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【KDDI維新ホールメディフィットラボ講師インタビュー】道具を使うことで人は成長する!子どもパークで学ぶ力を身につけよう!≪山口芸術短期大学保育学科准教授難波章人≫

初めてはさみを使った時のこと、皆さんは覚えていますか?
今では当たり前のように使いこなせている「道具」たち。
しかし、使いこなせるようになるまでの過程の中で、
私たちは、その道具の使い方以上に多くのことを学んでいたのかもしれません。
道具を使うことで私たちは何を学び、どう成長していくのでしょうか。

KDDI維新ホール、メディフィットラボでは「健康寿命の延伸」をテーマに心身ともに健康となることを目的としたさまざまなイベントを開催しております。【7/17】遊びのひろば「こどもパーク2022」〜こどもの未来を考える日曜日〜を開催!
今回はコンテンツの一つ【SDGs遊びのひろば】を開催いただく山口芸術短期大学保育学科准教授 難波章人先生に「道具の使用と学びの関係」についてお話を伺いました(カメラマン/ライター

難波先生の研究内容についてーアーティストであり、研究者ー

美術教育、造形教育が専門です。その中で彫刻も自分の作品として制作しています。

難波先生の作品

難波先生の作品 タイトル:「回天」慰霊碑 設置場所:山口県上関町白井田
 難波先生の鉄の彫刻作品 設置場所:山口県上関町白井田

研究内容としては、こんな論文を書いています。

Web Site
スペインのバレンシア工科大学における彫刻教育の特質について

教育実践総合センター研究紀要 21 巻 147-160 頁2006-03-25 発行

スペインのコンプテンセ大学における彫刻教育の特質について (<特集>教科教育研究)

教育実践総合センター研究紀要 20 巻 93-107 頁2005 発行

保育学生の造形用具経験に関する研究 : Y短期大学保育学科1・2年生へのアンケート調査を中心に

山口芸術短期大学研究紀要 54 巻 33-42 2022-03 発行


上の2つは美術大学の教育環境について。
実は私はスペインに2年ほどいまして実際にそこで学生として授業を受けていたんです。
1年目はスペインのバレンシア工科大学に在籍していました。そこでは基本的に4つの素材を使って学生に教育をするんですが、それがシンプルですごくわかりやすかったんです。
この4つの素材とは木、石、粘土、鉄。その材料ごとにひとつひとつ教室があって。そこで学生が自由に制作できるんですね。またその教室を行ったり来たりしながらそれをミックスして作品を作っていくんです。

2年目はマドリードのコンプルテンセ大学に在籍していました。バレンシアは地中海に面しているのに対し、マドリードは内陸部にあり、取れる材料や質が違うのです。マドリードは特に リアリズムといって、リアルに作る、描くという手法がすごく有名な都市なんです。
現代では巨匠アントニオ・ロペスが有名です。

土地柄で教育環境は変わってくるものです。日本もそうですけれど。山口県は竹が取れるとか、土が取れるとか。それによって伝統文化が生まれる。萩焼なども有名ですよね。
その土地の大学でどういう美術教育をしていくかは、そこで何が取れるのかという材料の影響も大きい。そういった伝統が教育によってどう受け継がれているのか研究をしておりました。


道具を使うことで人は成長する

もう一つは、学生が道具をどれくらい知っているか、もしくは使いこなした経験があるか。いつ使い始めたかの研究です。
はさみ、のり、グルーガン、きり......etc 幼児教育で危ないとされているものも含め、調べてみました。
アンケート調査をして、特に面白かったのが、学生がこの経験をいつしたのかっていうのによって自分がその道具に対する好き嫌いがあるという結果が出たんです。
はさみやのりっていうのは幼児教育で使うわけですけれど、幼児教育の現場としては子供にとって危ないというものは避ける傾向があったり、どれくらい使わせるかは園によっても違います。
しかし、道具を使っていくことで成長は促されるものなのです。



動物と人間が違う所ってどんなところだと思いますか?
人間だけが道具を使う。道具を使うから、ものを変化させたりして文明を築いてきたんですよね。火をおこしたり。
道具を使うことは造形教育の根底にあるんじゃないかなと私は思っています。
道具っていうのは、やり方を教えて、後は自分で使い方を発見していくことが大事。しっかりと安全を確保した上で、道具を子供が主体的に使えるような環境づくりが必要だと思います。 


「危険」も経験させるべき

その中であの道具は危ないから与えないのでなくて、危ないことを伝えることが必要です。そのものが危険なんだと認識する経験をしないと、急に相手に向けてしまうこともある。そちらの方が怖いですよね。
使い方だけでなくその危険性を自分でしっかり理解し経験することが大事だと思います。

どんなに知識があっても道具は使ってみないと実際はわからないものです。 YouTube でノコギリの使い方が紹介されていたとして、なんとなく動画でイメージはできますが、自分が持った感覚と感触とか、ひいた時にどれぐらいの強さが必要なのかとか、しなやかさがいるのかとか、やってみないとわからない。
なんでも経験した方がいいものです 。力を入れればいいというものでもない。道具によって使い方があることを学んでほしいですね。

これは道具の使い方以外にも繋がっていくと思います。
何か尖っているところが危ないさそうとか、危機管理能力がないと大きな怪我に繋がっていく可能性があります。
知らないのが一番こわいものです。
高いところからいきなりジャンプする前に、跳び箱ぐらいから下りていくというような経験を何回もして、マットじゃないアスファルトに落ちたらどれぐらい痛いんだろうとか。いろいろと経験して学ぶことが必要だと思います。
経験が何よりの成長につながるものです。

道具の正しい使い方を伝える

子どもって最初はさみを使うとき、教えないと脇を開けてしまうんです。
脇を閉めてはさみを持ち、紙を動かす。そのほうがうまく切れるよと教えなくてはいけない。

脇を開けた状態。はさみの刃先が自分の方や左手に向いてしまう
脇を閉めた状態。安定してまっすぐ切ることができる

一度切り、次に切り進むことを教える。そして、最後に小学校に上がるまでにまん丸が切れればゴールですね。
習字や箸、鉛筆の持ち方なんかもそう。
最初にしっかりと身につけておかないといつまでも癖が出てしまう。
幼児の教育に大事なのはやっぱりそういった道具の使い方、大切さ、危険さをしっかりと身につけられるように教えることかと思います。

一方で、子どもにとっての正しいやり方というのもあります。
例えばホッチキスを使うとき、大人は片手でできますが、子供はまだ力が足りないことがあります。
しかし、両手で押すということはできる。じゃあ今はホッチキスはこう使いましょう。と、今子どもたちができる範囲で使いやすいやり方を教えてあげることも必要なのです

子どものホッチキスの使い方
大人のホッチキスの使い方


毎年お馴染みになった「遊びのひろば」について

7月17開催するこどもパークでは、「遊びのひろば」という山口芸術短期大学の学生がそれぞれコーナーあそびを作り、そこで子ども達に遊んでもらうというイベントを開催します。

大学の授業の中で材料の加工方法や道具の使い方について教えるものがあり、それをもっと親しみやすい形ににと発展したものが今の「遊びのひろば」です。
最初は参加人数も少なかったですが、年々評判を呼び今では300人ほどご参加いただくイベントとなりました。

アナログ遊びが創造力を育む

身近にある材料を使って遊ぶっていうことがとっても大事です。
例えば生活の中で出てきたそのトイレットペーパーの芯。そんなものでも工夫したら遊べるんものなんです。
輪切りにしたらどうなるか、ひもを通したらどうあそべるか。
電車が通ってるようにも見えるかもしれないし、半分に切ると入れ物になるかもしれない。浮かべたら船になるんじゃないか! などなど
想像はいくらでも膨らませられるもの。
その材料の用途とは関係ないものの中で発想して作ったり遊んだりすることがあっても楽しいと思いますし、感性や想像力を豊かにします。
筒を切る時はどれくらいの長さで切るのか、算数的な要素も学ぶことができます。
最初は感覚の中でやってると思いますが、それを繰り返す中で自分で考える力につながっていくのです。
ものがたくさんある時代ですが、これしかないという制限された中でどうするか考えるのも大事なこと。
その中で工夫するっていうことが生まれます。これをどう加工しようかなど自ら見つけていくプロセスが必要です

また、トイレットペーパーの芯もお尻の方を押さえて離すとバッタのように飛びますよね。じゃあ足つけてみようかとか。そういった「見立て遊び」の中からどんどん子どもたちは創造していくものなんです。

学生はそれを分かってコーナーあそびを作ってくれています。
参加している子供がいろいな着眼点をもって自ら発見することをさせてあげると、それが習慣となり、
大人になった時に、アイデアを出すところに結び付いていくと思うのです。

実は大人も楽しめる「こどもパーク」の魅力

コーナーあそびの内容は、年齢に合わせて簡単なものから難しいものまで分けています。
紙のいけすを作って、磁石の釣りができるお店もありますが、そこでは軽そうに見えて実はすごく重い魚がいたり、磁石の場所がわかりづらかったり難しい簡単っていうのを段階的に付けています。
小学生以上は難しくするなど、年齢に合わせて考えて遊んでもらうことも工夫しています。

思ったより重いぞなどの感覚ってテレビゲームの中ではなかなか体験できません。是非こどもパークに遊びに来てくれた時にはそういう工夫したところと材料の使い方なども観ていただきたいです。

美術が育む心身の健康

美術というのは、自由なところがいいですよね。
私の立場から言うと、美術や造形を通して楽しんでもらうっていうのは心身の健康につながると感じています。
小学校に入ると、教科の勉強が始まり、定められた時間の中で動いていきます。
なのでそれまでにしっかりと親子で遊ぶとか。周りに左右されず、自分の環境の中で何か工夫して考えてみて遊ぶっていうことをしっかりやる。その中で個性とか主体性とかが育まれると思うんです。

私の長男も二歳の時はちょっとずつ物を作ってあそび始めるんですけど
集中力がついてくると60分くらいずっと黙ってティッシュの箱などをセロハンテープでくっつけて、遊んでいました。
それが面白くて。
それを始める導入部分は一緒に関わるかもしれませんが、時間が経つと没頭し始める時間があるんですよね。
そこを見逃さずに、その集中する時間を見守っています。
こういった時間が集中力にもつながっていくものです。


心身の健康と考えた時に、人生において何でも一つでもいいので自分の興味関心事があるっていうのはとても大事なことなんじゃないかなと思います。
親子とのコミュニケションの中でも、子どもが好きな事が一つでもあって、それを応援してあげたらいいんじゃないかなと私は思っています。


日常はすべて学びの連続

遊べる材料は日常にたくさんあります。ペットボトルとかキャップであるとか、紙コップ、紙皿。捨ててしまうようなものでも工夫を凝らせば立派な遊びの材料になります。道具を使って考える力を学んでいく。
しかし、なにより一緒に楽しむっていうことが大切です。
親御さんが楽しいとお子さんも楽しいもの。保護者の方もお子さんと一緒に楽しむスタンスでぜひこどもパークへ遊びに来てほしいです。

難波先生をお招きした【7/17】遊びのひろば「こどもパーク2022」〜こどもの未来を考える日曜日〜 は10時~開催!親子で楽しく学びを深めていきましょう♪


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