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【洋楽雑考#12】メディチ家が描く浮世絵?〜ユーロビート

皆元気? 洋楽聴いてる? 

邦楽の話題から入る、というのは異例なのだが、Issaさん率いるDa Pump の3年半ぶりとなるシングル「U.S.A.」が昨年話題になった。オリジナルは1992年リリースのイタリア人アーティストJoe Yellow の同名曲。

日本では「スーパー・ユーロビート」コンピ・シリーズに収録されていた。以前ディスコをテーマにした際に、荻野目洋子さんの「ダンシング・ヒーロー」による再ブレイクにも触れたのだが、じわっと"来て"いる感のあるユーロビート・ムーヴメント。

とはいえ、この"ユーロビート"というターム、調べてみるとかなり興味深い、また不可思議なものであったことがわかって来る。


そもそもユーロビートとはなんぞや、という疑問にたどり着く。大雑把に言わせてもらうと、"ヨーロッパ産70's ディスコの延長であり、Hi-NRGから派生したサブジャンル"という感じか。


Hi-NRG(High Energy)なるジャンル、耳慣れない方もおられるかも知れないが(オレもそう)、その代表トラックについては多くの方が"あ、これなの?"となるはず。


1984年11月リリースの、Dead or Aliveのシングル「You Spin Me Round (Like a Record)」である。その後も数多くのヒットに携わったプロデューサー・チーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンの手によるこの楽曲。イギリスはもちろんのこと、ここ日本でも大ヒットを記録した。

グループのヴィジュアル面を担当していたピート・バーンズ(残念ながら2016年死去)の奇抜なルックスも楽しかったね。

当時Hi-NRGとされていたこのカテゴリー、1985年にRecord Mirror紙が当時のダンス・ミュージック・チャートを独自のネーミングで、"Eurobeat Chart"と改めたあたりがルーツのようだ。


実際にユーロビートを標榜した初めての楽曲は、イアン・レヴァインが手がけた女性グループEastbound Expressway による「You're a Beat」とされている。もっとも、レヴァイン本人のYoutubeアカウントを見ると、"イヴリン・トーマスの「High Energy」がジャンルとしてのHi-NRGの代表曲となっていて、その後そのジャンルがEurobeat になった。

「You're a Beat」の発音は Eurobeatのもじりで、あくまで新たなHi-NRGのアンセムを作りたかったので、活動を停止していたEastbound Expresswayを再始動させた。"と、かなりあっけらかんと書いている。


とかく、"おらが国が一番、新しいムーヴメントもまかせとけ!"みたいなイギリス・メディアの鼻息荒い意向がこのジャンルのスタートに大きく関与していたことは容易に想像できる。実際、1980年代後半、ユーロビートというタームはイギリス以外では、ほとんど使用されていなかったようだし。


また、どこまでをユーロビートと呼ぶのか、という疑問も個人的に沸く。
Dead or Aliveや、同じくストック・エイトキン・ウォーターマンの手によるBananaramaらが、このジャンルの代表格とされているが、じゃあHuman Leagueは違うんだろうか?数年古いアーティストだけど、ゲイリー・ニューマンは?日本でヒットしたといえば、OMD(Orchestral Manoeuvres in the Dark)だっているし。大御所中の大御所、Eurythmics の音楽だって、聴きようによってはユーロビートな気もするぞ。


と、けっこう"ファジー"な要素を含みつつ、我が国でこのジャンルは非常にユニークな発展を遂げる。


"なんだか、Nowくねぇか?"と、このジャンルにレコード・メーカー各社が着手するものの、Dead or Alive やBananaramaみたいな、"顔のわかるアクト"がパカパカ見つかるわけもない。そこで、取られた手法が"カヴァーの増産"だったのではなかろうか。


実際、イタリア出身のアーティストとしては破格のヒットを記録したマイケル・フォーチュナティ。今となっては、彼のアーティスト写真を見て、"この人‼︎"とわかる人の方が少ないはず。

しかし、BaBeという女性ユニットがカヴァーした「Give Me Up」を始め、80年代後半のお茶の間音楽に対する貢献度は非常に高い。

そして、このイタリアとの出会いが日本におけるユーロビートの命運を決定づける。


イタリア産の音楽というと、オレのような人間にはGoblin を始めとした、ユーロ・プログレが印象的。さすがにGoblinと直接の接点はないと思うが、1970年代からシンセ/エレクトロの育つ土壌のあった彼の国で、Italo-Disco(イタロ・ディスコ)というジャンルが独自に形成されて行く。


その中心人物だったデイヴ・ロジャース(本名:ジャンカルロ・パスクィーニ)にAvex社が接触、それが「Super Eurobeat」シリーズのリリースに結びついて行く。


ほぼ同時期に、アニメ(しげの秀一氏原作のコミック「頭文字(イニシャル)D」)での劇中使用、またアーケイド・ゲーム(ダンスダンスレボリューション)への参入も重なり、"日本産(メイド・イン・イタリー)ユーロビート"が完成する。また、パラパラ・ダンスの突然の流行も、その加速に大いに寄与した。


この時期になると、既に歌詞(さらには楽曲タイトルまで)に特に意味はなくなり、フロア中に響く高音のストリング系シンセとシンプルなビートが骨幹に。また、アーティストもいわゆる"匿名、変名"で楽曲をリリースするのが当たり前のような状態になっていた。

"顔が見える必然性"がなくなったのは、コンピ作がリリースの大半を占めていることに無関係ではないだろう。


このように、ジャンル自体が日本で咀嚼、再構築された例というのは、非常に特異なのではないだろうか。あの"びゃーびゃー"したシンセ音を街で聞くほど、逆に"あ、今オレ日本にいるわ"とヘンな感慨を覚えたりもする。イタリア産なのにね...


最近では、某カップ焼きそばのCM(内田裕也さんが、ハゲタカの着ぐるみと踊るという、もう"画期的"を飛び越えたアナーキーな内容)に、相田翔子さんでお馴染み、Winkの「淋しい熱帯魚」がフィーチャーされるまでの事態が。"純国産のユーロビート"、言い換えればガラパゴス的進化の極致...この国境も、果ては時空を越えるまでの、形容しがたい中毒性こそ、ユーロビートの本質なのか?

では、また次回に!


※本コラムは、2018年7月25日の記事を転載しております。


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