オーストラリアまで『オッペンハイマー』を観てきた話
「ちょっとウナギを食べに浜松まで。😉」
人生で一度は言ってみたい言葉ですね。
私はこれを映画でやりました。
「ちょっとオッペンハイマーを観にオーストラリアまで。😉」
クゥーッ!
言ってしもうたで!(笑)
このnoteでは最初になぜオーストラリアなのか、次に映画の感想を書きます。そして最後に日本の一部で問題視されている本作の日本ディスについて私見を述べます。
▼なぜこのタイミングなのか:
私も当初は日本公開を待つつもりでした。
しかし、待てども待てども決まりません。(苦笑)
そして10月。海外で円盤が11月21日に発売されるとアナウンスされました。ストリーミングや物理メディアが流通すれば、いよいよTwitterに画像やGIFなどのミームを介したネタバレが避けられなくなります。
YouTubeにクリップ映像もアップされてしまうでしょう。というかオッペンハイマーはもう皆は視聴済みである前提で話が進むことが多くなることが予想されます。特に海外の映画アカウント界隈では配信が始まれば一気に進むでしょう。
ユニバーサルは「ニーズがある限りは劇場で上映を続ける」と8月に宣言していましたし、実際にIMAX上映は続いていました。
しかし、家庭用ソフトが発売されたら、いよいよ終わってしまう可能性が高いです。クリスマス商戦も始まりますし、少なくとも通常プログラムからは消えそうな予感がしました。
そこで私は覚悟を決めて、滑り込みでIMAXを観覧することに決めました。
実は10月18日に上記ツイートをした時から裏では動き出していたのです。この時はまだオーストラリアのIMAXシアターがどんな興行をしてるのかちゃんと把握できてなかったので、実際に行ったメルボルンではなくてシドニーの名前を挙げていますね。(笑)
▼なぜオーストラリアなのか:
日本未公開の映画『オッペンハイマー』を映画館で観たいだけなら、近場から探せば台湾や中国や韓国でも観られます。
しかし私はこれらの劇場を選択しませんでした。それは本作を英語圏のシアターで観覧したかったからです。英語圏であれば画面に字幕が乗らないので没入感が飛躍的に向上します。そうでなくとも、画面の上に簡体字やハングルが乗ってても私は読めないのでジャマでしかありません。
ノーランが作りし芸術品にゴミを落とすとは何事か!
どうせ観るなら混じり気なしの純正品で。
…が今回の海外遠征のポリシーとなりました。
さらに私には、兼ねてからの夢がありました。それはアナログフィルムのIMAXを観ることです。これはデジタル化する前の大きなフィルムをそのままアナログプリントして映写する方法のことを指します。
デジタルと異なり直接字幕を焼き付ける必要があるアナログフィルムでは制作コストが大幅にアップします。
ましてやIMAX70mmフィルムは1秒につき1.7m使用するという恐ろしく燃費が悪い仕様です。180分を超えるオッペンハイマーではプリントフィルムの全長が18km、重量が270kgを超えます。そんな巨大な代物を、字幕を焼き付けて上映した後にプリントフィルムを保管しておくのも大変です。
なので、映画文化に理解があるアメリカカナダを除いて、アジアなど字幕が必須となる地域ではアナログのIMAXは普及していません。本物を見たければ自分で英語を武装して英語圏に飛び込むしかないのです。
こちらがIMAXフィルムの大きさを説明した図です。
IMAX70mmは1コマにつき15個の穴があるので「1570」と表記されます。本来は縦向きに走らせていたフィルムを横向きに走らせることで、より大きなイメージになります。縦向きのスタンダード70mmの穴が5個ですから、 IMAXの15個では3倍の情報量があることになります。
IMAXはフィルムが大きいから画面が綺麗なのです。これはスクリーンの大きさよりも重要な問題です。70mmフィルムのIMAXでは画像の情報量はデジタルでは16Kに相当すると言われます。
ちなみにアナログとデジタル2K/4Kを比較するとこうなります。
右上にある小さな四角が、いわゆるIMAXデジタル4Kと呼ばれるもので、日本にあるIMAXレーザーの映画館は全てこれです。池袋のgdcsであれ、大阪のEXPOであれ、この小さな四角を引き延ばしてスクリーンに投影しているに過ぎません。それでも十分過ぎるくらいに高精度で美しい映像が得られます。この小さなサイズに4K画質が詰まっているのです。
逆にいえば、アナログフィルムにはその10倍以上のポテンシャルがあるということです。
もちろんこれはあくまで理論値の話であり、このポテンシャルを完全に活かしきるには、撮影機材(レンズ)や撮影技術(フォーカス;ライティング;空気の綺麗さ;フィルムの管理)など、超えるべき課題が山積みです。さらに撮影した時のフィルムネガから、上映用にプリントする時点でも品質の劣化は起きます。よって、現実的に考えてここまでの格差がある(額面通りに16K対4Kになっている)ということはないでしょう。
しかしポテンシャルがある以上、IMAX70mmは映画好きであれば究極の夢の一つであり、私のように視力2.0を維持している人間にとっては挑戦を避けては通れない道です。だから私は《死ぬまでに一度は観ておきたい》と常々考えていたのです。
そこに来て、日本ではいまだに劇場公開の気配さえ見せないノーラン監督の渾身の作品『オッペンハイマー』ですから、これは千載一遇のチャンスだと私は捉えました。
1570に対応する施設があるのは世界中で、以下の30箇所のみです。
ここで私が目をつけたのはオーストラリアのメルボルンでした。
メルボルンは他のアメリカ、カナダ、イギリス、チェコと比較して《博物館に併設された施設である》という特徴があります。つまり商業施設としての利益よりも、学術的な目的で施設を運営管理しているので、オッペンハイマーのように文化的価値のある作品への理解や配慮が大きなプログラムになっています。実際に11月になっても上映を続けている数少ない劇場の一つでした。
博物館併設なので教育目的の短編ドキュメンタリーの上映ラインナップも豊富です。これらも日本ではほとんど観る機会のない貴重な作品です。(ある意味、フィーチャー映画しか日本の映画館ではまず上映されないので、稀少価値は高まります)
またメルボルンは文化が豊かで治安が良いことから観光地としての名声も高いです。せっかくオーストラリアまで遠出するのですから付随して観光も楽しみたいです。
こうして私の目的地はメルボルンのIMAXシアターに決定しました。
▼映画の感想:
最高でした。最もノーランの意図に近い1570フォーマット。海外遠征して大正解でした。本当に大正解でした。このあと日本で劇場公開されても意味がある遠征だったと自信を持って言えます。映画ファンとしての究極は達成できたので、もういつ死んでも良いです。(笑)
解像度は「申し分なく高かった」と思います。これまで私が観たIMAXレーザーGTでは決して得られなかった品質でした。見せてもらったぞ、アナログIMAXフィルムの実力とやらを。とガンダムに向かって叫んだシャアのような気持ちになりました。(笑)
私は常にフェアプレーの精神なのではっきり書きますけど、すでに観た人達や評論家の『オッペンハイマー』の高評価が心象描写に偏るのは映像の凄さだけなら過去作に負けてるからです。絵面は地味な映画です。
ただし、これCG使わずに撮影したってマジですか?という一種の縛りプレイだと思って観るとノーランで過去一番の映画かもしれません。RPGの低レベル攻略に近いと言ったら伝わるでしょうか?
たとえば本作の最大の見所と誰もが予想するトリニティ実験の核爆発も、そこに至るまでのテンションの上げ方はノーラン史上最高レベルですが、肝心の爆発自体は過去作と比較すると見劣りします。そりゃあ、事実ベースでアクションが地味だから当然ですよね。
しかし、この渋さを楽しめる人には極上の映像体験になると思います。
劇中でオッペンハイマーだけに見えている「天才のビジョン」を表現した映像はおそらくCGではなくて実際に電流や爆発や粒子などを撮影したものだと考えられますが、情報量がエグいことになってました。あれは4K相当のデジタルで描画するのは難しいと思われます。
ただ、これは1570で観覧したからこそ味わえた、という部分も正直あるかもしれません。それは、後日に4K UHDを自宅鑑賞した時に判るでしょう。
映画の内容はここではTwitterの文章を転載してサラリと済ませます。
がっつりネタバレ感想は後日改めて書こうかなと。
▼日本ディスについて:
さて、世間を騒がせたBarbenheimerにも関連して、本作『オッペンハイマー』が《原爆礼賛の反日映画》だと騒がれていたことにも言及しておきたいと思います。この章だけ内容を理解していただくために、ほんの少しだけネタバレになります。
結論、日本ディスがあったというのは、デマです。
順番に説明しましょう。
ここまでは映画の中で起きる事実です。
そして、この新婚旅行ジョークを受けて映画館の客席がドッと笑った。というのが「映画館にいた日本人の感想」として日本に伝わり、そのまま「アメリカ人はなんてひどい奴らだ」と、映画のことなのか、映画館にいた人達のことなのか、どちらとも不明瞭なまま拡散されて炎上したようです。
つまり、デマだったのです。
冷静に会話ができない人がSNSに集まった時によく起きる現象ですね。
これについての真実は、私と相互さんのTwitterでの会話が、よく整理されてわかりやすいものになったので、そのまま引用しておきます。
(*SNSで冷静に議論ができる人って貴重ですね!)
▼まとめ:
今回の海外遠征は、私にとって人生レベルの夢実現の一つであり、本当に良いものになりました。
メルボルンのIMAXシアターはノーラン推しが強いので、彼の写真や言葉を飾った特製パネルがあったりなど、一つの聖地でした。南半球で唯一の1570対応施設ですからね。そういう面での誇りを感じました。
また、シンプルに街が過ごしやすく、楽しい旅行になりました。
もしまだ『オッペンハイマー』を海外で観覧すべきか迷っている人がいたら、これを読んでどうするか決断する参考にしていただければ幸いです。
しかし、これを書いているうちにも悲しいニュースが。
私が1570を堪能した聖地メルボルンでも12月4日で上映終了してしまうそうです。😭
クリスマス・年末年始は大型作品が目白押しですからね…10月に私が抱いた「嫌な予感」は的中しました。
だから私は本当に滑り込みでしたね。やはりブルーレイ発売開始は大きかったのでしょう。今回ばかりは自分の判断力と行動力を褒めたいです。
まだアメリカなどでは1570で上映しているかもしれませんので、興味を持った方はぜひ調べるなどしてみてください。メルボルンも年明けあたりに再上映があるかもしれません。アカデミー賞ノミネートすれば大いにありうる話だと思います。
皆さんも良い映画体験ができることを願って。
(了)
最後まで読んでいただきありがとうございます。ぜひ「読んだよ」の一言がわりにでもスキを押していってくださると嬉しいです!