野生下のレッサーパンダが利用する植物
野生下のレッサーパンダは、飼育下のパンダと同様主に竹葉を食べます。また、生活の多くの時間を樹木の上で過ごす樹上性の動物です。このようにレッサーパンダは、いろいろな植物と関わり合いを持っています。野生のレッサーパンダを永続的に守るためには、レッサーパンダが利用する植物および、その植物が成長するための環境を保全する必要があります。
今回紹介する研究論文「A study on plant preferences of red panda (Ailurus fulgens) in the wild habitat: foundation for the conservation of the species」は、レッサーパンダと関わりのある植物を調査したものです。
この論文は、2012年〜2016年にかけてインド北東部のシンガリラ国立公園(標高2,400〜3,650m)に生息するレッサーパンダを追跡調査したものです。
ここで調査された内容は以下の通りです。
休息および睡眠中のレッサーパンダがいた樹木(16種)
レッサーパンダの糞便が残されていた樹木(23種)
季節ごとのレッサーパンダの糞便に含まれていた植物
それぞれの調査結果を引用します。
休息および睡眠中のレッサーパンダがいた樹木
31件の目撃情報中4件のみが地上にいたこと、その4件は採餌中だったことが示す通り、レッサーパンダは活動のほとんどを樹上で行うようです。休息/睡眠が確認された植物の上位が常緑広葉樹のため、葉の茂った場所に隠れられることは、レッサーパンダにとって落ち着き、安心できる場所となるのでしょう。
レッサーパンダの糞便が残されていた樹木
レッサーパンダが糞便をする場所は、樹木、地表、丸太などが知られています。レッサーパンダの生息地調査は、用心深いパンダを直接確認することが難しいことから、糞便や採食跡を確認する手法が専ら利用されています。そのため、いろいろな調査論文で確認することができます。例えば、最近発表された調査論文では、いかのような論文(Damber 2017: Distribution and habitat use of red panda in the Chitwan-Annapurna Landscape of Nepal)があります。
匂い付けを用いたマーキングと同様に、糞便は縄張りを示すため、特定の複数の場所に排便します。レッサーパンダの活動のほとんどが樹上であることから、同族他個体に対して、先住個体がいることを示しているのかもしれませんね。
季節ごとのレッサーパンダの糞便に含まれていた植物
ここで示されている季節は、夏季が4月〜6月で、モンスーン(いわゆる梅雨期)が7〜11月で、残りの11月〜3月は冬季と論文中に記載があります。糞便に含まれる植物の大半は竹の葉と筍ですが、興味深いのは、ごく少量とはいえ、シャクナゲの仲間であるRhododendron arboreumの葉が、糞便に含まれていることです。シャクナゲは毒性を持つことで知られています。毒性のない箇所を食べているのか、もしくは食べたシャクナゲの仲間は毒性がないのか、はたまたレッサーパンダは消化能力が低いため毒を吸収しないのか不明ですが面白いですね。
レッサーパンダの糞便に含まれていたシャクナゲの仲間”Rhododendron arboreum”について、幾つかの論文(例えば)を確認したところ、薬用として利用されるだけでなく、その花はジュースに加工され市場で人気があるとの記述もあり、この種に関しては毒性はないのかもしれません。
この研究は、野生のレッサーパンダの生息地を長期的に管理する目的で調査されています。また、応用として動物園の展示場に植える植生にも利用できそうです。しかし、レッサーパンダが好んで、休息や睡眠に利用する樹木は、論文で紹介された樹木種が重要なのか、樹木種とは関係なく、樹高が重要なのか、常緑樹であることが重要なのかは、この論文では記されていません。
私個人の考えとしては、レッサーパンダの展示場に植える樹木は、強い日差を遮り、来園者の視線より高い位置で休息ができ、また適度に来園者の視線から距離がとれるか隠れられるような樹木が適していると思っています。また、可能であれば、パンダが食すことのできる果実や新芽を提供できる種だと採食エンリッチメントの効果も期待できますね。
しかし、展示場に植える樹木は、成長速度(早ければ、脱走防止のメンテナンスが多くなり、遅ければ、パンダが活用するまで年数をようするとか)や、予期せぬ不足の事体時に飼育員さんがパンダを収容しやすいかとか、清掃のしやすさとか、害虫や、ネズミなどの害獣への影響など、考慮すべき事項はたくさんありますので、単純に決められるものではないかもしれません。。
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