マガジンのカバー画像

『あとがき』集

6
自身のオフィシャルサイトに執筆投稿しているエッセイたち。その『あとがき』を自筆し、noteにて投稿していきます。
運営しているクリエイター

記事一覧

コントラバスケースのなかには、死体が眠っている。

コントラバスケースのなかには、死体が眠っている。

コントラバスケースの中に、死体が眠っている

そんな空想を、弦楽器奏者ならば一度は抱いたことがあるのではないだろうか

東京藝術大学は、その構内に『奏楽堂』と呼ばれるコンサートホールを擁している。

パイプオルガンを持つそのホールでは、芸大関係者や教授陣、プロの音楽家を呼んでのコンサートのみならず、芸大生および附属高校に通う生徒たちによる定期公演や、実技試験までもが一般公開で行われる。

この立派

もっとみる
技術と芸術を踊る|羽生結弦選手と漫画『ダンスダンスダンスール』

技術と芸術を踊る|羽生結弦選手と漫画『ダンスダンスダンスール』

ドイツでの演奏活動の一つとして、日本舞踊とクラシック音楽のコラボレーションを行っている。
2018年3月4日。その活動における新作披露の舞台があった。

(詳細はこちら http://kaninchen-bau.com/events/event/04)

曲は、ヴィラ=ロボス作曲「ジェットホイッスル」
以前行った「春の海」とは違い、今回は既存のクラシック音楽にオリジナルの創作舞踊を振付けたものだ。

もっとみる
ひまわりと青い命の炎|フィンセント・ファン・ゴッホ

ひまわりと青い命の炎|フィンセント・ファン・ゴッホ

画家・フィンセント・ファン・ゴッホが亡くなったのは、麦畑の中だった。

そこに私は、一種の切なさをおもう。
ゴッホには、ひまわりに囲まれて死を迎えてほしかった。

彼にとってひまわりはユートピアの象徴であり、
何度も筆を走らせたモチーフだったのだから……

ゴッホが生まれたとき、
すでにその家にはフィンセント・ファン・ゴッホの墓が建てられていた。
それは彼が生まれる1年前に死産した、同じ名前を持つ

もっとみる
薔薇になったチェリスト|ジャクリーヌ・デュ・プレ

薔薇になったチェリスト|ジャクリーヌ・デュ・プレ



イギリス生まれの女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ

数多の男性チェリストたちと肩を並べ、歴史に名を残す女性チェリストといっても過言ではない。

ピンと来なかった人にも、ダニエル・バレンボイムの奥さんであった人、
といえば聞きなじみがあるのだろうか…。

クラシック好きといっても、オーケストラ・指揮者・ピアニスト・バイオリニストに精通している方は多い。
しかし、チェロにまでその触手を伸ば

もっとみる
つらなっていく、いのちの詩|絵本『チェロの木』

つらなっていく、いのちの詩|絵本『チェロの木』

ドイツに暮らす人たちは口々に、過ぎた夏を惜しんでいる。
「そうですね」とは答えられない正直者な私。

私は、季節の中で『秋』が一番好き。

朝 凛として澄んだ空気
高く突き抜けるような青空
星を見上げ 吐く息の白くけぶる夜道

特に私がわくわくするのが、小さくも暖かい部屋の中で、熱いココアをすするひと時だ。

ぽっかりと空いた時間、ただただぼんやりとしてココアだけに向かう。
なぜか不思議なことに、

もっとみる
もう一人の名付け親|ルイス・キャロル

もう一人の名付け親|ルイス・キャロル

『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』

ニーチェの言葉だ。

なにか得体のしれない存在を示唆するような気味の悪さ。
言葉の意味を思考するよりも、まずその感覚に襲われた。

つまりーー意思のないただの物体や、何もないと認識している空間に、人は知らぬ間にじっとりと見つめられ続けているのかもしれない、と。

「深淵」という名が付けられたことで、暗闇は、私の中で目に見えない目を持つようになっ

もっとみる