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【小説】ユーメと命がけの夢想家

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主人公「僕」が、毎週テーマに基づいた小説を1本描き、その内容を、梅茶から姿をあらわした〈ユーメ〉と語らいながら、「書きつづける」ことを日課にしていく物語。
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2022年1月の記事一覧

幕間005:構造と理屈なき展開【ユーメと命がけの夢想家】

幕間005:構造と理屈なき展開【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ある脚本家は、世の中にあふれるすべての物語の構造を、10の類型にまとめたというわ」
「貴種流離譚とか、勧善懲悪とかいう話?」
「それは説話の類型ね。見るなのタブー、なんてのもそうだけど置いといて。とにかく物語というのは数あれど、その構造というのは出つくされていて、いわゆる〈オリジナリティ〉というのは、もっと別の部分に宿るんでしょうね」
 今日のユ

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005:帰宅したら、何だかものすごいことになっているのですが【ユーメと命がけの夢想家】

005:帰宅したら、何だかものすごいことになっているのですが【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「帰宅したらよ、何だかものすごいことになっててさあ、ほら修一さ、暇なんだろ。ちょっと手伝ってくれねえか?」

 そう呼ばれたのは午前1時半。
 自主休講中ではあるが、スケジュールは詰まっている。なにせ午前の予定は、睡眠という重大な予定で埋め尽くされているのだ。
 山本の通話を開始したのだって、布団のなかで眠気に委ねかけた頃合いだった。

「いや、ね

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幕間004:三幕構成と本を読むということ【ユーメと命がけの夢想家】

幕間004:三幕構成と本を読むということ【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 最後の500字がなかなか決まらない。
「悪癖なんだよ、ラストシーンを決めずに突き進もうとしてしまうやつ」

「それにしては、まあそれなりに筋の通ったラストシーンになったんじゃない? 走りすぎてる感はあるけど」
「いいんだよ、ラストは走る。それより、今回も〆切に追われてヒイヒイしてしまった」

 そうなのだ、投稿期日の12時間前の、午前10時に書き

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004:きらめく星空【ユーメと命がけの夢想家】

004:きらめく星空【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「星空フロスターくん、君はもっときらめけるはずだ。よって、きらめくべきだ!」

 明日シャイニング先輩は、ときおりわけのわからない要求を突きつける。
 弁当の具材にぜんまいのゴマ和えを加えるべきだ、なんて具体的な要求から、部室の扉を開けるときはもっとぴょんぴょんになるべきだという、抽象的……を通り越して意味不明な要求まで。
 今回のはやや意味不明の

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幕間003:焦燥と設計【ユーメと命がけの夢想家】

幕間003:焦燥と設計【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「寒いな」
 窓の外は、すっかり雪化粧だった。
 川を挟んで向こう側ならまだしも、こちら側はちっとも降らない地域なのに、今年は特別だった。

「でも、どうせ明日には消えてしまうんでしょ。童心に還って雪だるまでもつくるつもりだったんでしょうけど」
「それでも、ぼたん雪が空を舞うのを見ると、どうしたってときめいてしまうんだよ」
 雪国の生まれだったら、

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003:トキメキ二重奏【ユーメと命がけの夢想家】

003:トキメキ二重奏【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「二人組、できたかなー?」
 教官の一言が、死刑執行の合図のように聞こえてしまって、マルサイは情けなさと屈辱でいっぱいになった。
「きょーかぁん、ここらへんにまだの人がいます」
 すかさず、ひょうきん者のレイトロが手をあげる。そして、おどけた調子でマルサイの付近を見渡すのだ。

「あれえ、どっこだあ、見えないなあ」
 教室はくすくすと笑い声がにじむ

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幕間002:適切な努め【ユーメと命がけの夢想家】

幕間002:適切な努め【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「結構悩んでるみたい?」
「まあ、悩むよ」

 恋なんて傷つくだけの代物だ。
 少なくとも今の僕にハッピーエンドな恋物語なんて書く気力は湧かない。

「だから、相手は猫にするってわけ」
「なんだよ、どうせ僕は逃げ腰ですよ」
「というより、恋愛というものに、想像以上の怯えを抱く自分自身に戸惑ってる、って感じ?」

 ユーメの言う通りなのであった。
 

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002:秘密の恋【ユーメと命がけの夢想家】

002:秘密の恋【ユーメと命がけの夢想家】

前回目次◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 クロイシさまというお方がいる。

 凛々しい眉毛とその横顔に、惚れてしまったんだと思う。でなけりゃ、一駅先の公園になんて通いつめたりなんてしない。
 あなたは舞い散る葉っぱを見つけると、夢中になって追いかけて、掴みとろうと躍起になる。その真剣な瞳が、好きなのだ。

 もっと、お近づきになりたい。
 それは叶わぬ願いなのかもしれないけれど。
 でも

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