たエスカバが発狂した(タガが外れた)という流れだと思う。
魔人側に囚われ、自分が生き残るためには魔人の意に沿うしかなかったエスカバ。
更に、人間の子でもあるという立場から、魔人に逆らえば人間と魔人との関係悪化は避けられない。
ウルビダを守るためにできる最善が「何もしないこと」。
囚われた時点でエスカバの人生は雁字搦めだった。

それでも姉を失いたくないと考え、逃げるように伝えたがそれに従ってはくれなかった。
立場上、魔人側に一人で反旗を翻すほどの決意ができぬまま、生き残ることに期待をしていたが、やはりウルビダは殺されてしまった。
もう失うものはない。
我慢することで守りたかった姉の命は失われたのだから。
エスカバの人生壮絶すぎるだろ…

ラルフがエスカバを見つけたのはたまたまだったのではないだろうか。
駆けつけたラルフがエスカバとウルビダを見た時に、周囲に生きている者がエスカバしかいなかったのなら犯人がエスカバと勘違いすることも、「何故」と問うのも頷ける。
エスカバとしても、無差別に攻撃する心情になっている中恨みの対象のラルフが現れたら攻撃するのは当然だろう。
あえて「姉を殺したのは自分ではない」などと言う気はさらさら起きなかったのも頷ける。

エスカバが殺したとも読み取れる描写ではあるけど、もしそうなら「俺が魔王になっちまったから姉貴は死んだ!」は、ちょっと表現として遠いかなって気がする。

◆感想に戻ります
「だから話せ 解らなければ話す 俺はこの世界でそう学んだ」
ラルフゥゥぅぅぅ!!!!!
これこれこれ!
俺が見たかったのこれ!!
自分の意思で対話も選択肢に含めた戦いに臨むラルフが見たかった!
そりゃエスカバに勝つよ!
エスカバ目的意識ブレブレだもん!
ラルフは対話で固まってるもん!
俺たちの勇者コルレオに導かれた勇者ラルフが紋章術バトルに負けるわけなかったんや!

いやぁたまらんかった。
26話のラルフの台詞全部引用したい。
ウルビダの言葉をしっかり自分の中で咀嚼した上で、不器用に、でも自分の言葉で伝えるラルフに目頭が熱くなる。
そしてラストのコマで涙腺崩壊。
ウルビダ聖女すぎるやろ…
神漫画や!神漫画ですよこれ!!
知ってるか。知ってるよねみんな。

192ページ(エスカバ、クプトゥラ)

最後のおまけで濃い情報詰め込まれすぎて草生えますよ…
ネタバレあんまりするのもアレだからぼかすけど、潰されちゃった紹介の横でどういう感情でサッカーボール転がしてんの?とか、(42)とか、擦りやすいネタ盛り込みすぎ!

まとめ

贅沢な一冊だった…
ずっと言ってるけど、魔々勇々は間違いなく話数が進めば進むほど面白くなっていた。
つまり、3巻が今までで一番面白いのに、そこに新規書き下ろしが2話。おまけも充実。
林先生にどう恩返しをすればいいのかわからない。
とりあえず、4巻についても紙、電子の両方を買って感想記事も投稿し、この漫画が最高の漫画だったことを伝える努力をしようと思います。
ここまで書き下ろしがすごいと、4巻の感想の書き方迷うな。
もし4話も書き下ろされるとしたらさすがに記事分割か?
ともあれ、長文記事を読んでいただきありがとうございました!

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