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介護の言葉㉚「引き出す」

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることが出来ています。

 初めて、読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士・公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


「介護の言葉」

 この「介護の言葉」シリーズでは、介護の現場で使われたり、また、家族介護者や介護を考える上で必要で重要な「言葉」について、改めて考えていきたいと思います。
 時には、介護について直接関係ないと思われるような言葉でも、これから介護のことを考える場合に、必要であれば、その言葉について考えていきたいとも思っています。

 今回は、一般的な単語でありながら、支援の現場で比較的多く使われる言葉を、改めて考えたいと思いました。

支援職

 私自身は、臨床心理士になったときも、公認心理師の資格を取得した時も、支援職の一員になった気持ちがありました。

 そして、もちろん仕事を依頼されれば心理士(師)として、自分ができる限りは、それに対して、どんな分野でも全力で取り組むつもりでしたし、そのように仕事をしてきたと思っています。

 ただ、これは、ある意味で狭い考えなのかもしれませんが、私が心理士(師)になった目的の一つは、介護者の中でも、特に家族介護者の心理的支援を仕事にしたいということでした。

 それに加えて、大学院で学んでいるときも、その後、心理士(師)として仕事をしている時間の中でも、これだけ介護のことが語られるようになりながら、家族介護者への個別の心理的支援の必要性に対して、社会の関心が薄いことも感じてきましたので、自分自身が、幸いにも、介護者への個別な心理的支援の仕事を始めて、続けることができているのですが、それに加えて、生意気かもしれませんが、「介護者への心理的支援」の必要性と重要性も、機会があるごとに伝えていく、こともしてきました。

 同時に、私としては、当たり前のようになってしまった心理的支援、というものの必要性自体が、場合によっては、あまり分かられていないのではないか、ということも気がつくようになりました。

 特に、介護の現場では、その傾向がまだ強いような気がします。
 それは、介護のことを考えたら、当然かもしれない、とも思います。

他職種との連携

 介護の相談といえば、今は真っ先に名前があがるのが「地域包括支援センター」で、そこで介護相談が行われています。

 介護が必要になったとき、どうすればいいかわからないとき、その具体的な介護の方法について、相談をし、一刻も早く介護の体制をつくり、そのことによって、介護が必要な人(要介護者)にとって、少しでも快適な環境をつくることが優先されるはずです。そのことで、介護者の負担も減らす、という順番になっているのだと思っています。

 そのとき大事なのはスピードではないでしょうか。

 それも当然で、介護が必要な人(要介護者)は、今までのように元気でなくなったから、介護が必要になったわけで、それで、誰かに支えてもらわないといけないから、介護認定を受けて、要介護の判定が出ているはずです。だから、すぐにでも介護体制を整えなければいけないと思います。

 心理士(師)として、介護の現場で働くとき、他の資格を持った職種の方と一緒の時も、もちろんあります。それは、「他職種との連携」と言われています。ただ、その言葉は、事実かもしれませんが、個人的には微妙な違和感があります。

 それは、もしかしたら勘違いかもしれませんが、少し偉そうに響くことがあるからです。だから、自分の中では「他職種との連携」ではなく、単純に「一緒に働く」という言葉を使っています。

 同時に、職種によって、仕事への姿勢の違いはやはりあるのだと思います。

 私が時々感じるのは、そのスピードに関することでした。

スピード

 福祉の専門家にとっては、もし、一緒に仕事をしたことがなければ、心理士(師)は、何をしているのか、よくわからない戸惑いがあるのではないか、と感じていました。

 それは、気持ちに焦点を当てる、という作業は、スピードが大事な他の職種の方々にとっては、なんだかぐずぐずしているように思われているのではないか、と感じることはあったからです。

 話を聞くのでも、なるべくこちらから言葉をはさまずにずっと聞いていて、場合によっては、その言葉が繰り返されているように感じても、とにかく聞き続けています。それは、人の気持ちというのは、あいまいで、わかりにくくて、もし、それを言葉にするときには、とても時間がかかることがあるからです。

 そんな姿勢は、やはりスピード感に欠けるものに映るのだろうなとも思っているのですが、仕事を続けているうちに、そうした方法は、より身についてきたようにも感じています。

引き出す

 そんなことをふと感じるのは、言葉に対しての気持ちが、他の職種の方々と違うのかもしれないと思う時です。

 様々な勉強のために、講座などに出ることはあるのですが、支援に関することがテーマだったので、支援職と言われる方々が多かったことがありました。

 そして、その中で質疑応答の時間があって、その方の支援の現場での悩みについての話題になり「本音を引き出すには、どうすればいいでしょうか?」という言葉で、質問は区切られました。

 反射的に「引き出す」は違うのではないか、と思っていました。

 もちろん、それが善意によっての言動なのはわかっていますし、自分の感覚が絶対だとも思っていません。だけど、気持ちに関して、それがどんな思いであっても、「引き出す」は、やっぱりやや乱暴で、だから、「引き出」された側は、その方法がどんなに巧みであっても、その相手が傷つく可能性があると感じてしまったので、違和感を抱きました。

 本音、という言葉に対しても、本音、という言葉にパッケージされた感じがあって、その言葉を使うことによって、その人の本当の思いから、実は少しずれていく可能性も感じます。(考えすぎかもしれませんが)。

 それよりも、相手の気持ちが傷つく可能性があるのですから、「引き出す」という支援側の言葉ではなくて、相手の本当の思いを話してくれるまで待ったりするために、しばらく一緒に黙って、できたら、そばにいさせてもらう、といったことが必要なのではないか、と思っていました。

 「うまく引き出す」のは、効率も良さそうだし、スピードが大事な時には、つい使ってしまいそうになる方法だとは思いますし、それを責めたり、間違っていると判断することもできません。緊急の場合によっては、その方が有効なこともあるはずです。昔は、自分も、そうした方法を使っていたと思います。

 ただ、やはり「引き出」された気持ちは、傷ついてしまうと思いますし、場合によっては、支援を受ける側の人が、目の前にいる相手のことを考え、こんなに真剣に助けようとしてくれているのだから、と思って、少しでも早く、本当の思いではないかもしれないけれど、それに類似したものを差し出してくれる可能性まで考えてしまいます。

 だから、結果として、もし、それが支援の場であったのならば、新たに傷つく機会になることもあり得ますし、類似した気持ちは、本当の思いではないので、結局は、それに基づいた支援は違ってしまうこともあるかもしれません。

 普段は、ここまで詳細に考えてはいないのですが、「引き出す」という言葉は、使わない、というよりは、特に仕事の時は、あまり使えなくなりました。

 これはもちろん私だけではなく、心理的支援に関わる仕事をされている方であれば、かなり共通する感覚ではあるとも思っています。もちろん、この感覚を押し付けたり、これが絶対に正しいと主張する気もありません。

 ただ、もし支援職の方が、この文章を読んでくださっていて、何かうまくいかない、といった時には、こうした感覚について考えてもらってもいいのかもしれないと思い、今回の記事を書きました。

 もちろん、様々な見方があると思いますので、ご意見や質問などございましたら、コメント欄でも伝えていただければ、ありがたく思います。

 よろしくお願いいたします。



(他にも、いろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




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