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つげ櫛:お手入れが機能を高め、使い続ける動機に。相撲や歌舞伎とも縁がある、日常的かつ文化的な道具。(CASE: 93/100)

▲「つげ櫛」とサステナビリティ

皆さんは「つげ櫛」を使ったことはありますか?私が初めてつげ櫛を触ったのは小学生低学年のころ。洗面台の一番上の引き出しを開けると見えた木のようなものを取り出してみると、ふわっと柔らかい香りを感じました。普段目にする櫛とは異なる、丸みを帯びたフォルムと、手に馴染む握り具合、柔らかく髪を梳かしていく感覚が気に入り、使うようになりました。それまでは、櫛といえばプラスチックのものや、気軽に100均等で購入してすぐ買い替えるものだと思っていたため、母から「油を染み込ませて使うとより良い状態で、かつ、長く使える」と聞き、「そんなに何年も使えるのだろうか?そもそも櫛に油が染み込むとは何事なんだ…」と不思議に思っていました。

つげ櫛とは、本ツゲを用いた櫛のことを指します。本ツゲとは、山形、宮城以南の本州と四国、九州に分布する広葉樹で、木の表面がとてもきめ細かく、塗装しなくても肌触りが良いことで有名です。

つげ櫛で髪を梳くと、切れ毛を防いで美しい髪になるといいますが、それで終わりではありません。つげ櫛に、椿油などの油を染み込ませる定期的なお手入れを続けると、櫛の機能がさらに高まり、使うたび髪は美しくなりますし、櫛がきれいな飴色に変化して、櫛自体を育てる楽しみも感じることができます。そうすると、またその櫛のお手入れに精が出て、より良い状態になった櫛を使って髪を梳きたくなるというからくりです。一つの櫛で何十年も使い続けたくなる好循環のサステナビリティができていますね。
メンテナンスに特別な機械を必要とせず、人の手と時間の経過に委ねることで完成を待つというのも私には新鮮でした。

さて、長い年月を共にできるつげ櫛ですが、相撲や歌舞伎などの文化とも深いつながりがあります。力士のまげや、役者・人形のかつらなどを結い上げる床山と呼ばれる職人さんたちは、いくつもの櫛を用い髪型を完成させますが、実はこのつげ櫛がそのうちの一つとして一役買っています。髪を扱う職人さんが、髪を美しく育てながら末長く使える道具としてつげ櫛を選ぶことは、その高い機能性からも納得できます。
このように、つげ櫛は普段の生活のお供としてはもちろん、私たちの文化を支え、共存しながら、今世まで受け継がれてきたのです。

私があの時出会ったつげ櫛は、残念ながらうまくお世話できずにお別れしてしまいましたが、いつか櫛を育て慈しむ生活ができればと考えています。

▲参照資料

▲キュレーション企画について

イノベーション事例についてi.labがテーマにそって優れた事例のキュレーションを行い、紹介と解説を行います。

2022年のテーマは「サステナビリティ」です。

▲今回のキュレーション担当者

i.labインターン 前田晏里

▲i.labについて

i.labは、東京大学i.school ディレクター陣によって2011年に創業されたイノベーショ ン創出・実現のためのイノベーション ・デザインファームです。東京大学i.school(2017年4 月 より一般社団法人i.school)が世界中のイノベーション教育機関や専門機関の知見を研究しながら独自進化させてきた理論知と、i.labが産業界で磨いてきた実践知の両輪で、企業向けにイノベーションのためのプロジェクトを企画·運営しています。

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