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興味深いnoteの記事

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#読書

中村文則『土の中の子供』を読んで

私は中村文則が好きだ。今までに読んだ彼のいくつかの作品、『何もかも憂鬱な夜に』や『掏摸』、『教団X』には、空虚な生への諦めと安らかなる死への緩やかな吸引が描かれている。生と死、どちらが人に幸福を与えてくれるのだろうか。 芥川賞を受賞したらしい今作も、中村文則らしい生死の狭間にたゆたう人の姿が描かれている。ひどい虐待を受けてきた主人公が大人になり、生きる活力もなく、何もない、つまらない日常を送る。その描かれ方はリアルで、振り子のように過去と今の記憶が交錯する。(普段の記憶の思

「遮光」中村文則 / 読書メモ

サクッと。 GWは中村文則ですね。笑。 筆者の文庫本に変えて、のくだりにて。 デビュー作の『銃』とこの二作目の『遮光』は、なんというかぼくのやわらかい部分に属する。 僕はこう解釈しました。 上記の「やわらかな」を「生々しい」と変えてみる。 つまり中村文則の処女作『銃』と二作目『遮光』は、小説家中村文則の内側に、悪魔のように根付いてしまった生々しい生得的な部分に属する。 僕の中から、原石の固まりのようなものが、そのまんま出たような小説かもしれない。「何かを持ち歩く」

再び道を誤らないための〈暮らし〉リアリズム:花森安治の思想 : 『灯をともす言葉』

書評:花森安治『灯をともす言葉』(河出文庫) ずいぶん昔、酒井寛の『花森安治の仕事』(朝日文庫)を読んで感動した。以来、花森安治のファンである。 花森安治という人は、先の戦争で、国の掲げたプロパガンダを信じた結果の悲惨さを目の当たりにして、もう二度と同じあやまちは犯すまいと決意した人である。 そして、その花森が拠って立ったものとは「暮らしの思想」だ。つまり、日々の暮らしにおける実感を大切にすること。言い換えれば、決して「観念」的にはならない。「生活者のリアリズム」によって

ドラマ🎞『センセイの鞄』原作/川上弘美

『センセイの鞄』 原作 川上弘美 2003年、ドラマ 監督   久世光彦 脚本   筒井ともみ 原作   川上弘美 出演者  小泉今日子、柄本明、豊原功補、      モト冬樹、蛭子能収、竹中直人、      樹木希林、ほか。 第40回ギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞、日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ番組最優秀賞、主演の小泉今日子が芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。 原作小説を読み、暑苦しい感想を前回掲載し、興奮のままドラマを観ました。U-NEXT、見放題で

芥川龍之介を読む

今日(7月24日)は、芥川龍之介(1892年〈明治25年〉3月1日 - 1927年〈昭和2年〉7月24日(河童忌))の命日なので芥川龍之介を特集します(過去記事から)。芥川は俳句もやっていました。俳号は我鬼。また、芥川龍之介は遺書代わりの俳句を残しています。 最後に鼻だけが息をしている状態で他はすべて死んでしまったということらしい。これを妻に手渡し、医者に渡してくれと。いきなりこんなん読まされてもわかんねーよ。 また愛妻家であったのか妻に宛てた手紙は有名です。 『黄粱夢

【3分読書メモ】「文章の書き方」(辰濃和男)を読んで

■基本情報書名:文章の書き方 著者:辰濃和男 出版元:岩波書店 出版日:1994年3月 ジャンル:文章術 読書メーター:https://bookmeter.com/books/511909 ■気になったポイント(引用文+コメント)ものを書くときは準備が大切です。小さな円を描いていたのでは、それだけのもので終わってしまいます。はじめから思い切って広い円を描いて準備すれば、内容に深いものが生まれます。 <メモ>要は「大から小へ絞り込め」ということ。始めは柔軟にのびのびと発

佐藤究「QJKJQ」読書感想文

「テスカトリポカ」で直木賞受賞した 作者の長編ミステリー。 ミステリーとはいうものの、これ、ミステリーなのか、純文学なのか? 日本の小説? 舞台は西東京市で、生粋の日本人ばっかり出てくるけど、 なんだか、海外の小説みたいな、 いや、地球なのか、なんなのか、、 という、不思議な空気のある本でした。 江戸川乱歩賞受賞作というのは頷けます。 江戸川乱歩を初めて読んだ時の不思議な感覚を 思い出します。 主人公は高校生女子、猟奇殺人鬼の一家に生まれ、親も兄も人を殺していると

【読書欲】本が点から、面や立体に見えたら、もう後戻りはできません(笑)。

本を普段は読まない人から、 よくオススメ本を聞かれる。 何かをお勧めして、 良かったと言われると嬉しいですね。 それからしばらくして、同じ人から 「またオススメはない?」と聞かれる。 え?この前の作家を もっと掘り下げたらいいのに… 気にならないのかな?と感じつつ、 「この前の作家の作品の 前作とか?新作とか? 読むときっとハマりますよ」 と返すと、 「いや、もっと色々な人を読みたくて」 はああん!! そうか。本好きではない人には 本は「単品」「単体」として 存在してる

『すべての仕事は10分で終わる』劇的に生産性を上げるには

「仕事が仕事が終わらない…」 「他の人に比べて仕事の進みが遅いと感じる」 「面倒な仕事はつい後回しにしがち」 本書「全ての仕事は10分で終わる」は、そんな悩みを抱えている人におすすめのです。 時間は有限、できることなら仕事は早く終わらせたいものですよね。 仕事の生産性を上げる方法は理解しているつもりでも、まだまだやり方が甘かったと再認識できる本でした。 仕事での生産性を上げたい全ての人に必読の書です。 会議は10分 日本社会で無駄と考えられている仕事のトップ3は「会

【テスカトリポカ】極上のノワール小説

オススメ度(最大☆5つ) ☆☆☆☆☆ 〜「面白い」以外の言葉が思いつかない〜本当に良いものに出会うと「良い」という言葉以外に思いつかなくなるのと同じように、本当に面白いものに出会うと「面白い」以外の言葉が思いつかない。 そして、この小説は「面白い」。 裏社会、アステカ文明、麻薬カルテル、臓器ビジネス、、、。 もともとクライムサスペンスやノワールが好きな僕にとっては、あらすじを見ただけでワクワクした作品だった。 そして、いざ読み始めると、その手が止まらなくなる。 正直、か

書店員でもないのに、身近な人に本をすすめまくってきた話【#読書感想文】

子どもの頃から、本を読むのが好きだった。 そして布教するのである、自分が面白いと思った本を。 他人にとっては、いい迷惑だろう。 だが本を多く所有しているため 「面白い本、紹介して!」 と言われることもしばしば。 ありがたいことだ。 好きな本を共有すると、もっとその人と仲良しになれる気がする。 内心しめしめと思いながら、 「どんな本が好きなの?」 と聞いてみる。 作者の名前を言ってくれる方は、好む方向がなんとなく推察できるものだ。 でも自分が好きなものを把握して、言語化で

【戦争と家族】祖父は毎夕、戦争の傷のためお酢を塗っていました。

90年前の今日、 満州事変が起きました。 正確には、日本陸軍が起こしました。 90年前、もう昔の話だなあ、 って思いますね。 でも、この満州事変から 日本は次々と、間違った選択を とり続け、最後には敗戦に至ります。 ヤバくなるたびに、どんどん 周りを悪者扱いして、 対話の姿勢は失っていき、 ますます追い詰められ、、、、。 もうまるで、悲劇の教科書みたい。 満州事変→リットン調査団→国連脱退→ 日中戦争開始→二・二六事件→ ドイツと提携→太平洋戦争開始→ 原爆→敗戦。

『そうだ 本、出そう。 商業出版したい人が最初に読む本』第一章・無料全文公開

書籍『そうだ 本、出そう。 商業出版したい人が最初に読む本』より、第一章「本を出してみたら、こんなにイイことが!」の無料全文公開! 下記リンクはAmazonストアでの商品ページになります。書籍の概要や目次もこちらでご覧になれます。 自分を取り巻く世界が変わる 「本を出すと世界が変わるよ」 かつて、「いつかは本を出したい!」と悶々としていた頃、すでに本を何冊も出している人からそんな言葉をかけてもらったことがあります。 世の中のすべてをわかったような顔でそんなことを言われても

【最近読んだ本】小説家には、聞かれても答えなくていい質問がある?

読んだ本の感想をすぐに書き留めておきたいと思いながらも、怠惰な性質ゆえ、長年できずにいた。今思うともったいないことだ。 noteでは多くの人が読んだ本の感想を投稿している。ご丁寧に「あらすじ」を細かく書いているものもあれば、わりと短く感想をまとめているものもある。中には批評家さながらの鋭い分析をされている人もいて、そういうものは、自分にはとても書けないので尊敬する。 この半年ほど、noteで毎日何かしら本に関する投稿を読ませていただくなかで、読書感想文というのは、いろいろな書