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映画鑑賞

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映画感想など
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二度と彼のような犠牲者を出さないために~映画『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』~

二度と彼のような犠牲者を出さないために~映画『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』~

1972年11月8日。早稲田大学2年生の川口大三郎君が友人と談笑しながら大学構内を歩いていたところ、男たちに呼び止められ、問答無用で教室に拉致された。
友人たちが「川口を返して欲しい」と教室に行くが、暴力によって追い返されてしまう。教師たちも何度か教室を訪ねてくるが、門番役の学生たちに声をかけるだけで教室に入ろうともしない。
翌日、川口君は死体で発見された。
体中に40カ所以上の打撲跡があり、現場

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探さないでください 私はどこかにいますから~映画『おらが村のツチノコ騒動記』~

ツチノコは絶対にいる!

映画『おらが村のツチノコ騒動記』(今井友樹監督、2024年。以下、本作)を観ながら、そう確信した。
だって、全国のお年寄りがこぞって、「自分も見た、近所の誰それさんも見た」と、子どもに還ったように目をキラキラさせて興奮気味に話すのだから、これは絶対にいるのだ。

こうした話は昔からある。
「雪男」だの、「口裂け女」だの、その他諸々の都市伝説……

しかしそうしたものと「ツ

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第33回日本映画批評家大賞 授賞式

2024年5月22日。東京・有楽町の東京国際フォーラム ホールCにて、『第33回日本映画批評家大賞 授賞式』が開かれた。

日本映画批評家大賞は、公式サイトによると、『映画界を励ます目的のもと、 現役の映画批評家が集まって実行するもので、 1991年 水野晴郎が発起人となり、淀川長治、小森和子等、 当時第一線で活躍していた現役の映画批評家たちの提唱により誕生した』とある。

2024年4月10日に

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映画『ゴースト・トロピック』

以前、別稿にも書いたが、酔っ払って終電に乗れなかったり、乗れても寝過ごしてしまったりして、深夜の街を自宅目ざして歩き続けた経験が、何度もある。
見知らぬ場所ということもあるし、それ以上に「深夜」という要素が大きいのだと思うが、普段は見えない物や人に遭遇することが多い。

間違ってはいけないのだが、それは、昼と夜で街に出る人が入れ替わる、ということではない。
夜遭遇する人も、ドラキュラでない限り、我

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映画『夢の中』

映画『夢の中』

あえて、ここから始める。
2024年5月4日、劇作家・演出家・俳優の唐十郎氏が逝った。
70年代アングラ演劇を牽引してきた氏の作品は、新宿花園神社に紅いテント造りの、謂わば「見世物小屋」のような場所で上演され、その作風は「幻想譚」「観念的」とも云えるものだった。

映画『夢の中』(都楳勝監督、2024年。以下、本作)を観た人は、本作に「幻想譚」「観念的」という感想を持つかもしれない。
しかし、本作

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映画『悪は存在しない』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

物語の序盤、ちょっと奇妙な電子音楽をバックに子どもたちが各々奇妙な姿勢で静止しているシーンを観て、映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督、2023年。以下、本作)は当初、「サイレント映画」として企画されたものだったことを思い出した。
日本で生まれ育った我々には、後のセリフでそれはすぐに「だるまさんが転んだ」をやっているのだとわかるのだが、しかし、もし「サイレント映画」だったらと考えた後、本作が初めて

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映画『あんのこと』(完成披露舞台挨拶付先行上映)

現実に起きた事件をモチーフにしています。

映画『あんのこと』(入江悠監督、2024年。以下、本作)の冒頭のテロップに身構えそうになる。

冒頭の主人公・杏の表情と、続く退廃的なシーンに怯みそうになる。

しかし、身構えることも怯むことも、してはいけない。
それでは本作が見せたいものを見られなくしてしまう。

冷酷な言い方だが、本作は「映画」だ。
スクリーンの中の杏が、どんなに酷い・辛い状況に陥っ

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立ち現れた「等身大の女子高校生」~映画『水深ゼロメートルから』~(改稿)

立ち現れた「等身大の女子高校生」~映画『水深ゼロメートルから』~(改稿)

高校演劇のリブート企画第二弾で、4人の女子高校生の物語で、しかもそれを、4人の女子高校生の物語を描いた超名作映画『リンダリンダリンダ』(2005年)を生み出した山下敦弘監督が撮る。
これはもう絶対観るしかない!
ワクワクしながら、映画『水深ゼロメートルから』(山下敦弘監督、2024年。以下、本作)を観て、見事なまでに強烈なビンタを浴びせられた、いや、物語に即して言えば「砂をかけられる」、しかも男で

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他人の人生を繋げてゆく~映画『青春18×2 君へと続く道』~

1988年10月10日、大阪国際交流センター。
「子供ばんど(KODOMO BAND)」の2000本目のライブが行われた。
何度目かのアンコールで、ヴォーカル・ギターでリーダーの、うじき"JICK"つよしは、2000本ライブを達成した喜びを語り、メンバーとスタッフたちに感謝を述べた後、歌い始めた。

映画『青春18×2 君へと続く道』(藤井道人監督、2024年。以下、本作)の主人公・ジミーはたぶん

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歌の力は凄い!~映画『ラジオ下神白』~

震災なんて無かった方が良かった。
もちろん、そのとおりだ。
2011年の東日本大震災では自然災害だけでなく、それ以上に、原発事故や復興計画・復興事業の混乱・不手際といった人災に被災者の方々は翻弄され続けた。
震災なんて無かった方が良かった。
もちろん、そのとおりだ。でも、震災も人災も起きてしまった。
それがどんなに理不尽なことであっても、その過去を変えることはできない。
とても不謹慎な言い方かもし

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映画『見知らぬ人の痛み』に寄り添う

映画『見知らぬ人の痛み』に寄り添う

ネット検索をほとんどしない。そもそもネット自体そんなに利用しない。SNSも(LINEを含めて)やっていないし、配信動画も見ない。
理由は簡単で、ネットには私の知りたい事が書かれていないから。

当たり前のこと過ぎて忘れているかもしれないが、ネットには「誰かが書いたことしか載っていない」、しかも、テスト用紙にたとえれば、途中の計算式などを無視して解答しか書かれていない、私が知りたいのは、「答え」では

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映画『さよなら ほやマン』【映画賞受賞記念アンコール上映】

映画『さよなら ほやマン』【映画賞受賞記念アンコール上映】

スクリーンで観られてよかった。

映画『さよなら ほやマン』(庄司輝秋監督。以下、本作)が2023年に公開された時、名作だと評判になっていたのは知っていた。上映後の映画館からたくさんの観客が笑顔で出て行くのを目の当たりにしたこともある。
2024年になってからも、各地でロングラン上映されていることも知っていた。
なのに、私は他の映画や芝居などを優先して、観に行かなかった。
だから、本作で兄弟を演じ

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人の夢を笑うな~『映画コザママ♪ うたって!コザのママさん!!』~

人の夢を笑うな~『映画コザママ♪ うたって!コザのママさん!!』~

人の夢を笑うな

『映画コザママ♪ うたって!コザのママさん!!』(中川陽介監督、2024年。以下、本作)で印象的なセリフだが、しかし我々は、そもそも「夢」というものに、それこそ夢を持ちすぎているというか、縛られているのではないか、と思った。

物語の構造としては、「ご当地映画」と「再結成物語(『大きなハードル』=仲違いの解決)」の定型を踏んでいる。しかし、数多のそれらと決定的に違うのは、そこが沖

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映画『霧の淵』(ユーロスペース独占先行上映)

映画『霧の淵』(ユーロスペース独占先行上映)

「私はまだ子どもやから」
母親と並んで歩く12歳の少女の正面からの2ショット長回しのシーンを観ながら、その少し前に少女が母親に告げた言葉が蘇り、何故だか泣きたくなった。

映画『霧の淵』(村瀬大智監督、2024年。以下、本作)はフィクションでありながら、それを支えているのは圧倒的な「リアル」だ。

まず、奈良県吉野郡川上村の自然があり、そこに足繁く通った村瀬監督、その中で築かれた関係によって地元の

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