探さないでください 私はどこかにいますから~映画『おらが村のツチノコ騒動記』~

ツチノコは絶対にいる!

映画『おらが村のツチノコ騒動記』(今井友樹監督、2024年。以下、本作)を観ながら、そう確信した。
だって、全国のお年寄りがこぞって、「自分も見た、近所の誰それさんも見た」と、子どもに還ったように目をキラキラさせて興奮気味に話すのだから、これは絶対にいるのだ。

こうした話は昔からある。
「雪男」だの、「口裂け女」だの、その他諸々の都市伝説……

しかしそうしたものと「ツチノコ」との決定的な違いは、子どもではなく年寄りがーそれも「普段から嘘もつかない実直な人たち」がー「見た見た」と本気で信じていることと、それが「全国的」だということだ。

本作で知ったのだが、「ツチノコブーム」は2回あったのだという。
1970(昭和45)年生まれの私としては、子どもの頃に近所の友人たちと、当時一面に広がっていた田んぼのあぜ道を捜索した記憶があるが、それが本作では「第一次ブーム」といわれる。
「第二次ブーム」は、1980年代後半に起こったのだという。
ちょうど「都市伝説」という言葉が巷で言われるようになった頃で、しかしそれらと決定的に違うのは、だから上述したように「年寄り」が「本気」で発信していたということだ(詳しくは知らないが、確か所謂「都市伝説ブーム」は、深夜ラジオがきっかけーつまり、発信者は「若者」-ではなかったか)。

その決定的な違いこそが、数多の「都市伝説」が出てはすぐに消えを繰り返しているのに対し、この21世紀も四半世紀を迎えようとしている現在においても「生き残っている」、唯一の「伝説」となった理由ではないか。

上映後のアフタートークに登壇した今井監督は、『「ふざけた映画なのかと思ったら、真面目な映画だった」という感想をよくいただく』と言った。

本作は、往年の「~探検隊」とか「~埋蔵金」のように、「捜索隊」を結成してツチノコを探してみた、という映画ではない。
UMAユーマ(未確認動物、という言葉は「第一次ブーム」の頃にはなかったが)や都市伝説が、ネット上の「ネタ」(「信じる・信じない」ということも含めて)として消費されるだけのものになりつつある現在、何故、ツチノコは「土地というリアル」に留まり続けることができているのか。
それは逆に言えば、何故、ツチノコ以外はネット上の「ネタ」になってしまったのか、ということになるが、つまり、本作はそれを真面目に追求している映画だ。

探さないでください 私はどこかにいますから

本作公式サイトには、そう書かれている。

さっき、「土地というリアル」と書いた。
農家の人でなくても、人々は日常生活の中でふと、地面や田んぼ・畑、或いは山や川を見ながら、そこで暮らす様々な生き物たちに思いを馳せる。
人々の思いの中に、当然、ツチノコも入っている。

それが「土地というリアル」であり、だから、本作を観れば「ツチノコは絶対にいる!」と思えるのだ。

メモ

映画『おらが村のツチノコ騒動記』
2024年5月25日。@ポレポレ東中野(アフタートークあり)

本文の締めの文章は本当で、今井監督からの「ツチノコはいると思う人」という問いかけに、ほぼ全員が挙手したのだ(もちろん私も)。


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