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「家族介護者支援について、改めて考える」⑱「相談」へのハードルを下げること。

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 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

家族介護者の支援について、改めて考える

 この「家族介護者の支援について、改めて考える」では、家族介護者へ必要と思われる、主に、個別で心理的な支援について、いろいろと書いてきました。

 ただ、当然ですが、「家族介護者支援」ということを考えた時に、そこには、様々な幅の広い要素や、今まで少しは知っていたつもりだったことに関して、実は、とても考えが足りないことに気がつかされることもあります。

 今回は、ある本を読んで、改めて、考えたことがありました。

相談窓口の利用率

 私は、臨床心理士の資格を取得してから10年目を迎えます。公認心理師は、5年目になります。

 私が働いている場所は、「介護者相談」など限られていますが、基本的には、相談窓口や、クリニックや、スクールカウンセラーとして働いているとしても、心理士(師)は、そういった場所で、面接や相談に訪れる人を待っているのが基本姿勢で、こちらからセールスのように伺う、といったことは行わない仕事ではあると思います。(いろいろな考え方もあるかと思いますが)。

 ただ、例えば、相談窓口などを設置しても、その利用率が、それほど高くないことは、ずっと気になっていました。

働いている人の約2人に1人において精神的健康度が低く、うつ病や不安障がいなどの精神疾患を発症するリスクが高いことが判明。そのうち、コロナのまん延以降、ストレスや悩みが増加したと回答した人は6割であった。

特に新型コロナウイルス(以下、コロナ)のまん延以降にストレスや悩みが増加した人は、長く企業に勤め、テレワークを定期的に行える環境におり、同居者もいる40-50代であった。生活が安定しており社会的に成功しているように見える人々において特にストレスや悩みが増加していることが明らかとなった。

一方、このような人々の相談窓口の利用率は3割程度と低く、サービス・ギャップ(注1)が生じている。相談内容が周囲に漏れるのではないかという不安や相談窓口に携わる専門家やそこで実施される内容が分からないことによる抵抗感、そして相談窓口に対する認知率の低さなどの心理的要因が影響している。

 この調査でも、では、どうすればいいか?という点にも触れています。

実際には相談窓口だけではなく、呼吸法などのセルフストレスケアや上司や同僚といった身近な人への相談など、状況に応じたさまざまなケアがある。しかしながら、従業員が自身に合うメンタルケアを選択することは難しいことが想定される。どのような場合にどのケアを選ぶとよいのか、従業員の意思決定をサポートするガイドを作成することも有効だろう。

さらに40-50代の”社会的成功”者は、これまでメンタルヘルスを相談することが当たり前ではない上に、今まで上手くやってきた自分が不調になるという状況に置かれて、認知的なギャップ(認知不協和)が発生していることが考えられる。安心して気軽に相談することができるという「心理的安全性」を担保することが重要である。

 相談窓口がどのような場所なのか?きちんと秘密を守れるか?何より、相談窓口の存在を知ってもらえるような告知が十分なのか?

 そうした基本的なことが、まず出来ているかどうか。が大事なのだろうとは思いました。

調査

   内閣府男女共同参画局の調査でも、こうした結果が出ています。

第2章 調査からみえた課題と今後の方策
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/chiiki_sodan/pdf/chapter2.pdf

 6割の人が悩みをひとりで抱え込んだことがある。

 WEB調査で、悩みや困りごとを解決できずにひとりで抱え込んだ経験の有無をたずねたところ、6割の人が「ある」と回答している。ひとりで抱え込んだ内容としては「仕事」、「恋愛」、「健康」の問題が多い。

 これ自体の変化、つまりは「ひとりで抱え込む」ことを変化させることを考えるとすれば、おそらくは相談窓口を増やしたりするだけではなく、もっと広く価値観などの再検討が必要かもしれませんが、現時点での課題も、もちろんあります。

 44人に一人が相談先を思い浮かべることができない

WEB調査によると、4人に一人は悩みを解決するために思い浮かべる相談機関・人が「特にな い」(思い浮かばない)と回答している。また、思い浮かぶ相談機関・人の内訳をみると「イン ターネットの相談サイト」、「病院・医師・カウンセラー」、「区市町村の役場の窓口」、「弁護士・裁 判所」が2~3割程度、それ以外の項目は1割台かそれ以下の回答であった。また、女性のほう が思い浮かべる先が多く、男性では思い浮かべる先として挙げられるのが、労働関係法令を扱う 「労働局」、税・会計関係を扱う「税務署・税理士」などであり、仕事関係と思われる。

 こうしたことについては、自分自身も含めて、どうすれば、もっと多くの人が、困った時に、「相談機関」を、少なくとも思い浮かべてもらえるかどうか。を考えていくというのは、実際の相談の質を上げることと共に、大事なことだと思います。

望まない孤独

 まず相談をしてもらうには、どうしたらいいのか。そのことを、改めて考えさせられた書籍がありました。

 例えば、著者自身が、子どもの頃、「児童訪問援助事業」を利用しようとして、それが「1件」しか使われていないのを知ります。

せっかく勇気を出して相談しようと思っても、相談までの道のりが長く、また必ず親の関与があるこの事業は、ひとり親家庭の子どもを救うために有効とはいえない。

 すでに自分も支援の専門家の一人なので、無責任に言えなませんが、相談窓口を設置するだけでは足りないのは、切実に必要な人ほど強く感じるのだと思いました。

残念ながら、現在の日本では、スティグマ対策という政策概念すら存在していない。責任ある立場の人を含めて、すべての人が「頼ることは弱いことだ」「誰かに相談することは負けである」といったスティグマを感じない社会にしなければならない。 

いまの社会に根づいているこの自己責任論とは、「己の人生の責任はすべて自らが負うべきである」という考え方に基づき、不本意な結果への責任を懲罰的なやり方によって負わそうとするものである。この考え方は次第に「自業自得」という考え方へと変換されていく。結果への責任と行動への責任とが混在し、仮にネガティヴな結果が生じたとしても、それは個人が選択して行動した結果として起きたことであるため、社会の構造や環境要因に責任を求めるのは違うというわけだ。

この懲罰的な自己責任論はいま、家庭内にまで蔓延し、多くの子どもたちを自己否定ループへと追いやっている。 

 相談をする際には、こうした社会全体の価値観や環境のことも視野に入れる必要があるのは本当ですし、こうした指摘はとても的確だと思います。そして、そうした著者が、さらに言及しているのは、やはり責任を感じることでもありました。

1995年に全国で立った154か所しかなかったスクールカウンセラーの配置は、2020年には3万か所を超えた。25年で約200倍に増加したのだ。しかしこの間、小中高生の自殺者数は3・6倍に増えた。このことについて、国会や有識者会議等では一度も議論されていない。NPO運営者の58・8%が65歳以上の高齢者だが、現場で活躍しているからといって、自分だけは「子ども目線」に立っていると信じ込み、実態とかけ離れた取り組みや提言を行っている支援団体も残念ながら数多く存在する。

 私自身は、スクールカウンセラーの経験はありませんが、もちろん知り合いの臨床心理士や公認心理師には、今もスクールカウンセラーとして働いている人たちもいますし、そうした方々が、週に1度の勤務形態の中で、様々な困難な状況もありながら、ベストを尽くしているのは知っています。それで、確実に、子どもたちの心理的なサポートにも、つながっているとも思っています。

 それでも、スクールカウンセラーが学校に存在するのが自然な世代が、大人になった時に、聞いたことがあります。子どものころ、スクールカウンセラーがいるのは知っていた。だけど、相談すること自体が恥ずかしくて、そして、その相談室のような場所は、学校の隅にあって、そこに行くのを見られること自体も嫌なので、行かなかった。そんな話を聞くと、スクールカウンセラーを配置すると共に、もっとやるべきことはあるのだと、改めて思います。

 相談のしやすい社会にすることと、例えば、それぞれの場所で、相談へのハードルを下げていくことを、どうしていくか?は、常に考えていかなくてはいけないと思います。

 同時に、スクールカウンセラーがどのようにあるべきか?も、心理士(師)の一人として、とても微力で、直接関わっていないので偽善的かもと思いながら、責任も感じます。

介護者相談

 私自身が家族介護者のとき、介護をする側にも、個別で心理的なサポートが必要と考え、それで、臨床心理士の資格を取りました。(のちに公認心理師の資格も取得しました)。

 同時に、幸いにも、首都圏の某区で、「介護者相談」を始めることができました。その相談の中で、介護者の心理的なサポートが少しでもできるようにと思い、考え、自身の力も少しでも伸ばそうとして、相談業務に関わってきて、10年目になります。

 当初は、その相談のハードルを少しでも下げるために、「匿名相談でも可」という文言も、チラシに入れていただいたりもしました。

 とてもささやかですが、少しでも支援の実践はしてきたとは思うのですが、「介護者相談」の仕事を始めた時に、同時に目標にしていた、他の行政区でも「介護者相談」の窓口を開いてもらうために、社会に向けて「介護者相談」の必要性も伝えることも、さらに、ささやかですが、おこなってきました。

 もちろん、自分だけが、そのようなことを試みているわけでもないのでしょうが、基本的には、自分の力が、あまりにも無力なために、「介護者相談」の窓口は、この10年では、ほとんど増えていません。(ちなみに、地域包括支援センターなどで行われている「介護相談」は、主に要介護者が、適切な介護サービスを受ける目的のためだと考えられますので、介護者の心理に焦点を当てた「介護者相談」とは、時に重なるとしても、かなり違う相談だと思われます)。

 このnoteも、「介護」への理解を広めることと、主に家族介護者への個別で心理的なサポートである「介護者相談」の必要性を少しでも理解してもらうために、続けています。


 それでも、現在の「介護者相談」を、どうすれば、もっと利用者にとって、利用しやすくなるのか?さらには、どのようなことをすれば、「介護者相談」の必要性を理解してもらい、実際に相談窓口を開設してもらえるのか?といったことは、もっと考えていく必要があると、改めて思いました。





(他にも、介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




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