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同じ「禅」でもちょっと違う YouTubeで学ぶ「臨済宗と曹洞宗の違い」

臨済宗と曹洞宗は、ともにダルマを祖とし、座禅を修行の基本とする禅宗だが、いろいろ違いがある。

その違いを、臨済宗香林院(東京・広尾)の宗信さんがYouTubeで解説していて、面白かった。(動画そのものはかなり前のものだが)



違いの中でも大きいのは、臨済宗が京都や鎌倉という政治の中心地で、武士や皇族を信徒にしたのに対し、曹洞宗は福井などの地方に総本山を構え、農民・庶民を信徒にしたことだ。

そこから、臨済宗がエリート的、曹洞宗が庶民的というイメージが生まれる。臨済宗は教養ある階級に漢文で教えるが、曹洞宗は文字を読めない層にもわかりやすく教える。

現在、曹洞宗が約20000ヶ寺、臨済宗が約5500ヶ寺で、曹洞宗の方が寺の数が多い。


私は小田急線の柿生というところに住んでいるが、うち(川崎市麻生区)の近所には、臨済宗の香林寺(細山)と、曹洞宗の修廣寺(片平)の両方がある。

どちらにも時々行くが、確かに、香林寺が貴族的、修廣寺が庶民的、という感じはあるのだ。


香林寺の五重塔。京都奈良的な感じ〜


修廣寺の道元像。文字を読めない庶民向けな感じ〜


しかし、同じ禅寺だから、トイレはどちらも「東司(とうす)」と言う。日常を修行と捉える禅宗では、トイレも修行の場だ。


香林寺の東司


修廣寺の東司。庶民のために張り紙でわかりやすく解説


イメージの違いはあるけど、信者の階層が違っただけで、臨済宗の坊さんが曹洞宗よりエリートとかいうことはないそうだ。

臨済宗の栄西よりも、曹洞宗の道元の方が人気があるのが悔しい、という話も(宗信さんの別の番組での話だが)面白かった。

他にも、

・合掌の時の肘の開き方がちょっと違う
・座禅の時間は線香1本分だが、それを臨済宗は1炷(いっしゅ)と言い、曹洞宗は1炷(いっちゅう)と言う
・食事の時の食器を、臨済宗は持鉢(じはつ)と言う。曹洞宗は応量器(おうりょうき)と言う。形も少し違う
・朝食。臨済宗は麦が入ったおかゆ、曹洞宗は玄米が入ったおかゆ
・曹洞宗の食事には、臨済宗にない「ごま塩」がつく
・臨済宗の夕飯は昼の残りの雑炊、曹洞宗はご飯と一汁一菜(曹洞宗の方が微妙に食事がいい)
・臨済宗の修行僧は4と9の日に風呂に入るが、曹洞宗は毎日入る(ただし短い時間)
・座禅の時、警策を持って巡回する直道(じきどう)は、臨済宗は修行者の前を歩くが、曹洞宗は修行者の後ろを歩く
・警策で曹洞宗は1回叩く、臨済宗は最低4回(夏場4回、冬場8回)叩く
・この警策を、臨済宗は「けいさく」と呼び、曹洞宗は「きょうさく」と呼ぶ
・曹洞宗は警策を立てて持つ、臨済宗は警策を肩にかつぐように持つ
・曹洞宗は袈裟をはおる時に紐と紐で結ぶ。臨済宗の袈裟には輪があって、それに紐を結ぶ
・お経の名前(タイトル)の読み方も微妙に違う

などなど、数々の違いがある。

私としては、座禅のとき、前を臨済宗の直道、後ろを曹洞宗の直道に巡回させ、前と後ろから同時にしばかれたい。

こうした違いに特に教義上の意味はなく、同じだと嫌だから少しずつ変えたようなところがあるそうだ。


坊さんYouTuberの隆盛


最近、各宗派のお坊さんが、YouTubeで説法したり、修行の紹介をしたりするので、それをお互いに見て、初めて違いに気づくことがあるらしい。

確かに、いろいろなお坊さんの番組を見ていると、それぞれ、他の宗派の番組を、ビンビンに意識しているのがわかる。

例えば、真言宗のゆうき和尚さんの番組では、真言宗と禅宗の違いを説明しているが、その際に、上の宗信さんの番組を参照しているようだ。



そして、他の宗派の番組もいろいろ見ていると、

「ナントカ宗のナントカさんのは登録数が多くて羨ましい」

とか、

「ナントカ宗は、最近の宗教なのに、歴史のあるウチより人気があって悔しい」

みたいな意識も垣間見えて、面白い。


仏事のときに聞く坊さんの話は、ありきたりで退屈なことが多い。

うちの近所のあるお坊さんの法話は、ほとんど朝日新聞の社説みたいで(「いじめはダメ」とか「平和が大事」とか)、不愉快ですらあった。

でも、YouTubeで人気のある坊さんの話は、もっと哲学的で、勉強になるとともに、人間的魅力も感じる。

「好きな如来(にょらい)ランキング」(ゆうき和尚チャンネル)みたいな企画も、マニアっぷりが面白い。

番組やコメント欄を通じた宗派間の交流もけっこう盛んで、普段の坊さんとは違った求道者としての姿を見ることができる。

葬式などの仏事はいわば日本の民俗に妥協した「お仕事」で、本当の仏教はプロ同士だけがわかる求道の世界、みたいな感じがある。

もう少しいろいろな番組を見てみて、改めて「坊さんYouTuberランキング」を書きたい。

ちなみに、「ゆうき和尚仏教・仏事解説」チャンネルが、登録者数から見たYouTube本山公式チャンネルのランキングを出していた。

各宗派・本山公式チャンネルランキング

(ゆうき和尚チャンネル調べ 2022年末時点)

第10位 日蓮宗公式(日蓮宗)6020人
第9位  浄土真宗本願寺派西本願寺(浄土真宗本願寺派)6460人
第8位  天台宗総本山比叡山延暦寺(天台宗)7670人
第7位  知恩院公式(浄土宗)7830人
第6位  曹洞宗SoToZen (曹洞宗)10100人
第5位  KuuTube高野山(高野山真言宗)10200人
第4位  宗教法人浅草寺(聖観音宗)11400人
第3位  全国曹洞宗青年会(曹洞宗)14400人
第2位  臨済宗大本山円覚寺(臨済宗円覚寺派)20800人
第1位  高野山の法話(高野山真言宗)27900人


1位 真言宗(フロントマン 空海)
2位 臨済宗(フロントマン 栄西)
3位 曹洞宗(フロントマン 道元)

という感じで、まあ納得できるかな。二つに別れている真言宗、曹洞宗のチャンネルをそれぞれ合わせれば、空海、道元がYouTubeの人気でツートップだろう。

(創価学会や親鸞会のような新宗教を入れれば、日蓮、親鸞も上がってくるだろうが)



<蛇足>


なお、日本の仏教界には近代の侵略戦争に協力した過去があり、特に禅宗にその責任がある。それを忘れているわけではない。

戦中の思想弾圧にも協力、または見て見ぬふりをした。その仏教界が、例えば統一協会問題などでエラソーに言えるのかと思う。

あまり野暮なことは言いたくないが、今のところ、過去のそうした負の部分に積極的に触れる仏教系YouTubeチャンネルは見たことがない。まあ、私より若い坊さんに言っても仕方ないとは思う。



<参考>


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