白露

読書感想文を書いている人。雑読です。

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最近の記事

阿部幸信『中国史で読み解く故事成語』

https://www.amazon.co.jp/dp/4634151936/ref=cm_sw_r_awdo_navT_g_QP55JF40993BV6KXS1DX 今に残る言葉を紐解くことで、古代中国の人々の生きた世界がありありと蘇り、単純な知識であった故事成語がよりリアルな温もりのある言葉となりました。 例えば、「完璧」という言葉は、実は15の城と引換に求められるほどの国宝と、それを守った臣下の心意気の物語だったり。古代の人々が様々な思惑の中でそれぞれに工夫を凝らして

    • 中村文則『土の中の子供』を読んで

      私は中村文則が好きだ。今までに読んだ彼のいくつかの作品、『何もかも憂鬱な夜に』や『掏摸』、『教団X』には、空虚な生への諦めと安らかなる死への緩やかな吸引が描かれている。生と死、どちらが人に幸福を与えてくれるのだろうか。 芥川賞を受賞したらしい今作も、中村文則らしい生死の狭間にたゆたう人の姿が描かれている。ひどい虐待を受けてきた主人公が大人になり、生きる活力もなく、何もない、つまらない日常を送る。その描かれ方はリアルで、振り子のように過去と今の記憶が交錯する。(普段の記憶の思

      • 『丹生都比売』 梨木香歩  を読んで

        梨木香歩の『丹生都比売(におつひめ)』。表題作を含む短編集です。 どの作品も幻想的な文体、ロマンチックな構想に耽溺したのですが、今回は表題作の感想を。 時は飛鳥の遥か。天武天皇と持統天皇の皇子、草壁皇子の物語。気も体も弱い優しい男の子、草壁は、大友皇子との政権争いを避けるために吉野に逃れた父に従って都を離れていた。吉野は丹生都比売の治める地。父は丹生都比売の加護を受けるため御渡りの儀式に励むが、なかなか丹生都比売は現れない。そんな中、草壁は不思議な空気を持つ地元の子どもと

        • 『私は私のままで生きることにした』キム・スヒョン

          姉がプレゼントしてくれた1冊。 頂いた当時から今まで、私は鬱病と戦っている。 きっと、狭い目で世界を見て、人にどう思われるかを気にする自分自身が自分に枷を掛け、身動きを取れなくしているんだ。 他者の言葉で自分を言語化されると、不思議と俯瞰で物が見られるようになる。 同じような息苦しい社会がお隣韓国にあって、そこで同じようにもがき悩んだ人がいる。社会に順応できないのは私だけではない。間違っていると思う心の声を無視しないで、会わない場所からは軽やかに離れる心を持つ。そんな

        阿部幸信『中国史で読み解く故事成語』

          村上春樹『風の歌を聴け』

          村上春樹の作品を読むのは、これが初めてだ。 『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』といった有名どころではなく、この本を読むことにしたのは、20代の約10年間を日記風に綴った村上春樹本人が投影されている作品と聞いて、興味を持ったから。かの文豪はどんな20代を過ごしたのだろう。あと半分近くある20代を生きる上でヒントになるかも。そんな気持ちで手に取った。 感想は、一言で言うと、お洒落で伏線回収がすっきり。 語り口はどこかノスタルジックで、ウィットに富んでいる。気軽な日常の中で見

          村上春樹『風の歌を聴け』

          『月山』森敦

          芥川賞受賞作品を並べ、興味の湧いたものから順に読むことにした。教養として名作と呼ばれるものは知っておきたいというのもあるが、読書に耐えうる、自身に変化を与えてくれる、心情の幅を広げてくれる本を確実に読みたかったのだ。そこで目を惹いたのがこの『月山』である。 ずらり並んだタイトルの中で、この簡潔で隙のない、テーマそのものを飾り気なく言い当てた『月山』の名は一際目を惹いた。「月山」から何を感じたのか、どういう物語を展開させるのか。標題からは作者の意図は窺い知れない。飾り気のない

          『月山』森敦