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読みがえり

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読んだ本のレビュー(書評)をまとめています。雑多な書棚ですが、興味があればどうぞ!※注意🚨紹介している本を一度読んでから開くのをオススメします。限りなくネタバレに近いので笑笑
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#読書

読書:『永続敗戦論』白井聡

読書:『永続敗戦論』白井聡

①紹介

政治学者の白井聡氏による『永続敗戦論-戦後日本の核心』(講談社+α文庫、2016年)を紹介します。2011年の福島第一原発事故がもたらしたもの。それは「戦後」の終焉。長きにわたり続いている米国への従属とアジアに対する敗戦否認は良くも悪くも、日本の国内外に諸問題を生じさせてしまったようです。


②考察

● 「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米

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読書:『人間機械論』L.メトリ

読書:『人間機械論』L.メトリ

①紹介

18世紀フランスの医師ド・ラ・メトリによる『人間機械論』(杉捷夫訳、岩波文庫、1957年)を紹介します。比較解剖学に基づき、人間と動物の身体的差異を探る。その過程で人間の精神(=魂)が脳の働きによるものであることを発見した彼の著作(=本書)は当時の宗教界に衝撃を与えました。

②考察

● 「魂は運動の原動力、ないし脳髄の中の感じる力を持った物質的な一部分にすぎないのであり、これは、まご

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読書:『日本共産党』筆坂秀世

読書:『日本共産党』筆坂秀世

①紹介

元日本共産党議員の筆坂秀世氏による『日本共産党』(新潮新書、2006年)を紹介します。在籍時は事実上の「ナンバー4」であった著者が離党後に振り返る革命政党の表と裏。本書は2006年時点の情報ですので、最新の党の動向を探るのには適していません。あくまで「党史」として読むことをおすすめします。


②考察

● 「理想はともかくとして、日本共産党が現実に目指しているのは『資本主義の枠内で可

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読書:『歴史と外交』東郷和彦

読書:『歴史と外交』東郷和彦

①紹介

元外交官の東郷和彦氏による『歴史と外交-靖国・アジア・東京裁判』(講談社現代新書、2008年)を紹介します。著者が34年の外交官人生を振り返り紐解く日本の歴史。現代の私たちに問われているのは、日本の今後の外交方針かもしれません。


②考察

● 「靖国問題について、日本国内で議論が百出する根本はなにか。それは、戦争で、国のために死んでいかれた人に対して、国として、国民として、どういう

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読書:『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』F.K.ディック

読書:『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』F.K.ディック

①紹介

アメリカのSF作家フィリップ・K・ディックによる『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(浅倉久志訳、ハヤカワ文庫SF、1977年)を紹介します。第三次大戦後、放射能の灰に覆われた地球に生きる人間たちの群像劇。自らの所有する動物の種類によって個人の地位が決まる近未来の世界で、彼らとアンドロイドの不思議な共存と対立が展開されます。


②考察

● 「動物を飼わない人間がどう思われるかは知

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読書:『君主論』N.マキアヴェリ

読書:『君主論』N.マキアヴェリ

①紹介

イタリアの政治思想家ニッコロ・マキアヴェリによる『君主論-新版』(池田廉訳、中公文庫、2018年)を紹介します。目的のためならば手段を選ばない。その権謀術数的な考えは「マキャベリズム」として現代に定着していますが、実際の彼は決して非情ではなく、むしろ冷徹な視点を以て人間観察に徹した人物です。本書を読むうえでの注意点はそこでしょう。


②考察

● 「人間は、恐れている人より、愛情をか

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読書:『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹

読書:『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹

①紹介

元東京都知事で作家の猪瀬直樹氏による『昭和16年夏の敗戦-新版』(中公文庫、2020年)を紹介します。日本の敗戦は予測されていた。日米開戦直前、全国各地から「総力戦研究所」(以下、「総研」)なる機関に集められた若きエリートたち。彼らの情報分析によって導き出されたその結論はなぜ日の目を見ることなく「消された」のでしょうか。


②考察

● 「十二月中旬、奇襲作戦を敢行し、成功しても緒戦

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読書:『方法序説』R.デカルト

読書:『方法序説』R.デカルト

①紹介

フランスの哲学者ルネ・デカルトによる『方法序説』(谷川多佳子訳、岩波文庫、1997年)を紹介します。いくら物体の存在を疑っても、それを疑う自分自身の存在は疑いきれない。彼が導き出した方法的懐疑は近代合理主義の礎に位置付けられていますが、人間を自然の支配者たらしめてしまったその考えについて私たちは再び議論する必要があるでしょう。


②考察

● 「良識はこの世でもっとも公平に分け与えら

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読書:『失敗の本質』戸部良一ほか

読書:『失敗の本質』戸部良一ほか

①紹介

社会科学者の戸部良一氏を含む6人の学者ら(残りは寺本義也、鎌田伸一、杉乃尾孝生、村井友秀、野中郁次郎)による『失敗の本質-日本軍の組織論的研究』(中公文庫、1991年)を紹介します。日本軍はなぜ敗けたのか?原因は敵国アメリカが強大だったからではなく、日本軍という組織の内部にありました。非常時における報連相がいかに重要であるかを説く経営学の古典的名著です。


②考察

● 「日本軍の戦

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読書:『最終戦争論』石原莞爾

読書:『最終戦争論』石原莞爾

①紹介

陸軍軍人の石原莞爾による『最終戦争論』(中公文庫BIBLIO20世紀、2001年)を紹介します。近い将来、世界規模の最終戦争が起こり、のちに恒久平和が訪れる。彼の思想は長年の戦争史研究と熱烈な日蓮信仰に基づき、太平洋を舞台に繰り広げられる日米両国の最終戦争を予見するものでした。


②考察

● 「戦争発達の極限に達するこの次の決戦戦争で戦争が無くなるのです」
➢ 「この」は第二次欧州

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読書:『ニコマコス倫理学』(下)アリストテレス

読書:『ニコマコス倫理学』(下)アリストテレス

①紹介

哲学者アリストテレスによる『ニコマコス倫理学』(下巻、高田三郎訳、岩波文庫、2009年)を紹介します。前回読んだ上巻の続きですね。古典の中の古典である本書で語られるのは「快楽」、「愛(フィリア)」、そして「幸福」について。どんな話が聞けるでしょうか。


②考察

● 「放埒なひとは、(略)後悔することのないひとである。彼の行動は自分の『選択』に忠実であるところからきているのだからであ

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読書:『日本人とドイツ人』雨宮紫苑

読書:『日本人とドイツ人』雨宮紫苑

①紹介

ドイツ在住のフリーライター・雨宮紫苑氏による『日本人とドイツ人-比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書、2018年)を紹介します。日本よりドイツの方が肌に合う。そう思い移住したドイツで著者が見た両国の違いとは。異国の地で迷走する日本人女性の歯に衣着せぬ怒涛の比較文化論です。


②考察

● 「日本人の英語力の低さよりも、外国人とコミュニケーションがとれないことの方が、よほど問題である

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読書『未完のファシズム』片山杜秀

読書『未完のファシズム』片山杜秀

①紹介

思想史研究者の片山杜秀氏による『未完のファシズム-「持たざる国」日本の運命』(新潮選書、2012年)を紹介します。第一世界大戦後の日本が次第に神がかっていったのはなぜか。それを支えた軍人たちの戦争哲学とは一体何か。「持たざる国」の興りと終わりを照射する第16回司馬遼太郎賞受賞作です。

②考察

● 「歴史の趨勢が物量戦であることは明々白々。しかし日本の生産力が仮想敵国の諸列強になかなか

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読書:『ニコマコス倫理学』(上)アリストテレス

読書:『ニコマコス倫理学』(上)アリストテレス

①紹介

古代ギリシアの哲学者アリストテレスによる『ニコマコス倫理学』(上巻、高田三郎訳、岩波文庫、2009年)を紹介します。歴史上初めて「倫理学」を確立した彼の意識は常に「善」とは何かという問いに注がれていました。師プラトンのイデア論を批判し、幸福の意味を追い求めた弟子アリストテレスの哲学。その全容が明らかになります。

②考察

● 「幸福こそは究極的・自足的な或るものであり、われわれの行なう

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