展覧会レポ:江戸琳派の巨匠・酒井抱一と弟子たちの魅力を楽しむ
【約2,000文字、写真18枚】
大名家の子弟として育ちながら、琳派の絵師となった男がいます。彼が晩年を過ごした庵と、その弟子たちの展覧会をご紹介します。
吸い寄せられた屏風
京都市の東山は、古都文化の中心地であり、風光明媚な場所でもあります。そんな場所に、自然を描いたありきたりの絵画を並べても、埋もれてしまうだけです。しかし、ぽつんと異質な空間をつくりあげ、その存在を誇示する屏風に出会いました。
吸い寄せられるように、私も近づいてしまいます。群青色の川、妙なうねりです。
少しずれると、カエデの紅葉が見頃です。よく見ると、葉は微妙に異なった色形をしています。
大胆な構成に、繊細な色使い。緑青の小山の脇にリンドウです。葉っぱを触ったときのざらつきまで感じます。
決して主張するタイプの作品ではありませんが、よく見ると、本質的なアートの楽しみが詰め込まれた傑作だとわかります。
構図はかつて尾形光琳が考えたもののようです。山本素堂は光琳の金地を銀地に転換するなどの工夫をしたといいます。 全然違うテイストのものが混在して、絵の中で散歩している気分になれます。
酒井抱一のセンス
徳川将軍家に近い譜代大名家の子弟として育ちながら、37歳で出家した酒井抱一(さかいほういつ)。彼は琳派の絵師となり、スターダムにのし上がりました。「抱一」とは、あらゆる矛盾を呑み込んだ聖人の身の処し方という意味があるそうです³。
才能に溢れ、オシャレでハイセンスな抱一。吉原で上品に遊ぶ、都会的で淡泊な印象を受けます³。そんな彼が50歳の手前で遊女を身請けし、庵で暮らすことになります。
お正月に二人で描いたのがこちらの作品です(小鸞は漢詩を添えました)²。
太い木は枯れており、脇から新しい枝が出て、花を咲かせようとしています。古い木は、酒井家のことを象徴しているのでしょうか。漢詩の後半には「~春は遠いが(梅の)よい香りが漂って来る」とあります²。
新生活を始めたプライベートな時間にこんな作品を作るなんて、インテリジェンス溢れるお二人です。
抱一は、出家しているので当然かもしれませんが、雨華庵では仏画もたびたび描いたそうです。精緻に描かれているのに、どこかリズミカルという抱一らしさを感じられるのも面白いですよね。
さらにこの庵で、あの大傑作が誕生します。今回の展覧会にはありませんが、私のコレクション(ポストカード)からご紹介します。
私は抱一の《夏秋草図屏風》が大好きなのですが、お弟子さんたちにもリスペクトされていたのでしょう。こんな作品が展示されていました。
よーく見ると、奥に二匹の虫がいます(ボケてすいません)²。自分たちを投影しているのでしょうか。 秋の草に虫、何気ない自然の景色なのに、なぜか情緒を感じます。
抱一終の棲家、雨華庵(うげあん)ゆかりの絵師
琳派といえば、やっぱり遊び心です。表装にカキツバタが描かれており、コイが飛び出してきそうに見えます。
今回の琳派展は、雨華庵ゆかりの絵師たちを多角的に蒐集した「うげやんコレクション」が多数展示されています¹。なかでもこちらは、うげやんコレクションの第1号。蓬莱山を描いたグラフィックデザインのような作品です。
充実した蓬莱山コーナーにあります。
まとめ
琳派展は、細見美術館で人気のコンテンツです。今回の展示は、解説を読むだけではなく、絵に身体をまかせて楽しむ内容でした。決して大きな会場ではありませんが、時間に余裕をもってお出かけされることをオススメします。
酒井抱一は来年度の大河ドラマの主人公、蔦屋重三郎とも接点があったかも。重三郎の気分で眺めるのも乙なものかもしれませんね。
■information
おまけ
帰り道にふと立ち止まり、写真を撮ってみました。
秋の風がすっかり冷たくなりましたね。
ソース;
¹:フライヤー|琳派展24「抱一に捧ぐ-花ひらく<雨華庵>の絵師たち」細見美術館
²:解説パネル|琳派展24「抱一に捧ぐ-花ひらく<雨華庵>の絵師たち」細見美術館
³:玉蟲敏子『もっと知りたい酒井抱一 生涯と作品』東京美術、2008
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