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動物園が好きです。風評や非科学は好きではないです。レッサーパンダのちょっとした小ネタを…

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動物園が好きです。風評や非科学は好きではないです。レッサーパンダのちょっとした小ネタを紹介します。 Instagramで、撮影した写真を公開してます。https://www.instagram.com/ifumoto88/

最近の記事

レッサーパンダの粘膜便症 ぱーと4

レッサーパンダの粘膜便症に関する新しい論文が発表されていました。 https://doi.org/10.1111/1749-4877.12813 この論文は、Abstract(要約)のみ無料公開されています。 対象となっているレッサーパンダは、飼育下の個体及び、半野生下(semi-free)の個体で、正常な糞便と粘膜質の糞便を採取しゲノム解析しています。解析により、腸内細菌の種類を特定することで、病原性細菌の特定と、細菌の代謝物の影響を考察しています。いかんせん、要約し

    • レッサーパンダのヒゲ(洞毛)

      レッサーパンダを観察していると、口吻の横(頬部)にもヒゲが生えていることに気づきました。 レッサーパンダには、目の上、口吻の上部と下部、そして、添付の写真をよく見ると、おとがいにも髭があることがわかります。 私のnoteでお馴染みの「Red Panda: Biology and Conservation of the First Panda」のヒゲに関して以下のように記されています。 目の上のヒゲが記されていません。もしかすると、目の上に生えているヒゲ状の毛は、ヒゲ(洞毛

      • レッサーパンダに肉球はあるの?

        レッサーパンダの生息地は、標高2,500m以上の高地にあり気温が低い場所です。氷雪の上を歩くのに適した、断熱効果と、滑り止めの機能を持つように、脚裏は毛に覆われていて肌が露出していません。 このようにレッサーパンダの脚裏は肉球を視認することができないため、レッサーパンダが毛の奥に肉球を持つのか否かは、園館によって見解が異なっています。 寒冷地に住む動物は肉球がない? レッサーパンダと似た生息地にすむジャイアントパンダは、毛に覆われた脚裏ですが、肉球は露出しています。おなじ

        • レッサーパンダとのふれあいについて ぱーと2

          昨年、京都市動物園から“ふれあい”中止期間中は、お腹を壊すモルモットが減ったという報告がありました。 モルモットの“ふれあい”によるストレスに関して、動物園関係者とお話をする機会があったのですが、園館によって、“ふれあい”の内容が異なっているため、ストレスの度合いも異なる可能性があることを伺いました。 モルモットに関しては、園館によって「抱っこ」はOKで「撫でる」はNGのところ、「抱っこ&撫でる」ともにOKのところ、「餌やり」はOKで「抱っこ&撫でる」はNGのところなど“ふ

        レッサーパンダの粘膜便症 ぱーと4

          レッサーパンダ:動物福祉が向上すると行動多様性が上がる?

          一般的に、飼育動物に対する動物福祉が向上すると、行動多様性は増加すると考えられています。このことは、以下の論文などで紹介されています。 https://w.jzar.org/jzar/article/view/423 行動多様性とは、飼育動物が行う行動の種類が沢山あるということです。 行動の種類は、動物種によって異なりますが、歩く、走る、飛ぶ、泳ぐ、登る、採餌、毛づくろい、巣作り、吠え、鳴き、マーキング、嗅ぐ、休息、睡眠など多岐にわたります。また、ペアや群れで生活する動

          レッサーパンダ:動物福祉が向上すると行動多様性が上がる?

          レッサーパンダは攻撃時に匂いを発する?

          画家の山脇氏がツィートで「レッサーパンダは、威嚇する際にスカンクに負けず劣らずの強烈な悪臭を放つ」との伝聞を紹介していました。 パンダマニアもこの「悪臭を放つ」という逸話を知っている人は少ないかもしれません。 この話の出どころは、科学系ニュースサイトの以下のページと思われます。 上記の引用部分で触れられているサンディエゴ動物園では、レッサーパンダ紹介ページで、以下のような記述があります スカンク並みという記述は、科学系ニュースサイトが追記したことがわかります。また、威

          レッサーパンダは攻撃時に匂いを発する?

          レッサーパンダは薄明薄暮性? ぱーと2

          以前、note にて、レッサーパンダは薄明薄暮性ではなく、一日を通して活動と休息を行うのではないか?と記しました。以前のnote記事で参照した論文は、レッサーパンダの活動パターンを調査したものではなく、生息地の利用調査という別の目的を持っていました。 今回は、レッサーパンダの活動パターンが、昼行性なのか、夜行性なのか、薄明薄暮性なのかを調査した論文の紹介です。 論文紹介の前に、レッサーパンダが薄明薄暮性と広めた記事を最初に紹介します。 最初にレッサーパンダは薄明薄暮性と

          レッサーパンダは薄明薄暮性? ぱーと2

          レッサーパンダの粘膜便症 ぱーと3

          レッサーパンダが時折、1〜3日程度、食欲低下や無気力になり、粘膜状の便を排泄した後、元の体調に戻る現象があります。この症状は、北米の「レッサーパンダの飼育ガイドライン」では、“This is a very common occurrence and does not usually require any medical attention. (要約:一般的な現象で治療不要)”と記されています。しかし、短期間とはいえ、食欲が落ちることなどから、老齢のパンダでは発症中に免疫力が

          レッサーパンダの粘膜便症 ぱーと3

          レッサーパンダと他動物種との混合展示

          混合展示 日本の一部の動物園でも、複数の種を同じ囲い内で飼育し展示する事例があります。たとえば、横浜ズーラシアの“アフリカのサバンナゾーン”でのチーター、キリン、グラントシマウマ、エランドの4種混合展示はとても有名です。千葉市動物公園の“平原ゾーン”では、ダチョウやシタツンガ、ハゴロモヅル、ホオジロカンムリヅルなどが混合展示されています。他の園館でも混合展示を行なっている事例はたくさんあるかもしれません。 混合展示の目的 複数種の混合展示を行う理由はなんでしょう? 来園

          レッサーパンダと他動物種との混合展示

          野生下のレッサーパンダが利用する植物

          野生下のレッサーパンダは、飼育下のパンダと同様主に竹葉を食べます。また、生活の多くの時間を樹木の上で過ごす樹上性の動物です。このようにレッサーパンダは、いろいろな植物と関わり合いを持っています。野生のレッサーパンダを永続的に守るためには、レッサーパンダが利用する植物および、その植物が成長するための環境を保全する必要があります。 今回紹介する研究論文「A study on plant preferences of red panda (Ailurus fulgens) in

          野生下のレッサーパンダが利用する植物

          レッサーパンダの繁殖は分泌ホルモンの影響を受ける

          以前noteにて「レッサーパンダの繁殖は日照時間の影響を受ける」ことを紹介しました。 日本の動物園で飼育されている動物は種によって、展示時間中のみ屋外の展示場に出され、それ以外の時間は、いわゆるバックヤードと呼ばれる寝室に収容されています。園館によっては、1日の3分の2程度の時間を屋内で過ごすことになります。 生き物の繁殖は、性ホルモンの正常な分泌を促せるかどうかによって“せいこう率”が変わってきます。バックヤード内部に自然光を取り入れる、もしくは人工光で季節性の日照サイク

          レッサーパンダの繁殖は分泌ホルモンの影響を受ける

          人の影響を受ける野生下のレッサーパンダの季節による活動場所の選択

          人の活動に影響を受ける野生下でのレッサーパンダの生息場所の季節性に関する論文が発表されました。 この論文は、以前noteに記した「野生のレッサーパンダの捕まえ方」の続編に該当します。 当該論文は、GPS首輪を装着した10頭のレッサーパンダ(成体のオス3頭及びメス4頭、亜成体のオス1頭及びメス2頭)を追跡しています。調査場所は、ネパール東部でインドに隣接しています。 レッサーパンダの活動場所(生息場所)は、今までの調査・研究によって、植生、標高、斜面、水源までの距離などに

          人の影響を受ける野生下のレッサーパンダの季節による活動場所の選択

          レッサーパンダの胎児喪失の話

          今回は、妊娠しているレッサーパンダの子宮内から胎児が消える話です。人間も含めて、哺乳類は着床した受精卵が成長し子供が産まれますが、お腹の中で上手く育たなかった胎児は、母体に吸収され消えてしまうことがあります。この胎児喪失に関する記述は、私のnoteではお馴染みの書籍「Red Panda: Biology and Conservation of the First Panda 2nd edition」では、以下のような記載があります。 上記の、未発表(Unpublished)

          レッサーパンダの胎児喪失の話

          飼育下繁殖のレッサーパンダの野生復帰の話 ぱーと2

          飼育下で生まれたレッサーパンダの放獣が2022年1月15日に行われました。 この放獣は、2003年11月と2004年10月に、それぞれ2頭のメスパンダ放獣されたのに引き続いて2回目の放獣となります。以前 noteで、2003年と2004年の放獣を紹介しています。 今回の放獣の目的は以下の計画書に記されています。 http://wbza.co.in/za/web/news_event/34915093Red%20Panda%20Augmentation%20full%20b

          飼育下繁殖のレッサーパンダの野生復帰の話 ぱーと2

          改訂版:レッサーパンダ飼育ガイドライン(EAZA)の紹介

          欧州の動物園水族館協会が発行しているレッサーパンダの飼育ガイドラインが改訂され、公開されていました。 最初に。北米版(AZA)の飼育マニュアルも同様ですが、ガイドラインの序文に記載の通り、記載内容はあくまでもBest Practice(最優良事例)であり、ルールでも規定でもないことに留意する必要があります。飼育動物の心身の幸福(well-being)の実現の仕方は、年齢の違いどころか、個々体によって異なります。飼育マニュアルの記載を金科玉条の如く振りかざすのは、Adrena

          改訂版:レッサーパンダ飼育ガイドライン(EAZA)の紹介

          四川系レッサーパンダの呼称及び学名について

          Red Panda: Biology and Conservation of the First Panda (2nd Edition)のChapter 31.に以下のような記述があります。 情報量が多いので整理すると、1:四川系レッサーパンダの学名は、Ailurus fulgens styani から、Ailurus styani に変わっている。2:呼称を中国レッサーパンダから、Styanのレッサーパンダに変えるのをお勧めする。と、2点の情報に集約されます。 「2」に

          四川系レッサーパンダの呼称及び学名について