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『「介護時間」の光景』(125)「箱」。9.12.

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


「介護時間」の光景

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。

 それは、とても個人的なことに過ぎませんが、それでも家族介護者の気持ちの理解の一助になるのではないか、とも思っています。


 今回も、昔の話で申し訳ないのですが、前半は「2001年9月12日」のことです。終盤に、今日「2022年9月12日」のことを書いています。


(※この「介護時間」の光景では、特に前半部分は、その時のメモをほぼそのまま載せています。希望も出口も見えない状況で書かれたものなので、実際に介護をされている方が読まれた場合には、気持ちが滅入ってしまう可能性もありますので、ご注意くだされば、幸いです)。


2001年の頃


 ずいぶん前の話ですみませんが、1999年に母親に介護が必要になり、私自身も心臓の病気になったので、2000年に、母には入院してもらい、そこに毎日のように片道2時間をかけて、通っていました。仕事もやめ、帰ってきてからは、妻と一緒に、義母(妻の母親)の介護をする毎日でした。

 入院してもらってからも、母親の症状は悪くなって、よくなって、また悪化して、少し回復して、の状態が続いていました。

 だから、また、いつ症状が悪くなり会話もできなくなるのではないか、という恐れがあり、母親の変化に敏感になっていたように思います。

 それに、この病院に来る前の病院で、いろいろとひどい目にあったこともあって、医療関係者全般を、まだ信じられませんでした。大げさにいえば外へ出れば、周りの全部が敵に見えていました。

 ただ介護をして、土の中で息をひそめるような日々でした。それが2001年の頃でした。

 それでも、毎日のようにメモをとっていました。


2001年9月12日

『日曜日は休んで、月、火は台風で3日も病院に行かなかった。

 アメリカのテロのとんでもない映像を何十回も見た。

 ひどいことがあって、不安でも、駅はいつもと同じだった。
 川の木が台風で倒されているようだけど、そんな話題はどこへ行ったのだろう。

 横浜トリエンナーレが始まっていて、電車から見えていたホテルに止まっている大きなバッタはどこかへ行ってしまったのだろうか。

 午後4時半頃、病院に着く。
 母はいない。
 トイレに行っているみたいだ。

 午後4時40分頃に戻ってきた。

「花も全部捨てて」
 急にそんなことを言う。
「かすみ草だけあっても、寂しいから」

 それから、台風のことを少し伝えた。
「今日、金曜日?台風来たの、ぜんぜん、分からなかった」

 アメリカのテロは知っていた。ニュースで見ていたらしい。

 さらに、台風のことは分からなくても、雨が降っていたことは思い出した。
「一日中、降っていたわ」。

 夕食は、午後5時20分で、いつもよりも少し早いので、慌てて、部屋の外へ行く。

 でも、母はゆっくりと食べて、終わったのは午後6時20分で、周りの人はみんな食べ終わっていた。

 大丈夫かな、と思う。
 すぐにトイレへ行く。15分経っても、戻ってこないので、心配になって声をかけたら、出てきたけれど。

 今日は午後には敬老会があって、子どもたちがきたらしい。

 そのことを話すときは、母は笑っていた。

「ちっちゃい子が来て、動いていて、おもちゃみたい。
 ああいう時、あったんだなって」

 私や弟のことを思い出したらしい。

 午後7時過ぎに病院を出る。

 バス停までの道でバッグの部品を落とす。
 真っ暗な道で落としたので、どこに行ったのか全く分からない。

 昨日、友人に、ここ何年かの介護のことを話したら、言われた。
「お母さんを愛しているのね。いい、お母さんだったのね」
 その言葉が、なんだか頭の中で反復する。
 
 そうだろうか。
 今の状況で、なんとか誰も不幸にならないように考えたい。
 それだけを思っている』。


 駅のホーム。その下には、向かいから見ると、いつも小さなプラスチックの看板が出ている。

 今日は、それがはずされていて、そこが長方形の穴になっている。真ん中に金属のボルトの頭が見え、あとは中はキレイに黄色に塗られている。

 アート好きになってから、作品に見えるようになった。ミニマルアート(何の素っ気もないように見えるけれど、完璧な比率の箱を作ったりする)のドナルド・ジャッドを思い出した。

                 (2001年9月12日)


 それからも、その生活は続き、いつ終わるか分からなかったが、2007年に母が病院で亡くなり「通い介護」も終わった。義母の在宅介護は続いていたが、臨床心理学の勉強を始め、2010年に大学院に入学し、2014年には臨床心理士の資格を取得し、その年に、介護者相談も始めることができた。

 2018年12月には、義母が103歳で亡くなり、19年間、妻と一緒に取り組んできた介護生活も突然終わった。2019年には公認心理師の資格もとった。昼夜逆転のリズムが少し修正できた頃、コロナ禍になった。


2022年9月12日

 ご近所の方が引っ越すことになった。

 何軒もの人たちが、何十年も一緒に生活してきたから、細かい変化もあって、その調節のために、妻と一緒に、何人かの方達と話をした。

 こういうこと自体が、あまりない。
 それが暮らしていく、ということなのだと思う。

インターネット

 すでに珍しくなっているのだと思うけれど、うちには固定電話しかなくて、さらにインターネットは使っているが、ADSL方式だった。

 ルーターも買取で使ってきたのだけど、2023年1月には、このサービスが終了になってしまう。違う方式に変えないと、インターネット自体が使えなくなる。

 それは知っていたのだけど、そのことに関してセールスの電話が多かったのは、一昨年くらいがピークだったと思う。
 電話が鳴る。
 受話器をとると、会社の名前らしきものをやや早口で名乗ったあと、「今、現在お使いのADSLは終了します」という言葉で始まることが多かった。

 それは、まるで、来月にも終わるような口調に聞こえることもあった。

「知っています。2023年の1月末ですよね」

 そんな返答をしても、今なら変更してもお得といった言葉が続くのだけど、その度に「ルーターも買い取りましたし、ギリギリまで使いたいと思っています。ですから、2022年になったら、自分で調べて、電話しようと思っています」と続けたら、だいたい会話は終わった。

 そんな繰り返しが何十回もあって、そして、今年になってからは、そんな電話はほぼなくなって、いよいよ自分で調べることになった。

 7月末に電話をして、最初は、今の時期でも、契約を決めてから工事などをして開通するまでに1ヶ月くらいだから、来年までには間に合いそうなこと。さらに、一度はダメだと思っていた条件が、同じ会社に再び連絡したら、大丈夫らしいとわかった。

 じゃあ、もう少し後でもいいと思っていたら、1ヶ月が経った。
 
 だから、問い合わせのメールを送り、返答と共に、よろしかったら、こちらから連絡をします、と書いてあったので、第一志望から第三志望まで書いて返信をした。

 それで、電話を待っている。だけど、今日来るとは限らない。

 微妙に落ち着かない。

図書館

 図書館の予約は、いつも12冊の上限ギリギリまで使っていることが多く、そして、予約順位が「1」になっても、なかなか「用意できています」というメールが来ないこともある一方で、予約順位がまだ二桁に近いのに、所蔵数のバランスによっては、急にお知らせメールが来ることがある。

 だから、そろそろ、などと思っていても、次の予約も入っているような図書があると、取り置き期限は一週間だから、自分の予定よりも早く、図書館に行くことになる。

 できたら、二週間に1度は図書館に行くのだから、そのタイミングに合えばいいのだけど、場合によっては、行ったばかりの時に「用意できています」というメールが来て、予定よりも一週間早く、また出かけることになる。

 ただ、図書館は無料で、しかも予約まで受け付けてくれて、だから、いつも読みたい本を読めるという、とてもありがたいシステムなので、文句を言えることでもないが、それでも、時々、ちょっと残念な気持ちにもなる。

 今回は、予定より2日ほど早くなって、だから、いつも読んだ本は内容を一応メモをするので、あわててメモって、そして、今日、返却をして、また届いた本を借りる予定になっている。

 だから、インターネットの電話が来ないのが、余計に焦る。

 午後4時半に電話が来た。

 緊張しつつ、話をして、なんとか納得したので、契約することにするまで、約30分。

 それからバタバタして、図書館へ行って、帰りにスーパーに寄って帰ってきたら、午後6時半くらいになっていて、もう暗くなっていた。

 やっぱり日が短くなってきたと思う。





(他にも介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



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