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レッサーパンダに肉球はあるの?

レッサーパンダの生息地は、標高2,500m以上の高地にあり気温が低い場所です。氷雪の上を歩くのに適した、断熱効果と、滑り止めの機能を持つように、脚裏は毛に覆われていて肌が露出していません。
このようにレッサーパンダの脚裏は肉球を視認することができないため、レッサーパンダが毛の奥に肉球を持つのか否かは、園館によって見解が異なっています。

寒冷地に住む動物は肉球がない?

レッサーパンダと似た生息地にすむジャイアントパンダは、毛に覆われた脚裏ですが、肉球は露出しています。おなじく寒冷地に生息するホッキョクグマも、同様に毛に覆われた脚裏ですが、肉球は露出しています。他にアムールトラ、ユキヒョウ、マヌルネコなどにも肉球はあります。

そもそも肉球って?

肉球の各部名称

肉球は無毛で、肉厚でクッション性があります。種によって多少異なりますが、汗腺が発達していて体温を下げるとか、歩行時の静音性、摩擦性を高める効果があります。
肉球がある動物は、ネコ科、イヌ科、クマ科などですが、科が異なっても肉球は概ね同じ場所にあります。
これは、蹠行性のクマ科であっても、指行性のネコ科、イヌ科であっても同様で、爪の付け根(指球/趾球)第一関節と第二関節の間(掌球/足底球)に肉球があります。あと前脚に、手首(手根球)に肉球がありますが、後脚にはありません。

レッサーパンダには肉球はあるの?

私のNote記事ではお馴染みの「Red Panda: Biology and Conservation of the First Panda」 には以下の記述があります。

These hairs largely conceal the plantar pads, which are extremely reduced in size. In fact, the metatarsal pads are absent altogether in the red panda [13]. (要約:足底球は、毛が広く隠しており極めて小さく、中足骨球は存在しない)

Red Panda: Biology and Conservation of the First Panda

足底球(plantar pads)とは、イヌ/ネコの場合だと一番大きく見える肉球を示しています。その肉球が極めて小さいとはどの程度なのでしょう? この記述の参照元となっている論文をあたってみます。

Pocock, Reginald Innes著:「The External Characters and Classification of. the Procyonidae(1921年出版)」100年以上前の論文ですが、現在でも引用されており、追加の発見はなされていないようです。

レッサーパンダの足裏・下図は毛を切り指を広げた状態図

提示した図は、レッサーパンダの右前脚、右後脚と、それぞれ毛を短く切った状態を示しています。

A. Right fore foot of Ailurus fulgens. (右前脚)
B. The same with hair cut short and digits spread. (右前脚の毛を切り指を広げた状態)
C. Right hind foot of same.(右後脚)
D. The same with hair cut short and digits spread.(右後脚の毛を切り指を広げた状態)

さらに、レッサーパンダの肉球に関する箇所には、以下のような記述があります。

The feet of Ailurus differ from those of the American genera in the complete concealment of all the pads beneath the clothing of long and thick hair which everywhere covers the soles and in the consequent reduction of the pads to apparently functionless vestiges. (要約:レッサーパンダの脚裏は、全体を太く長い毛で覆われており、肉球は機能のない痕跡に縮小しています。)
Separation of the hair reveals vestiges of the pads as areas of naked, somewhat thickened skin, those on the digits being small subtriangular patches behind the base of the claws. (要約:毛を切ると無毛の肉球の痕跡がやや厚くなった部分があり、爪の付け根に小さな三角状の斑点があります)
The carpal pad is represented by a small subcircular patch remote from the plantar pad ; but there is no trace of metatarsal pads.(要約:手根球は、掌/足底球から離れた小さな亜円形で表されます。 しかし、中足骨球の痕跡はありません。)
The plantar pads are reduced to transverse recurved areas, expanded at each end towards the base of the first and fifth digits and sending forwards two angular processes, longer on the hind than on the fore foot, approximately in line with the third and fourth digits.
掌/足底球は、横方向の反曲領域に縮小され、両端が 1 番目と 5 番目の指の基部に向かって広がり、前脚よりも後ろの方が長く、ほぼ 3 番目と 4 番目の指と一致する 2 つの角突起を前方に送り出します。

レッサーパンダの前脚/後脚の毛を刈ると、目視できる程度の肉球が残っているようです。しかし、極めて小さく、肉球本来の役割は果たしていないようです。

ところで、レッサーパンダには肉球があるの?

この疑問の答えは判断が分かれると思います。この肉球だった組織の痕跡を”肉球”と称して良いのでしょうか?
もし、痕跡があることを根拠に、肉球は存在するとするならば、夜目(附蝉)があることを根拠に、ウマには親指があると称しているのと同じとも思います。

あらたな疑問

レッサーパンダは、脚裏に臭腺があり、脚裏を擦り付けることでマーキングを行うと言われています。ネコ・イヌの肉球には汗腺があり汗を分泌することから、レッサーパンダの脚裏の臭腺は、肉球の痕跡から分泌されているのかもしれませんね?


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