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魔々勇々第16話感想+漫画におけるバトル描写の扱い(ジャンプ4,5号)

この記事で掲載している画像は全て2024年週刊少年ジャンプ4,5合併号「魔々勇々」(林快彦)から引用しています。著作権・肖像権等は全て権利所有者に帰属致します。

次回(17話)感想はこちら

サブタイトルは「逃げるは恥だが何とやら」
今回から記事タイトルにはサブタイトルは載せないスタイルで。

エリシアのキャラ深まったなあ…
今まで見せなかった芯の強さを見せてからのラストのギャップでエリシアの株もストップ高。
登場人物の魅力がとどまることを知らない。

くっ!前回の話が一番好きって言ったせいで今回一番好きって言ったら安っぽくなっちゃうじゃないか!
でも今回も最高だった!同率一位でお願いします!

黒閃は続きがちだからね。仕方ないね。

台詞一つ一つ取り上げて長文書けるくらい全部の台詞が熱かったんだけど、特に気に入った台詞をピックアップ。

「分かる訳ないだろ」

クプトゥラの目的が子の蘇生だと分かったことに対するここからのエリシアの台詞全部がいい。
どれを大見出しにするかかなり迷ったけど、エリシアの強さを象徴するこの否定の言葉をチョイス。
「だろ」の語尾に絶望の淵でも現実と向き合って生きてきたという矜持を感じる。

家族を失った悲しみ自体は理解できる。
分かるわけがないのは、それを受け入れず安易な希望にすがったこと。
失った命は戻らないという世の理を違える明らかな悪意に身を寄せたこと。

10年間、ただ一人を拠り所に生きてきた。
その母を失った傷は消えない。
9歳で逃げ出し、10年後に母を失ったということは、コルレオと出会ったのはアリアシアの死亡から約5年後。
5年経過してもコルレオに打ち明けたのは母を失った哀しみ。
開示する自己の中核は変わらず母。
5年間足を引きずって生きてきた。

そんな希望が見えない世界で、どんなに辛くても現実と向き合ってきた。
生きがいを見つけなさいという母の言葉を忘れずに生きてきた。

この境遇を作った張本人であるクプトゥラが、失った哀しみを受け入れず自分だけ子を取り戻そうとしている気持ちなど分かる訳がない。分かりたくもない。

「現実から逃げるな卑怯者」

現実と向き合ってきたエリシアが言うからこそ力を持つ言葉

クプトゥラの目的意識をブレさせたこのシーンは必殺技を決めるシーンより遥かに爽快感がある。
紋章は目的意識に呼応する。
人の時代を終わらせた魔王との実力差を埋められたのは、人数や戦術に加え、目的意識をブレさせたエリシアの言葉が効いたからに他ならない。

これを読むまで、正直エリシアのキャラを掴みきれていなかった。
かわいいし面白いけど、なんとなく空っぽに見えてしまっていた。
自分に芯がないから他者に生きる意味を求めるのだろうか、だからこそ、エリシアの物語はコルレオとセットなのだろうかと。

それはそれで良かった。誰かと二人でなら前を向けるというのも人の在り方の一つだから。
前回出してきたこのアンサーに納得してたしむしろ感動していた。

でも、絶望の雨に押し潰されても必死に生きてきた勇者にはちゃんと勇者としての芯があった。
残酷な現実と向き合える強さをちゃんと持っていた。
コルレオを失ったとしても、エリシアは苦しみながらもそれを受け入れるのだろう。
それをちゃんと見抜いていたコルレオがまた熱い。

「お前なんかよりエリシアのほうがずっと強ェんだよ!」

熱い!!!
俺は「誰かの隠れた頑張りとか苦しみとか本質を、それをちゃんと見ていた人が認める・称える」シーンが大好物なんだ。

ナルトに対するイルカ先生の「あいつはこのオレが認めた優秀な生徒だ」
ガッシュ無印の「清麿は、好きで天才になったわけじゃないんだぞ!」
ヒロアカオールマイトの「君はヒーローになれる」
そして魔々勇々の「誇れコルレオ お前は紛れもなく 勇者だ」

全部第一話

第一話以外でもルフィの「うるせぇ!行こう!」とかガッシュのバリーが言われた「お前は王をも殴れる男になったぞ」とか、まあ挙げればキリがない。

コルレオの今回の台詞は正にそれ。
エリシアのことちゃんと見てたんだなあ。

10年絶望の世界で逃げ続けた。
平和な世界で生きたコルレオにその心情は想像するべくもない。
だけど、その状況に押しやった、力で及ばない相手に立ち向かう恐怖はコルレオにも分かる。
その恐怖に身がすくんだせいでマママの片腕は失われたのだから。

それでもエリシアはクプトゥラを復讐の対象ではなく「哀しい魔王」と捉えた。
逃げるのではなく立ち向かい、倒すのでなく止めることを選べる勇む心を持っていた。
折れそうになったことがあるからコルレオだからこそ分かる、折れなかったエリシアの強さ。
震えながら決意を告げるエリシアは自分本意の臆病者なんかより遥かに強い。
エリシアにこの言葉聞いててほしかった!

エリシアがコルレオを好きなのはもうそりゃそうだよねって感じなんだけど、コルレオがエリシアをどう考えてるのか初めて分かるシーンがこの啖呵っていうのがたまらん。
「(俺の)エリシアのほうがずっと強ェんだよ!」の()部分が見えるくらいには完全に彼氏面してる。

バトル描写

はい、魔々勇々のバトル描写にだけは若干不安を持ってた人手を挙げて!
先生怒らないから!
ついでにクプトゥラの守り方ちょっとワンパターンかなって思ってた人も手を挙げて!

はい!ぼくですごめんなさい!

ごめんなさい林先生。
氷自由に出せるなら「壁を作る」じゃない避け方あるんじゃない?カウンターで攻撃できるんじゃない?っていうスルーしてもいいくらいの違和感が実は弱点だったっていうのが、予想の上を行かれて大変気持ち良かったです。
現状を打破するのではなく、自分が傷つかない手段を常に選ぶ臆病さが弱点だった。
壁を作ることがわかっていたからその壁を破壊すれば隙ができる。

更に、「コルレオ、お前その斬撃壁じゃなくてクプトゥラに撃ったほうがはやくね…?」ってのも
①エリシア自身が決着をつけたい
②自身が攻撃された場合の壁を作る反応の早さから、直接攻撃だと斬撃も阻まれる可能性あり
ってことで壁を張って安全地帯になりかけたエリアをコルレオが遠距離から壊して隙を作り、エリシアが殴るのはちゃんと心情的にも戦略的にもベスト。

漫画におけるバトル描写の扱いについて

と、バトル描写も完璧!ってことをここまで書いたけど、実は個人的にはバトルだけが面白くてもそこは漫画の面白さの本質じゃないと思ってる。能力バトルは好きだけど。
バトルの面白さだけで展開を引っ張るのはハンターハンターレベルじゃないと厳しい…というかそんな漫画はハンター以外思い付かない。ハンターはバトル以外も常に全開で面白いけどさ。
ワンピースですらバトルそのものに強い魅力があるわけじゃない。
究極的には当たったパンチで相手が倒れるかどうかなんて作者の匙加減。
もちろんその案配が、事前に提示された条件にカチッとはまっていたときの面白さはあるんだけど、外れたときの面白さもある。俺は日車の術式が呪具に適用されたの面白かったよ。
結局はバトルを通じてキャラの強さ、知力、魅力、絆や壁を乗り越える姿が見えるのが面白いのだ。
動きのある絵が好きってニーズがあるのはもちろん知ってる。サカモトデイズとかカグラバチのバトルシーンはかっこいいけど個人的にはそこに重きを置いてない。

そういう意味で、今回のバトルはコルレオとエリシアの信頼関係と絆が見える最高の展開だった。
「止める」と決意していたはずのエリシアが前回コルレオに最初に提案しかけたのは逃げること。

前回

止めるという決意に立ち返らせたのはコルレオの熱さ。
凍った体は炎で溶かし、震える心は決意で燃やす。
二人の目的意識はもうブレない。
臆病なクプトゥラの目的意識をブレさせたのは二人の言葉。
紋章術バトルを通じて魔王に対して勇者二人が強さを見せる。
臆病さを指摘しながらのクリーンヒットで心も折る。
これ以上ない面白さ。

「だってコルレオ君が俺に従えなんて言うハズないもん」

コルレオ君の前に(私の)入ってますよね!
早く結婚しろ!
バトルだけでお腹いっぱいなのに最後にこんなの持ってくるんだもんなあ…

そのデレは俺に効く。
ツンデレではないんだよな。ツンツンなんて一度もしてないから。
かといって、毅然とした強さがベースのキャラが見せる弱さというか甘えが良いかというとそれも違う。
めだかボックスのめだかちゃんの凛デレとも言うべきスタイルは特に刺さらなかった。
元から弱さを見せた上で主人公を慕ってるキャラが、強さを見せてからもう一回いつもどおりに戻るのがいいんだな。
柔らかな印象の子が強さを持ってることを知って見直すけど元のスタンスに戻ってほっとした上で「この子にはこんな強さもあるんだな」って思うのがいいんだな。
うん、「この女の子がこういう理由で良い」って真面目に文章にするとこんなにキモいんだな。

とりあえず、どの角度からなにをどう見てもエリシアが正ヒロインだということを示してもらえた最高の回でした。

まとめ

自分で言うのもなんだけど、最近の感想記事は自分で読んでもなかなか面白い(直前のエリシア分析部分は除く)
もちろんこれは文章力があるとかじゃなくて、行間を読み込ませる漫画という媒体を生かしての表現力と、状況をコンパクトにまとまった熱い台詞に落とし込む林先生の手腕によるもの。
行間を補うスタイルの感想記事を書けば、アウトプットされるものは違っても、誰が書いても面白くなると思う。
それくらい最近の展開は神がかっている。
一コマ一コマを大切にする、漫画という媒体を最大限に生かした無敵の作品だと思う。
今週も面白かったなあ。
アンケ忘れずにいれましょう!

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◆特別編 魔々勇々の魅力


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