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レッサーパンダと他動物種との混合展示

混合展示

日本の一部の動物園でも、複数の種を同じ囲い内で飼育し展示する事例があります。たとえば、横浜ズーラシアの“アフリカのサバンナゾーン”でのチーター、キリン、グラントシマウマ、エランドの4種混合展示はとても有名です。千葉市動物公園の“平原ゾーン”では、ダチョウやシタツンガ、ハゴロモヅル、ホオジロカンムリヅルなどが混合展示されています。他の園館でも混合展示を行なっている事例はたくさんあるかもしれません。

混合展示の目的

複数種の混合展示を行う理由はなんでしょう? 来園者にとっては、異なる種がいることで、個体の行動のバリエーションが増えることが期待できます。たとえば、“追いかけっこ”や“威嚇行動”を見れるかもしれないとか、異種同士が仲良く同じ場所で餌を食べる場面を見たいとか、互いにグルーミングしている場面をみたいとか。このような好奇心は、娯楽だけでなく、学習の機会を提供することも期待できるでしょう。

しかし、展示される動物にとっては、どのような効果/作用があるのでしょうか。その回答の一つを教えてくれるのが大牟田市動物園がYoutubeで公開している「ライブ配信!世界幸福デー記念イベント 動物の幸せを目指して」です。

動画で以下のように語られています。

(要約)社会性エンリッチメントとは、群れで暮らす他個体とコミュニケーションを取る、他種動物と一緒の展示場で生活することにより《途中省略》他の個体との関わりが互いの存在や行動が刺激となり活発な社会行動が引き出されるだけでなく、採食エンリッチメント、物理エンリッチメントなどに関心を深めることにつながります。
※詳細は、上記リンクの動画をご覧ください。

このように、展示される動物にとっては、他種同士の関わりが刺激となり、良い結果をもたらすことが期待できるのが混合展示の目的です。
しかし、異なる種ならどのような種でも良いという訳ではありません。捕食/被食の関係にある動物たち(例えば、猛禽類と小齧歯類)を同居させれば、弱い方が食べられることは必至です。異なる種を同居させるためには、食性だけでなく、行動能力や、性質など、さまざまなことを配慮し、慎重に行う必要があります。

野生下では、繁殖期や育児期を除いて、単独で生活しているレッサーパンダでも、他動物種との関わり合いは、常に存在します。関わり合いのある他動物種の中には、捕食/被食の関係もあるでしょう。レッサーパンダを捕食する動物としては、ウンピョウが有名ですし、子パンダにとっては、テンや猛禽類も脅威となります。逆にレッサーパンダは、小鳥や雛、卵などを捕食することが知られています。捕食/被食以外の関係では、至近距離で接近遭遇する他動物種は無数に存在するはずです。
昨今、野生動物を飼育するときは、動物福祉向上を目的とした、環境エンリッチメントと呼ばれる手法で、なるべく野生下で行う行動(パターンと配分)を引き出すための工夫が求められます。したがって、飼育下のレッサーパンダであっても、他動物種との関わりを持たせることは、動物福祉向上につながるのかもしれません。

日本国内の事例(混合展示の事例はない)

国内では、レッサーパンダと他動物種を混合展示している動物園は見当たりません。伊豆シャボテン公園や那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国では、数メートルの距離に、アカハナグマやビントロング、コツメカワウソが展示されているケースもありますが、互いに接触できないように分けられています。展示動物以外では、野生の鳥類や、トカゲ類、昆虫などがまれに展示場内に紛れ込むケースもあり、レッサーパンダが意識しているところを目撃することもあります。あと、巣作りの季節のカラスが、レッサーパンダの毛をむしりにくることがあります。そのような季節は、カラスから逃げるパンダや、カラスを追い払うパンダの様子が見られることもあります。

海外の事例

海外の動物園では、レッサーパンダと他動物種を同一場所で飼育し展示している事例があります。

ヨーロッパの動物園の事例が中心ではありますが、写真付きで紹介している資料を見つけました。写真を見るだけでも楽しいので、本資料はお勧めです。

https://zoolex.org/media/uploads/2021/05/20/2020_svabik_mixed_raccoon_redpanda.pdf

この資料は、小型食肉目のアライグマ類6種(アカハナグマやキンカジューなど)と、レッサーパンダが、どのような動物と混合展示されているかと、混合展示での問題の有無、事件が記されています。
このnoteでは、アライグマ類については触れていません。レッサーパンダ部分のみを紹介しています。

小型のシカであるキョンとの同居が多いようですが、キョンとの同居は1件をのぞいて事件は起きていません。展示場面積を提示している施設では、どれもが500m2以上(中には1,500m2もあり)の広大な土地と、パンダが登るための樹木が用意されているため、地上性のキョンとうまく共存できているのでしょう。以下に、当該資料に記載されているレッサーパンダと他種の混合展示を行っている施設名と混合展示された動物種、その顛末と問題の有無を紹介しています。(顛末や問題有無が紹介されていない園館は省略しています。省略した中には、タンチョウと同居しているレッサーパンダの写真もありました。上記で紹介している一次資料の掲載写真を確認ください)

  • Osnabrück動物園(ドイツ) :フクロテナガザル

    • テナガザルの悪戯が過ぎて混合展示中止

  • ZooParc Overloon(オランダ) :コツメカワウソ

    • 相性よし

  • Mulhouse(フランス) :コツメカワウソ・キョン

    • カワウソが時々木登りして悪戯するが問題はない。キョンはパンダが時々落とすリンゴを横取りする

  • Bioparc Fuengirola(スペイン) :コツメカワウソ・ヒクイドリ

    • ヒクイドリは地面、パンダは樹上で互いを無視。カワウソは隣接するオランウータン展示場と相互行き来できるが、おもにオランウータン側にいる。ここのヒクイドリは他個体と違って特別友好的な個体と認識している

  • Nürnberg(ドイツ) :キョン

    • キョンが優位でパンダを追いかける。2000年以降パンダはキョンの子(1~3日齢)を4頭殺害し食す。別の子1頭に怪我を負わせる。数年後、成獣雄のキョンがパンダ2頭を殺傷したため、混合展示終了。この成獣雄のキョンは、ペア相手の雌のキョンにも怪我をさせている

  • Madrid動物水族園(スペイン) :キョン・ブラックバック

    • パンダが若いキョンを襲うことがある。現在キョンの繁殖を中止したため、キョンの怪我はなくなる

  • Tierpark Görlitz(ドイツ) :キョン・シロミミキジ

    • パンダがシロミミキジを襲ったためキジの展示中止。キョンとは同居中で問題なし

  • GaiaZOO(オランダ) :キョン・ツクシガモ・コハクチョウ

    • 餌の取り合い以外は問題なし

  • Heidelberg (ドイツ):インドキョン・マエガミジカ(Tufted Deer)

    • パンダが落とす餌をキョンは定期的に待つようになる

  • Minnesota(アメリカ) :ゴーラル・ウリアル

    • 老衰によるゴーラルの死去に伴い展示中止。ゴーラル、ウリアルとも交流がないため問題なし

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