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「介護booksセレクト」⑱『認知症世界の歩き方』

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護books セレクト」

 当初は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、「介護books」として、毎回、書籍を複数冊、紹介させていただいていました。

 その後、自分の能力や情報力の不足を感じ、毎回、複数冊の書籍の紹介ができないと思い、いったんは終了しました。

 それでも、広く紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活し、継続することにしました。

 今回は、かなり話題になった本です。
 その「分かりやすい」と言われる表現方法に、個人的には、抵抗感を覚えたりもしたのですが、それでも、読む人が読めば、理解の深さが違うかもしれないと思い、紹介させてもらうことにしました。

「認知症世界の歩き方」 筧裕介

 「認知症」の症状というものを、「わかりやすく」表現しようとすることは、これまでも、いろいろと試みられてきたと思います。

これまでに出版された本やインターネットで見つかる情報は、どれも症状を医療従事者や介護者視点の難しい言葉で説明したものばかり。肝心の「ご本人」の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた情報が、ほとんど見つからないのです。そこでわたしたちは、ご本人にインタビューを重ね、「語り」を蓄積することから始めました。それをもとに、認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、だれもがわかりやすく身近に感じ、楽しみながら学べるストーリーをつくることにしました。

 この著者の方は、こうした経歴を持つ人です。

1975年生。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。慶應義塾大学大学院特任教授。2008年ソーシャルデザインプロジェクトissue+design を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。2017年より認知症未来共創ハブの設立メンバーとして、認知症のある方が暮らしやすい社会づくりの活動に取り組む。

 これまでの情報に関して、『どれも症状を医療従事者や介護者視点の難しい言葉で説明したものばかり。肝心の「ご本人」の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた情報が、ほとんど見つからないのです』といった表現には、自分自身も、無関係ではないですし、同時にまだ力が足りないことも感じ、さらには、ご本人の視点から書かれた書籍も数多く出版されているので、「ほとんど見つからない」という書き方には、正直、やや抵抗感もありました。

「わかりやすさ」ということ

 わかりやすくするために、章立てにも工夫がされていると思います。

乗るとだんだん記憶をなくす「ミステリーバス」
→自分のしたことを忘れてしまうのは、なぜ?

・だれもがタイムスリップしてしまう住宅街「アルキタイヒルズ」
→あてもなく街を歩き回ってしまうのは、なぜ?

・イケメンも美女も、見た目が関係ない社会「顔無し族の村」
→人の顔がわからなくなるのは、なぜ?

・熱湯、ヌルッ、冷水、ビリリ。入浴するたび変わるお湯「七変化温泉」
→大好きだったお風呂を嫌がるのは、なぜ?

・時計の針が一定のリズムでは刻まれない「トキシラズ宮殿」
→コンロの火を消し忘れてしまうのは、なぜ?

一本道なのになかなか出口にたどり着かない「服ノ袖トンネル」
→同じ服ばかり着たがるのは、なぜ?

・ヒソヒソ話が全部聞こえて疲れてしまう「カクテルバーDANBO」
人の話を集中して聞けないのは、なぜ? etc...

 こうした章立てに分かれていることによって、分かりやすくなるといえ、実際に認知症の介護に関わっている時でしたら、「旅行」という一時的な行為に例えられることも、少し辛い表現ではないだろうか、とも思いましたが、それで理解しやすくなる、ということもあると思えたのは、テレビの番組になった時でした。

 テレビ番組として、その「旅行」がアニメとして表現されると、その「認知症世界」へ入り込みやすいですし、その合間に、「ご本人」や、関係者の方々の話も映像として映っているので、より理解が深まりやすいと思いました。

具体的なこと

 何より、認知症の「ご本人」の方々に聞いた、具体的な「困りごと」は、それほど広く知られていなことも多く、とても貴重な言葉だと思いました。

 例えば、同じ空間に目的地があったとしても、「ご本人」の視界から消えてしまうと、それが、ごく短い時間であっても、わからなくなることが多いということも、改めて、確認できたような思いになりました。

ですから、認知症とともに生きる世界では、視界を遮断しない生活空間づくりが大切です。

 さらに、その視覚的な感覚にもついても、こうした描写があります。

電車とホームの間がものすごく広く感じ、まるで深い深い谷底まで続いているかのような、大きな隙間があった。

 これは、2次元情報から、脳が3次元情報に変換するところに、何らかのトラブルを抱えているという原因があるのでは、という指摘でした。そして、それと関連しているのかもしれませんが、外を歩くと、こんな経験をしている人もいるのを知りました。

歩くたびに歩道の地面がぐねぐねと動く  

 これは、とても怖いことなのは、分かる気がします。

入浴について

 認知症の人が、お風呂に入りたがらない。
 そういう話を聞くことが少なくありません。それについては、服を脱いで、風呂に入り、といった行為が難しくなっていることは想像し、その困難が、どうすれば少しでも減るのだろうか、といったことは、よく考えます。

 もちろん、個別の違いはあるにしても、やはり、お風呂に入りたくない方に、入ってもらうのは難しいと思っていますが、その点についても、この書籍では、こうしたことが書かれています。

身体感覚のトラブルで極度に熱く感じる、浴槽に入るとぬるっとした不快な感覚があるという方もいます。

 この情報を知ると、通常は、気持ちいいはずの入浴行為が、不快感になってしまうのですから、それは嫌な経験になり、お風呂に入りたくない、という気持ちも、少し理解できるような気がします。

「自分の中ではお風呂に入ったばかりだ」という時間感覚のズレ 

 さらに、そう思っているところに、お風呂をすすめられたら、当然のように拒否をしてしまうでしょう。

 やはり、その難しさを改めて知った気がしますが、これまで分からなかった「理由」も語ってもらっているので、考える選択肢は増えたと思えました。



 今回、紹介した『認知症の世界の歩き方』は、その人の状況によって、読み方も変わってくると思いますが、もし、興味を持ってもらえたら、手にとっていただくことを、おすすめします。特に、まだ認知症に関して、縁遠いのですが、興味を持っている方に、おすすめできるように思います。



(こちら↓は、電子書籍版です)。




(他にも、いろいろと介護について書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



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