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私の本棚

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本をきっかけに、めぐらせる思いのあれこれ、つれづれ。読書感想文など。
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メメント・モリすぎる日々の中で━『食べることと出すこと』

メメント・モリすぎる日々の中で━『食べることと出すこと』

難病に分類される持病を患ってから、死をとても近くに感じるようになった。といっても、持病は死と隣合わせの状態ではなく、投薬を続けつつ、日常生活は送れている。
死と隣り合わせでいる人に申し訳ないような気持ちにもなりながら、それでも毎日、毎夜、死を思う。

入院中は病気や死を意識せざるを得ないとしても、すっかり日常を過ごしている今もなお、死を思うのはなぜなんだろう、と自分でも思っていたのだが、そのこたえ

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あなたの近くにもきっといる—『アンをめぐる人々』

あなたの近くにもきっといる—『アンをめぐる人々』

近所にグリンゲイブルズを思わせる家がある。白い壁に三角の屋根。アンの部屋のような出窓。子供の頃、そういう家に住んでみたい、と思ったものだった。

『アンをめぐる人々』モンゴメリ

そんな憧れの家がある街の図書館で、再びこの本が目に入り、読んでみた。
1度目は、持病で入院しているときに、共有スペースの本棚で見かけて手に取った。読んでみると意外にも乙女の憧れの世界ではなくて、田舎のちょっとやっかいな人

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想像するたのしみ—『ある小さなスズメの記録』

想像するたのしみ—『ある小さなスズメの記録』

バンコクの古本屋さんで、美しい本を買った。本屋さんをブラブラして、ふと心惹かれる本を見つける瞬間が好きだ。

『ある小さなスズメの記録』

状態がよいわりには、安価だった。このお店ではおそらく、値付けは本の売れ行きや状態、希少価値はあまり考慮されてなく、発行年月で機械的に決められているように思う。

買取のとき、タイ人のスタッフがそのように査定しているように感じるし、それが合理的で現実的な方法なの

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母親ってなんだろう—『ピーター・パンとウェンディ』

母親ってなんだろう—『ピーター・パンとウェンディ』

子ども向けだと思っていた物語を大人になってから読んでみて、これが一体どうして、子ども向けなんだろうか、大人の世界の物語じゃないか、と思うことが多々ある。

『ピーター・パンとウェンディ』はそんな物語のうちのひとつだ。
子どもの頃に読んだのは、子ども向けに簡略化された本だったように思う。または、本では読んだことがなくて、ディズニーのアニメでストーリーを知っているだけかもしれない。

私がイメージして

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誰にも気づかれない仕事をしたら

誰にも気づかれない仕事をしたら

私の読書の楽しみは、本筋やテーマよりも、ごく一部の印象に残った一節やエピソードについて考察したり、派生して思い出した過去の出来事にひたったりすることにあるようだ。読んだ本のあらすじを忘れてしまうことも多いし、主人公の名前を思い出せないときすらある。

『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』を読んだ。表題作の『掃除婦のための手引き書』の中に、

家政婦の心得として、

手抜きしない掃除婦

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ところてん日和

ところてん日和

物語やエッセイの食べ物が出てくるシーンが好きである。

ラピュタのトースト
ハイジの白パン
向田邦子さんのにんじんごはん

食べ物が出てくると、物語にしろエッセイにしろ、生き物としての現実味や親近感がわく気がするし、その食べ物を自分で再現してみようとするのも楽しい。この自粛生活の中では、『ぐりとぐら』のカステラを再現したご家庭も多いのではないだろうか。

最近で、心をつかまれたのは、江國香織さんの

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キリンに思いをめぐらせながら、物語のより道を楽しむー『こちらゆかいな窓ふき会社』ー

キリンに思いをめぐらせながら、物語のより道を楽しむー『こちらゆかいな窓ふき会社』ー

『こちらゆかいな窓ふき会社』という本を買った。作者は『チャーリーとチョコレート工場』でおなじみのロアルド・ダールだ。

タイトルにひかれて、手に取った。思えば、私は子供の頃から「ゆかいな」という言葉にひかれる傾向にあったかもしれない。

ゆかいな仲間
ゆかいな探偵
ゆかいな冒険

児童書のタイトルにいかにもありそうな言葉たち。今でも私の興味をそそる。そのうえ「ゆかいな窓ふき会社」ときたら、私の引き

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妙に後を引く児童文学—『年をとったワニの話 ジョヴォー氏とルノー君のお話集1』

妙に後を引く児童文学—『年をとったワニの話 ジョヴォー氏とルノー君のお話集1』

ここ数年は、なるべくモノは増やさないにしてきていたのだけれども、あるときふと、自宅の本棚が、自分だけのちょっとした図書館のようだったら、あるいは、趣味のいいカフェの一角にある本棚みたいだったら、悪くない、むしろ素敵かも、という思いがおりてた。
繰り返し読みたい本は、もっと多く手元に置いておいてもいいのかもしれない。

というのを、近く引っ越しを控えているのにまた本を買ってしまった言い訳にしておこう

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本のある場所をぶらぶらと—『百万ポンド 紙幣-マーク・トウェイン ショートセレクション-』

本のある場所をぶらぶらと—『百万ポンド 紙幣-マーク・トウェイン ショートセレクション-』

目的もなく、本がある場所をぶらぶらする時間が好きだ。
本屋でも図書館でもいい。
小説、趣味、自己啓発、ビジネス、児童書、雑誌、あらゆるジャンルの棚をぶらついて、「出会い」を探す。
出会える日というのは、ふと目が合って、ピンとくるものだ。

目的の本が決まっていて、Amazonでポチっとするか、本屋の棚に直行して買うときもある。そういうときは、売れている、という情報だったり、誰かのレビューだったり、

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紙の本には、時と愛着が刻まれる

紙の本には、時と愛着が刻まれる

モノとしての本は、
その本が過ごした時を見せてくれる気がする。
黄ばみや匂い。
よく開いたページは、クセで他のページよりも開きやすくなっている。

子供の本の、
破かれたページ、
ボロボロのページは、
その本が愛された証と言ってもいいかもしれない。

紙の本と電子書籍のどちらがいいか。

これは、すでに多くの人に語られている事柄ではあるので、目新しい議題でもなんでもないのだけれども、改めて感じたこ

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懐かしの本 —  『ドリトル先生アフリカゆき』

懐かしの本 —  『ドリトル先生アフリカゆき』

バンコクの古本屋さんで見つけた一冊。
『ドリトル先生アフリカゆき』。懐かしくて、迷わず買った。

裏には「小学3・4年以上」と書かれている。
この基準は、いったい誰が決めているのだろうか。
子供の頃は、この対象年齢より若い自分が、すでにその本を読めていることに、ちょっとした誇らしさを感じたものだ。少しでも大人びていたいものだった。
人生の中で子供でいられる時間こそ短くて、急いで大人になろうとする必

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母の日の憂鬱— 『オリーヴ・キタリッジの生活』

母の日の憂鬱— 『オリーヴ・キタリッジの生活』

どういうわけか、私は1年以上前から母に無視され続けている。

引き金となったきっかけはあるのだが、そのきっかけは「それだけで?」という程度のこと、と私自身は思っている。

いつもの通り、2、3日で機嫌を直して、
というより、一方的に自分が機嫌を悪くしていた事すら忘れて連絡をとってくるものと思っていたのだが、今回はそうではなかった。

それまで母とは、最低でも、1週間に1度は連絡をとっていたのだが、

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