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マニュアルフォーカスで撮った部活の思い出

今日は久しぶりに写真関連っぽいタイトルですが、カメラに興味のない方でも読んでいただける内容です。

私が、実際に撮影して深く思い出に残ったので記事にさせていただきました。気楽に読んでいただければ嬉しいです。

撮影依頼

9月上旬、撮影依頼がありました。
内容はダンス部の「引退公演」を撮影して欲しいというものでした。

その学校は全国大会にも何度も出た事があるダンス強豪校。

今年は、他のスポーツでも甲子園や総体など多くの大会が中止になったように、ダンスにおいても地区大会および全国大会も中止となりました。

そんな中、監督や父兄の計らいで、最上学年になってからイベント・大会にもほとんど出ることが出来なかった3年生のために「引退公演」を企画されました。

ダンス写真の経験はほとんどありませんでしたが、このような特別な感情に触れる機会は滅多にありません。「やります」と即答しました。

リハーサル

迎えた引退公演、今日ここに集まる人々の心模様を現わしているかのように淡いグレーの曇り空でした。


開場2時間前に到着し、カメラに標準・望遠2本のレンズを装備して会場に入りました。

公演は30分ノンストップ。3年生を中心に全学年約50名が参加して行われます。MCも全てみんなで分担しHIPHOPからJAZZダンスまで、3年間の総決算のような内容です。

ダンス公演は、曲調にあわせてステージの照度も変わったり、ステージの使い方など監督と入念に打ちあわせをしました。

迫りくる開演時間を前に何度もリハーサルを繰り返します。テスト撮影中から生徒たちの今日にかける想いや熱量がレンズを通して伝わってきます。

3年生は、昨年も全国大会に出場し上位入賞。前年の入賞メンバーが揃った今年こそは!と監督・父兄ともども期待に胸を膨らませていたそうです。

入学してから3年間、夢見てきた大きな目標を突然失い、現実と向き合いながらも懸命に踊る生徒を見てリハーサル中から胸が熱くなりました。

このメンバーで踊ることができる最後の機会。リハーサル中もリラックスした雰囲気の3年生とは対照的に下級生は、何とも言えない緊張感を醸し出していたのが、とても印象的でした。

開演

50名ほどの定員で、一杯になるであろう小さな会場に一つ一つ十分に距離をとって置かれたパイプイス。感染予防の為、公演中の応援・歓声は一切禁止です。

会場内の密集を避けるため、3年生の父兄のみが入場を許可されています。すでに着席された3年生の父兄の表情から見届ける決意のようなものを感じました。

不思議なもので小さいお子さまもたくさんいたのですが、騒いだり泣いたりする子は一人もいません。きっと空気を感じとっていたのですね。

YOASOBIの「夜に駆ける」に乗って公演スタート。会場に張り詰めた緊張感を溶かしてゆくような躍動感溢れる動きで、会場が一つになるのに時間はかかりませんでした。

リハーサル時とは一変、異様なほどのエネルギーを発している前列の3年生を中心に「全体・ユニット・ソロ」と曲調にあわせ、ポージングを切りとりながら撮影をします。


終盤に差しかかった頃には、汗なのか涙なのか…みんなの顔がキラキラと輝きを増してきました。

最初は、少し固かった表情が、心から仲間とのダンスを楽しんでいる表情に変わっていきます。喜びの感情を撮影することを心がけました。

笑顔を絞り出す」という表現が適切かどうかわかりませんが、仲間や監督、親御さんへの感謝を笑顔と全身を使って精一杯、表現しているように見え、また胸が熱くなりました。

きっとここまで……

「なぜ自分の代にこのようなことになるのか」

「目標がない中でダンスをやっても意味がない」

「早く仲間と会いたい」

「ダンスがやっぱり好きだ」

「仲間と一緒にダンスを踊りたい」

哀しみ、悔しさ、怒り、喜び……さまざまな心の葛藤があったと思います。それを乗り越えて行き着いた笑顔。

ダンス撮影で表情を追いかけることは、セオリーにないのですが、気が付けば涙混じりの笑顔を夢中で追いかけていました。

演目が全て終了すると会場内から精一杯の拍手が、みんなに向けて贈られました。

フィナーレ


公演終了後、監督が、みんなをステージ前方に集め、全員ステージ方向に向けて座らせます。

会場内が、暗転しステージ上でムービーが始まりました。

それは、1年生の頃から監督が、撮りだめてきた3年間の記録と3年生一人一人に向けた感動的なサプライズメッセージでした。

そしてムービーの最後に

「君たちと全国制覇したかった…。」

という文字が流れた瞬間、それまで胸の底に抑え込んでいた想いが堰を切って溢れだし、部員全員が嗚咽を漏らして泣き始めました。

暗闇でピントがあわない中、マニュアルフォーカスに切り替えて最前列の3年生に必死にピントをあわせてブレないようにスローシャッターで溢れ出した感情を撮影しました。

3年生の為に、このようなフィナーレを準備するのに監督は、毎晩泣きながら、みんなの事を想いながらムービーを作られたそうです。

今日をもって部活動を引退し、新しい道を歩んでいく3年生のために。

またこれからダンス部を背負っていく下級生のために。保護者も一緒に前に進んでいくために。

今はまだ夜明けを目指して彷徨っている状態かもしれませんが、道を明るく照らしてくれる人が周りにはたくさんいます。明るい朝がみんなに訪れますように……。


さいごに

素敵な出会いに感謝。

このような繊細な感情を私の文章では表現しきれませんが、マニュアルフォーカスで撮影した暗闇の中の表情などカメラだから捉えることができる感情はたくさんあると改めて感じました。


まだまだカメラも捨てたものではありません。
写真喜んでもらえると嬉しいな。


カメラと同様に、監督のように子どもたちの繊細な感情をキャッチして、背中を優しく押してあげることができるといいですね。

さいごまでお読みいただきありがとうございました。

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