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金沢旅行記2024.7.12
三島由紀夫は、『美しい星』で金沢を星の町と表現した。金閣寺の金と、金沢の、金箔の金がどのようにして三島由紀夫の美学を反映しているのかはわからないけれど、この小説が小旅行を後押ししてくれたのは間違いない。
これまでにぼくは、二回金沢を訪れたことがある。一回は大学生の頃、文芸部の合宿で。もう一回はその数年後に家族と。道端に投げ売りされていたのをなんとなく買った九谷焼は、今もうがいのコップとして色褪せ
短歌研究2024年5-6月号
ものすごい量ですね、と毎回毎回思う。300歌人の歌をひととおり読んで、五首を選んでみた。
しかしながら、とちいさな傘をひろげつつあなたは星の降る都市へゆく/井上法子「逆説」
だとしてもつづけてほしい誰ひとり幸せにしない夜更けの手品/魚村晋太郎「港」
カノープス見ることももう諦めて如月は過ぐまたたける間に/大辻隆弘「ナチュレモルト」
喉にいつもお粥のような白い声 立ちどまったら泣いてしまうよ
2023年(あるいは、死後の世界に光る稲妻)
【一月】
神聖かまってちゃんのNGフェスを配信で聴いて、楽曲をひとつひとつメモしていく。短歌研究からの以来に作った短歌のひとつは、このときの経験をモチーフにしている。
・レシートの裏にセトリや猫の手や聖書を書いて 本気だからね
一月に読んだ北山あさひの『崖にて』に「カタカナで採血管に名前を書くみんなミッシェル・ガン・エレファント」という歌があった。このときはまだチバユウスケが死ぬなんて思っても
第五回毎月短歌(2023年11月)
自由詠
突然に「好き」と言われて飛び出したハートは黒ひげ危機一髪だ/くらたか湖春
「好き」と言われて、どきどきする状況になって心臓のある位置からハートの記号が飛び出してきたり、あるいは口からハートが飛び出してきたり、そういう漫画的な描写というのがあって、そうしたリアリズムが現実に逆輸入されているのがまず面白い。さらに、そのハートが「黒ひげ危機一髪」であるという比喩もまた面白さを加速させる。なん
土岐友浩『ナムタル』
ナムタル。聞き覚えのない言葉だ。その正体は、冒頭のエピグラフによって明かされる。「疫病をふり撒くナムタル」。これは中島敦の「文字禍」からの引用であり、アッシリア人の知る多くの精霊の中のひとつであるらしい。このナムタルは、メソポタミア神話では冥界の女王であるエレシュキガルの伝令としてもはたらいている。さらにナムタルについて語るなら、その名前はシュメール語で「運命」を意味し、擬人化した死として扱われて
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