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レッサーパンダは薄明薄暮性? ぱーと2

以前、note にて、レッサーパンダは薄明薄暮性ではなく、一日を通して活動と休息を行うのではないか?と記しました。以前のnote記事で参照した論文は、レッサーパンダの活動パターンを調査したものではなく、生息地の利用調査という別の目的を持っていました。

今回は、レッサーパンダの活動パターンが、昼行性なのか、夜行性なのか、薄明薄暮性なのかを調査した論文の紹介です。

論文紹介の前に、レッサーパンダが薄明薄暮性と広めた記事を最初に紹介します。

最初にレッサーパンダは薄明薄暮性と紹介したのは1845年Hodgsonさんが記した”On the Cat-toed Subplantigrades of the sub-Himalayas. “です。これは”JOURNAL OF THE ASIATIC SOCIETY OF BENGAL Vol. XVI Part II - July to December, 1847”に掲載されています。この記事中で以下のように説明しています。

Their ordinary feeding times are early morn and eve. They sleep a deal in the day and dislike strong lights, though not nocturnal in their habits of seeking food.《中略》The Wahs, as I have observed above, sleep much by day(要約:通常の給餌時間は早朝と夕方です。 日中に眠り、強い光を避けますが、夜間に採餌はしません。《中略》Wähは日中ずっと眠ります。)
※Hodgsonさんは、パンダのことをWähもしくはAiluresと表記しており、F. Cuvieさんが命名したPandaとは別種と考えていたように思えます。しかし、記事中に掲載されている全身像や上下顎骨及び歯列図は、Pandaそのものです。

この記事でHodgsonさんは、パンダの現地呼称にNigálya-pónyaがあると紹介したことでも有名です。Nigálya-pónya(Pandaの語源)に関するお話は、下記のnoteに記しています。

Hodgsonさんの記事が発表された後、レッサーパンダの活動パターンを調査した論文が存在しますが、Hadgsonさんの観察結果を支持するものと、異論を唱えるものとが発表されています。

薄明薄暮性を支持する論文

Johnson KG, Schaller GB, Hu JC. 1988. Comparative behavior of red and giant pandas in the Wolong Reserve, China. Journal of Mammalogy 69

https://www.jstor.org/stable/1381347

薄明薄暮性を支持しない論文(昼行性と評価)

Reid DG,Hu JC, Huang Y. 1991. Ecology of the red panda Ailurus fulgens in the Wolong Reserve, China. Journal of Zoology, London 225

http://dx.doi.org/10.1111/j.1469-7998.1991.tb03821.x

上記の論文は、いずれも中国Wolong自然保護区で野生のパンダの活動性を調査しています。対象としたパンダは、Johnsonさんの調査では亜成体メス1頭、Reidさんの調査では成体のオスとメスの2頭となっています。
この二つの先行研究では、調査対象個体数が少ないことと、亜成体と成体の違い、季節による活動パターンの調査が行われていないため、調査結果の違いになっている可能性があります。

調査対象個体を増やし、1年間観察を続けた調査論文が、今回のnoteで紹介する論文となります。

調査地域は、中国Fengtongzhai自然保護区です。6頭の成体(オスメス、それぞれ3頭)を1年間追跡調査しています。Fengtongzhai自然保護区は、先行研究の調査地域である”Wolong自然保護区”と隣接しているので、調査地域の違いで生じる結果の差異は最小限だと推測できます。
この論文では「薄明薄暮」を“夜明け1時間前〜夜明け後2時間、日没2時間前〜日没後1時間”と定義しています。これは季節によって薄明薄暮にあたる時間帯が変化していることに注意が必要です。そして昼は、太陽が地表上にあり、薄明薄暮の時間帯を除いた時間、夜は、太陽が地表下にあり、薄明薄暮の時間帯を除いた時間としています。

レッサパンダの活動性は?

Of activity periods, 44.8% occurred during the day, 30.2% at dawn and dusk, and 25% at night. Red pandas are therefore predominately diurnal. (要約:活動時間帯は、日中が44.8%、夜明けと夕暮れが30.2%、夜が25%。したがって、レッサーパンダは主に昼行性です。)

単位時間あたりの活動時間の割合をもとに、昼行性と判断していますが、活動時間が一番低くなる夜間でも、単位時間あたり四分の一は、活動しており、睡眠や休息は四分の三であることは注目に値します。根本的に人間とは異なるサイクル(長期間、睡眠と休息を行い、残りは活動に当てる)になりますね。

結果的には、Reidさんの調査結果を支持する結果となりました。Johnsonさんの研究結果と異なる理由として、以下の考察をあげています。

The focal sub-adult female followed by Johnson et al. (1988) did not occupy a stable home range and its crepuscular and nocturnal behavior may have been to avoid being predated by Panthera pardus, Neofelis nebulosa, Cuon alpinus, Martes flavigula, Catopuma temmincki or Aquila chrysaeos while traversing widely. (要約:Johnsonさんが追跡した亜成体のメスは縄張りを持っておらず、薄明薄暮の行動は、捕食から逃れるためと考えられます)

季節ごとの活動パターンは?

Red pandas are clearly more active during summer, autumn and spring, and this likely corresponds to seasonal changes in diet. (要約:レッサーパンダは夏、秋、春に明らかに活動量が多く、季節による食性の変化と対応している考えられます)

論文中に掲載されている季節ごとの活動率グラフを確認すると、レッサーパンダは冬(11ー3月)に活動量が低下(睡眠、休息時間が増加)しています。比較してそれ以外季節、春(4ー6月)や夏秋(7ー10月)の活動量が増えていますが、論文中では、竹葉以外のベリー類や筍を食す季節は活動が増加している、とくにベリー類(Sorbus)は、生息地ではまばらに生えているらしく、索餌時間が長くなっているからと論文中で推測しています。また、冬季に活動量が減るのは、竹葉の消化を促すため休息が長くなっていると推測しています。
また、オスとメスの活動量比較では、春から夏にかけてメスの活動量が減っているようです。これは、出産、育児が関係していると推測しています。

この論文の研究者は、調査結果からレッサーパンダは昼行性であると記しています。しかし、活動率グラフを見る限り、どの時間帯も活動率が零になるわけではないため、個人的には、レッサーパンダは、昼夜問わず、食べたい時に食べ、眠りたい時に眠り、遊びたい時に遊ぶ活動パターンを持っていると思いました。

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