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共産党VS「邪教」 これがホントの「カルト映画」

もう一つの「統一教会」


これからするのは、統一教会の話ではない。

でも、統一教会に、ある意味、似ている。


「反・共産主義」が色濃い、キリスト教の異端教団。

中国発祥の「全能神教会」。

統一教会は韓国発祥だが、全能神教会は、まあ、「中国の統一教会」みたいな感じ。

現在、中国で、「全能神教会」「統一教会」は、ともに同じ「邪教」「カルト」認定され、非合法化されている。


で、書きたいのは、この「全能神教会」が勧誘のために作っている膨大な数の「キリスト教映画」のことなんだけど。

日本でべつに禁じられているわけではなく、YouTubeでふつうに見られる。

でも、モノがモノだけに、いろいろ気をつかわなあかんね。

下手をすると、公安に(しかも日本と中国両方の公安に)マークされかねない。そうなると、もうフィリピンとかに逃げるしかなくなる!


はっきり言っときますが、私は、この団体と、まったく何の関係もない。

勧誘と間違えられると困るので、以下にも、この団体の画像やリンクは一切貼らないことにします。


全能神教会とは


いやね、私は日頃から宗教関係のYouTube動画をよく見るので(キリスト教だけでなく仏教や神道のも見る)、グーグルのAIが、ある日私に、全能神教会の映画を勧めてきた。

ちなみに、全能神教会が作った動画のなかに、

「ある日、YouTubeが突然、全能神の動画を私にお勧めしてきた。これは神のお導きだ、と思い、入信した」

という人が登場していたが、それは神様ではなく、グーグル様のお導きですから!

私は、全能神教会のことはまったく知らず(「キリスト教映画」という表示しか見なかった)、それを見始めたのだけど、面白くてーー気が付くと、3、4本見てしまっていた。

そのあとに、全能神教会のことを調べたわけ。


まず、全能神教会を、「超簡単」に紹介しているショート動画があったので、貼り付けておく。↓


全能神教会については、すでに安田峰俊さんも日本で紹介している。


Wikiでは、以下のように書かれています。


全能神教会は、「ちょうど、いなずまが東から西にひらめき渡るように、人の子も現れるであろう」(マタイ24:27)に由来する「東方閃電」と呼ばれることもあり、東にある国、つまり中国からイエス・キリストが全能神として戻り、(旧約聖書の律法の時代、イエス・キリストが伝道を始め20世紀の全能神の降臨に至る恵みの時代、に次ぐ)第三の人類の時代が始まると主張している。1997年に出版された、全能神からのメッセージを集めた書物「話在肉身顕現」を規範としている。正式な礼拝式や洗礼や聖餐式などの礼典は存在しない。
中国共産党を「巨大な赤い龍」と呼び、これを倒して神の国を樹立すると主張しているため、2000年より中国当局からは邪教と認定されている。法輪功よりも強い組織力を持ち、一度入信すると脱会することは難しい。信者になれば金銭が支払われるため、近年、中国で拡大している貧富の差を背景に信者を増やしている。


知っている人は、危険なカルトだと警告している。

ただ、私は日本では、全能神教会はそれほど広がらないと思う。(その理由はのちに述べる)


私の宗教へのスタンス


ちなみに、私の宗教へのスタンスを書いておこう。

私の世界認識は、完全に唯物論だ。科学バンザイである。

しかし、倫理観や世界観は別で、唯物論から倫理は生まれないと思っている。だから、科学に反する、宗教にもとづく倫理観や世界観も尊重する。

自分は宗教をもたないが、宗教は、既成宗教も、新興宗教も、バカにしたり茶化したりはしない。基本的には、どれも真面目に受け止める。

カルトなどのレッテル張りは、犯罪の取り締まりに有効かもしれないが、宗教はそもそも、非常識的で反社会的な部分があっても、ある範囲で仕方ないと思っている。

信教の自由は、自由社会の核心であり、最大限尊重されねばならないと思っている。


全能神映画のクオリティ


で、本題の「全能神映画」。

マニアに偏愛される映画を「カルト映画」と言うけど、こっちがほんとのカルト映画ですから。カルトと呼ばれる宗教団体がつくった映画。


私が驚いたのは、全能神教会がYouTubeで公開している映画のクオリティです。

上のショート動画で警告しているように、この教団は、信者獲得のため、SNSを非常に巧みに使っている。

YouTubeの「映画」も、少なくとも日本のテレビドラマ並みに、きちんと作られている。脚本も、演出も、舞台美術も、撮影も、役者も、音楽も、あきらかにプロ。


何本か見るうちに、これは50人くらいの規模の「劇団」と、プロの制作プロダクションが請け負ってやってるんだろう、とわかってくる。

クオリティが安定しているし、ある映画に出ていた役者が、別の映画で出てくると、「お、今度は老け役か」とか、だんだん面白くなってくる。

なんだかんだで、長尺だけで10本弱は見た。

90分から最大3時間くらいの長尺映画と、30分程度の短編映画、その他、漫才や演芸の動画もあり、その多くが日本語に吹き替えられている(吹き替えもプロの仕事だ)。


日本人信者数は?


ただ、そんな「力作」ぞろいの動画でも、再生回数を見ると、最高でも数万、平均数千という程度で、決して多くない。

全能神教会の動画は、YouTubeで7年前から確認されるが、3年たっても1000未満、という動画もある。


それを見るかぎり、日本で信者は少ないようだ。

全能神教会は、もともとの世界観がキリスト教で、既成キリスト教の信者を奪う形で成長してきた。

だから、一神教の世界観になじめない人は、最初から入っていけないだろう。


中国は、唯物論が「国教」だ。だから、中国の宗教人口は少ないと思われているかもしれないが、実際は日本の人口の2倍以上(3億5000万人以上)いる。


米国を拠点とする NGOのフリーダム・ハウス(Freedom House)による 2017 年 2 月の推計によれば,中国の宗教信仰者数は 3 億 5 千万人を超えている。その内訳は,中国仏教徒が 1 億 8,500 万人から 2 億 5 千万人,プロテスタントが 6 千万人から 8 千万人,イスラム教徒が2,100 万人から 2,300 万人,法輪功学習者が700 万人から 2 千万人,カトリック教徒が1,200 万人,チベット仏教徒が600 万人から 800 万人,様々な民間伝統信仰の信奉者が数億人,となっている。

信仰の自由に関する国際報告書(2019 年版) 中国(チベット,新疆ウイグル自治区,香港及びマカオを含む)(外務省)

https://www.moj.go.jp/isa/content/001368682.pdf


中国には、プロテスタントだけで6000万~8000万人いる。

人口の1パーセント前後(200万人弱)といわれる日本のキリスト教人口とは、ケタが違う。

日本では、クリスチャンが少ないうえに、その中でも「中国で2000年ぶりに神が受肉した」という話を信じる人が、そんなにいるとは思えない。


平均すれば1万弱の視聴回数の内訳は、日本の信者と、宗教研究者と、公安か。

信者も、中国から逃れてきた中国系の人が多いのではなかろうか。とすれば、日本人信者はせいぜい3000人くらい?


全能神映画の評論


そこで思ったわけです。

信者でも、研究者でも、公安でもなく、「全能神映画」をこれだけたくさん見た日本人は、死ぬほどヒマな私くらいかもしれない。

それなら、私は、日本で随一の「全能神映画評論家」になれるかもしれない。

「全能神教会映画」の全作品をレイティングして、評論してみてはどうだろう、と。


そう思って、全能神映画のリストを作り始めたのだが、長尺ものだけで100本以上、ショート動画など全部あわせれば300本を超え、いくら私がヒマな退職老人でも、とても全部は見ていられないことがわかった。

というわけで、「全能神映画評論家」の肩書はあきらめた。


それはともかく、全能神映画の視聴者は、上述のように多くない。

しかし、日本の既成キリスト教の説教動画も、大きな教会のものであれ、同じ程度だったりする。だから、全能神映画の動画は、日本では既成キリスト教と同じくらいは見られている、ともいえる。

そのようなキリスト教の日本での貧しい土壌は、統一教会にとっても同様だった。

それでも、統一教会は、日本で一定数の信者と影響力を持ったわけだ。

全能神教会は、資金力も統一教会同様にありそうだから、日本でも、統一教会と同じくらい信者数を伸ばすことは、可能性としてはあるだろう。


全能神映画の面白さ


まあ、全能神映画に私がハマったのは、ほかに見る映画がないからでもある。

老人になれば、恋愛も、セックスも、カネも、出世も、世界征服も、興味がない。

萌え系には萌えないし、アクションには興奮せず、ホラーも怖くなくなる。

ネットフリックスにも、アマプラにもYouTubeにも、あまり見るものがない。これは、老人にならないと、わからないかもしれないけどねー。


宗教映画は、魂のことを描いているので、死が近い私の関心をひく。

もともと私は、人の「世界観」や「倫理思想」に興味がある。

20世紀の初めは、プロレタリア文学をはじめ、異なる「世界観」どうしがぶつかるような小説が多く書かれ、そういうのが私の好みだった。

しかし、いまはそういう「世界観」「思想」小説は流行らない。


全能神映画は、少なくとも「世界観」「倫理観」の対決を描いている。

唯物論VS有神論、現世主義VS理想主義、共産主義VS反共産主義、など。

もちろん、最終的には「全能神」が勝つようにできている。でも、映画にする以上、その対決や議論の過程は、それなりに丁寧に描かれる。


ある映画では、中国当局の「思想洗脳キャンプ」に入れられた全能神信者が、当局が用意した唯物論者と延々と論争を繰り返す。

そうそう、こういうやつが見たかったんだ。

アカデミー賞候補になったけど、日本では劇場公開されなかった「Inherit the Wind」(1960)という映画がある。(「聖書への反逆」という邦題でテレビ放映された)


宗教VS科学、進化論を学校で教えるのは違法か合法かを争った、有名な「モンキートライアル」の映画化だ。あれを思い出した。


なお、全能神映画に、美男美女はほとんど出てこない。

役者ではあるが、その辺のおじさん、おばさん、年寄り、みたいなのばかりである。

そこもいい。親近感がわく。


全能神映画のストーリー



全能神教会には3つの敵があり、映画はだいたい、信者が、そのどれかと戦うストーリーだ。

1 デビル(悪魔)
2 既成キリスト教会・共産党公認教会(三自愛国教会)
3 中国共産党


もちろん、彼らの世界観では、自分たちを弾圧する既成キリスト教、共産党の背後にあるのも、結局はデビルということになる。

この「敵リスト」には入らないが、無神論だけでなく、多神論も、デビルの仕業である(神は多神論者を憎むーー「神厭憎人持守『多神論』」という歌を歌っている)。

だから、多神教の日本も「デビルの国」となるはずだ。そういうことを本国では言っているかもしれないが、私が見ているのは日本人向けのコンテンツだから、反日色はない。


いずれにせよ、日本人の私が見て面白いのは、「中国共産党」との戦いを描いた映画だ。


「中国の憲法は信教の自由を認めているのに、なぜ我々は弾圧されるんだ!」

「あんなものは外国人向けの建前だ。お前も中国人だから、それを知らないはずはないだろう!」

「ああ、邪悪な悪魔の共産党め!」


みたいなセリフがとびかう。

2000年前の「パリサイ人」&ローマ帝国のキリスト教弾圧、50年前の毛沢東「文化大革命」が、現在の「弾圧」と重ねて描かれる。

もちろん、勧誘のためのプロパガンダ映画だから、共産党側のプロパガンダと同様に、事実が歪曲されていると見なければならない。

統一教会と同様、世界中の反共主義者の支持を呼び込むために、「共産主義の邪悪さ」が誇張されているだろう。

ただ、それでも、中国人自身が、中国共産党をこういうふうに見ている、というのは、他国人には面白い。


あと、宗教映画だが、神霊や神秘体験の描写はほとんどない。

敵が全能神信者に襲い掛かろうとすると、神の怒りをあらわすように雷が鳴る、とか、悪魔が人に乗り移って気がくるう、くらいの描写はあるが、それもまれだ。特殊効果やCGも、私の見た範囲では使われていない。

だから、オカルト的な興味は惹かず、それも日本で受けない理由かもしれない。

聖書にはこう書いてあるとか、全能神の聖典にはこうある、とかいう、書物にもとづいた「神学論争」の場面が多く、やっぱり「儒教」的だな、と思う。

でも、それも私には親しみやすいし、リアルに感じる。

恋愛要素はゼロ。宗教弾圧や拷問の場面でも流血は少ない。まあ、老人向けというか。


弾圧されて強くなる


こういう映画を見るとよくわかるのは、「弾圧」は信仰を強くするということだ。

とくにキリスト教系は、弾圧は神の与える試練だと解釈する歴史がある。

キリスト教系でなくてもーーたとえば、3日前にも、公安調査庁が、オウム真理教について警告を発していた。


オウム真理教は、毎年多数の新規構成員を獲得しています。特に「Aleph」は、オウム真理教に関する知識の少ない若い世代を主な対象とする勧誘活動を積極的に行っており、団体名を秘匿したヨーガ教室等に誘って人間関係を深めた後に、団体へ入会させています。


私の考えでは、日本の社会は「宗教」と「軍隊」になじみがなさすぎ、だと思う。

たいがいの国の人は、一生のうちのどこかで「宗教」と「軍隊」に触れる、あるいは巻き込まれるのが普通だと思うが、日本人はそのどちらにも真剣に触れずに一生を終えることができる。

だから、一部の人を除いて、自分の宗教観のようなものが、しっかりできてないのではなかろうか。いや、私も含めて、という話だが。

前からnoteで論じているように、マスコミは宗教を甘く考えがちだ。統一教会騒動を見ていて、そう思う。マスコミには左翼が多く、軽薄な唯物論者が多い。


一神教へのあこがれ


その半面として、日本人は、ポテンシャルとしては宗教を新鮮に感じ、ハマりやすいところがある。

最近、Xで、日本人はむかしから一神教にあこがれていた、と言う人がいた。


江戸時代から「一神教と多神教だと一神教がすぐれている」という考えがあり、仏教にしても神道にしても一神教的な「寄せ方」をしたが、これがもう欧米コンプレックスのおおもとと言えるだろう。その欧米コンプレックスによる一神教的な動きが国を誤らせたんだからシャレにならない。


私も同じことを考えていた。それについては、また別の機会に論じたいが、日本人は決して「多神教」「無宗教」で満足しきっているわけではないと思う。


上に述べたように、どのような宗教を信じても自由だが、現代人はいわば宗教に「免疫」がないので、暗示や洗脳に弱いところがあるかもしれない。

「全能神教会映画」みたいなのを見ていれば、あらかじめどこがおかしいかもわかるし、「免疫」になるとは思うのだが、魅了されて入信する人もいるかもしれないから、単純に勧められないのが難しいところである。

まあ、もし見る人がいるとすれば、自己責任で。


<参考>


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