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日本保守党(百田新党)と「大きな物語」の復活

作家の百田尚樹が主宰する、いわゆる百田新党が13日未明、「日本保守党」という正式名称を発表した。

X(ツイッター)フォロアー数は、すでに立憲民主党を抜き、自民党に次いでいる。フォロアー数が20万を超えたら正式名称を発表する、としていた。


9/13未明、Xのフォロワーが20万を超えましたので、約束どおり党名を発表します。党名は「日本保守党(Conservative Party of Japan)」、略称は「保守党」です。よろしくお願い申し上げます。


「党」といっても、まだ実体はないが、具体的な政策や党メンバーなどは、10月17日の設立大会で明らかになるのだろう。


ネットを中心にした盛り上がりは、いまのところ、高須克弥の「愛知県知事リコール」騒動に近いと思う。

実際にふたを開けてみれば、「票」は思うように集まらず・・ということになるかもしれない。

しかし、私は冷笑的に見ているわけではなく、それなりに期待している。


私はリベラルなので、彼らの政治信条には共感しない。だから、党員になったり、票を入れたり、は、ないと思う。

それでも、ひとつには、マスコミに不当にパージされた百田への同情のようなものはあり(以前に「百田尚樹パージ」という記事を書いた)、寿命がつきる前に一矢報いたい、という気持ちは(同じ年寄りとして)わかる。

また、LGBT法の成立に失望して、自民党以外の保守党を立ち上げた経緯も、私なりに理解できる。


より根本的には、物語作家の百田に、日本社会に「大きな物語」を復活させたいという本能のようなものがあり、それに私は共感するからだ。

私は「日本を支配する『お坊ちゃん文化』」という記事を書いたとき、近藤正高の「54年生まれ、安倍晋三」を参照した。

そこで近藤は、安倍晋三やユーミンなど1954年世代の「弱点」として、「大きな物語」を作れないことを指摘している。


高度成長と新左翼運動の終わったあとに社会に出たこの世代には、少なからぬ人がどこか醒めた視点を持っている。それゆえに、確固たる信念を持って「大きな物語」を作り出すのには向いていない


「大きな物語」とは、ポストモダニズムのリオタールの用語だが、「日本国紀」を書いた百田は、「大きな物語」にあこがれる人である。

百田は安倍晋三ファンだった。しかし、安倍がなかなか「大きな物語」を作れないことに、不満だったのではないか。

「日本国紀」は、そういう不満から書かれたと思う。

(ただ、私は読んだが、「日本国紀」に「大きな物語」の興奮は感じなかった。もっと右の人たちから批判されたように、天皇制はたぶん彼の琴線に触れていない。彼はもっとアメリカナイズされた「保守」だ。)


安倍のあとを継いだ岸田文雄は、さらに「小さな物語」しか作れない人である。

目の前の課題を一つ一つ潰していくのが自分の仕事だ、と考えていることは、今度の内閣改造でもわかる。

もともと国民に「物語」を語れない政治屋なのだ。


そして、その事情は、リベラルや左翼の側も変わらない。

社会主義や共産主義の「大きな物語」がなくなったあとは、フーコー流に「ミクロな権力」と戦うことを使命とし、日常の言葉狩りやハラスメント狩りに血道を上げている。

つまりは社会の「風紀委員」に成り下がったわけで、リベラルや左翼が人気がなくなったのも当然である。


そういう全体状況へのいら立ちを共有しているので、私は百田の日本保守党に期待するのだ。

近藤正高が書いているように、「小さな物語」の時代に、「大きな物語」を描こうとして失敗したのがオウム真理教だった。

同じような悲惨な結末がないとはいえないが、百田はそれほど馬鹿ではないと思う。


安倍が亡くなったあと、朝日や毎日などの左派メディアと喧嘩できる政治家がいなくなった。

その点でも(いまさら失うものがない)百田には期待している。


出版界がどう動くかも、元業界人としては興味津々だ。

たぶん日本保守党のマニフェストのようなものが、幻冬舎や「HANADA」の版元など、百田と親しい出版社から出るだろう。

それが売れれば、反百田本も企画されるだろう。

無責任な傍観者としては、久しぶりに業界がにぎわうかもしれず、楽しみだ。


リベラル側はどう動くべきか?

ここはやはり、朝ナマで百田をボコった百田の天敵、井上達夫・東大名誉教授をかついで「井上新党」でも立ち上げてもらいたい。

リベラリズムの立場である彼もまた、左派政党が「生活闘争」に傾きがちなのを批判し、国家や憲法のような「大きな物語」を語るべきとする人だ。

(前にも書いたが、私が出版の現役だったら、井上達夫VS百田尚樹の再戦を企画する。必ずしも反百田ではなく、双方の言い分を公平に聞きたい。)


いずれにせよ、いま、辛気臭い岸田内閣や、ジャニーズ問題で、人びとの気分は晴れない。

大衆作家である百田には、しばらくのあいだでも、世の中をにぎやかに、少し楽しくしてもらいたいものだと思う。



<参考>


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