メンタルヘルス不調になった人は、性格を変えるべきなのか?
産業現場では、うつ病などで、精神や行動上の問題を呈するメンタルヘルス不調を苦しむ人をよく見かけるし、「いったんメンタルヘルス不調になると、もとの状態に戻ったり、立ち直ることが難しい」と思っている方も多い。しかし、適切な支援と準備があれば、それを乗り越えて元の状態やそれ以上の状態になって活躍されている方がいるのも現実である。このようにメンタルヘルス不調を乗り越えていく人達と関わる中で、「性格をかえるということか?」という問いに向き合うことがよくある。「性格」は,心理学での「個人を特徴づける持続的で一貫した行動様式」(中島・安藤・子 安・坂野・繁桝・立花・箱田,1999)という定義もあるが、メンタルヘルス不調への支援における「性格」への向き合い方について考えてみたい。
メンタルヘルス不調で休業し、その後職場復帰をして実際に活躍されている方たちは、どうとらえているだろうか。私がこれまでの面談やアンケートなどでは、「自分は大きく変わることができた」「変化することができた」「今までの自分とは違う自分になった」など、これまでとは違う性格の自分になったというような回答をもらうことが多い。メンタルヘルス不調に至る原因として、業務量や内容、職場の人間関係などの自分以外の要因に焦点が当たること多いが、復帰後も活躍していく人の多くは、不調の要因として自分自身の認知や物のとらえ方、行動など、自分の内面に関するものに焦点を当て、それを変化させている。だから、自分の内面の変化に注目するのだと考える。
一方で、職場復帰後に活躍されている方の中には、性格や自分自身はへんかしていないという方もいる。そのような方たちの話を聴くと、「自分自身を深く知ることで、自分を認められるようになった」「むしろ自分は自分でいいんだと思った」という話される。そのような方たちも、休業直前は、明らかに仕事や生活に支障をきたす状態であり、その後、職場復帰をして活躍されているので、外からみると大きな変化をしているようにも見えるが、彼らは変わってないと話す。実際に話を聴くと、彼らは自分自身を追い詰めたり、苦しめたりする自分の認知や考え方、行動に気づいたうえで、さらにその認知等を作り出している自分の中の理由を見出していた。そして、認知を作り出す自分の中の理由は、それ自体が自分の個性であり、自分らしさであると受け入れていた。その自分の個性は、自分が自分である理由であり、良いと悪いものでもない、自分が大事にしたいもの・大切だと思っていることが何なのかを気づく。そのうえで不調に至ったのはそれを大事に大切にする仕方に課題があったからだと考えていた。だから、その自分の性格ともいえる個性や考え方を変えることなく、むしろ自分や自分の性格を受け入れ、それを大切にする方法を変えることで、心の平安を保ち、本来と力を発揮していたのだ。
上記の違いは、「性格」の定義の違いともいえるかもしれない。しかし、メンタルヘルス不調者に対する支援をする中で感じるのは、メンタルヘルス不調になったということは、その人の性格や大切にしてきたものを否定するものではないということだ。むしろ、自分自身を追い詰めるほどの強い思いや感情がそこにあるのだと考える。そして、その人のこれまでを作ってきたのもその思いや感情だと考える。その思いや感情に良い悪いもない。むしろ、それが何なのかを自分自身で気づき、それを自分で認めて受け入れ、コントロールすることが求めれるのだ。思いや感情が強いからこそ、その力は、これから先にきっと生じるであろう様々な困難な状況を乗り越え、活躍する力になると考える。
「性格」という表現をどう受け止めるかは、人それぞれだが、自分自身と向き合い、自分を深く知り、認めることは、メンタルヘルス不調になった方が活躍するための重要なポイントだと考える。
合同会社活躍研究所では、企業向けに活躍型メンタルヘルス対策の導入支援を行っております。ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
日本産業衛生学会 専門医・指導医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
日本産業ストレス学会理事
日本産業精神保健学会編集委員
厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの
耳』」作業部会委員長
「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」
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