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就労支援日記㉑~就労支援は交響する~

『希望の教育学』という本がある。

著者は教育実践家として名高いパウロ・フレイレ。

長年の愛読書のひとつである。

その一節にこんなことが書いてある(手元にその本がないので、表現は少し異なっているかもしれない)。

“教育者が、いま行っている教育の実践が、これからの社会変革へとつながっているという確信がなければ、そもそも教育という行為は成り立たないのではないか”。


この一節が、とりわけ僕にとって特別の意味合いをもつようになったのは、とある出来事を経てのことだった。

以前お世話になった運送会社の支店長さんから、突然電話があった。

恐縮しながら無沙汰を詫びると、“俺、今度静岡の支店に移動になったのだけど、静岡にも風の丘みたいなとこ、あるの?”とおっしゃる。

ありますよ、とお答えし、その手続きなどをお伝えした。

すると支店長さんが、しみじみと語り出した。

“Wくん(風の丘の男性利用者さん)のときみたいに、1人の人を多くの人で支えていくという、あれすごくいいなと思ったの。職場のスタッフにもWくんのことをわかってほしいと思ったから、職場のみんなともいろいろ話してさ。あんなことしたの、初めてだったもの。それで驚いたんだけど、Wくんに来てもらうようになってから、職場の雰囲気が変わったんだよ。それまではいろいろあった職場なんだけど、ギスギスした雰囲気がなくなってきたというか。だから、次の職場でもやりたいと思ってさ”。


電話を切った後、なんだかわからないけど、事業所内をウロウロと歩いた。

利用者さんや職員から、“?”、という視線を浴びながらもなぜか足が止まらなかった。

そのときふいに頭をよぎったのが、あの冒頭に掲げたパウロ・フレイレの一節。

障害者支援の現場と社会の変化が、すっとつながった瞬間だった。


この話をWさんに話す。

そして、Wさんがそっと語り出す。

“確か当時の副支店長さんの息子さんに障害があって、そのことを支店長は知ってとても驚いたそうです。自分が全く知らなかった世界だと。じゃあ、自分たちのような会社が障害者のためにできる一番のことは何かとかんがえて、実際に雇用するという結論に至ったそうなんです。支店長さんが後になってよく話していましたけど、この仕事を長年やってきて少しマンネリ気味になりかけていたけど、これでまた気合いが入ったと。数字には厳しかったけど、気持ちが伝わってくる支店長さんでしたね”。


障害者支援の現場と社会は、思っていたよりも近いところで交響している。

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