「何かを始めるのに遅すぎるなんてことはないよ」と言うなら わたしと人生、交換してよ
わたしは歳を取りすぎてしまったようだ。
人生80年だの100年だの言うけれど、死ぬまで生き生きとしていられる人間はどれほどいるだろう。病院のベッドに縛られている時間は本当に生きていると言えるのだろうか。"死んでいない"それがきっと大切なことはわかっているつもりだ。死ぬ時のベッドは窓際にあって欲しいな。今はそれだけが望みだ。
毎日のように煙草を吸うわたしの肉体は、あと何年持つのだろうと適当な計算を頭の中でした。お酒をあまり飲まない代わりに、わたしは珈琲ばかり飲んでいる。どちらの方が身体に悪いのだろうと考えたがすぐにやめた。結果が出てもきっとわたしの生活は変わらないから。
また最近、知りたくもない昔の友人の結婚を知ってしまった。その友人との思い出は何かあったかなと考えたけれど、驚くほど出てこなかった。出てきたことは、君が簡単な小テストをカンニングしていたこととか、授業中にお弁当を食べたことを誇らしげにしていたこととか、職員室の前にあった備品を壊したことをずっと黙っていることとか。
今ではわたしの友人ですらない君はきっと素敵な仕事をしているのだろう。きっとそんな姿を応援されているのだろう。仕事に疲れたときは相手とキスをするのだろう。そうしてまた明日頑張ろうと思うのだろう。そんな君は同窓会を決して欠席したりしない。
さして遠くに住んでいるわけでもない君にわたしは一生会うことはないだろう。街で君とすれ違ったとしてもお互いに気づくことはない。漫画のシーンだったら、きっとわたしの方が背景は暗くなっているはずだ。
わたしは今、ただ生きていくためだけに働き、ただ生きている。
帰る家は狭いアパートの一室。静かすぎるわたしの部屋では自分の心臓の鼓動さえ聞こえてきそうだった。よっぽど煙草を吸うより寿命が縮まりそうだ、そう思った。
◇
自分の人生以外が 全てわたしが歩きたかった道みたい
わたしだって学生時代は飛び抜けた才能があったわけでもなく、人並み外れた努力をしてきたわけではないけれど。
大金を積んで、大学まで卒業した。そのまま殆どの人間と同じように新卒として会社に入った。大学は理系だった。けれどその実績をひとつも生かせない会社に入った。そのまま大学の勉強とは別の分野の勉強をした。机にかじりついた。わたしの将来を見据えて勉強をする時間もお給料をくれる会社だった。何百時間、何千時間と勉強をした。その結果たくさん資格を取った。その会社で活かせる、もっと先の将来でも活かせる資格を取った。
けど、けれど。今わたしの手にはなにもない。婚姻届も資格証明書も同じ紙切れだ。同じ紙切れなのに、どうしてこんなに違うんだろうとまた君を恨みそうになった。
わたしはまたこれから何かを始めることが出来るだろうか。何かが日々終わっていくだけの人生に道はあるのだろうか。辛い経験をすれば強くなれるわけがなかった。それっぽいことだけ言って、辛い経験なんてしないに越したことはない。誰かに読まれるための人生じゃないんだから。誰が読んでもつまらない人生が一番幸せだって、今はそう思う。
きっと君にもし会うことがあったら、前向きだった君は「今からでも遅くないよ。」と言うかな。
ねぇ。今からでも遅くないなら、わたしと人生、交換してみない?
わたしの人生から君の人生に戻してみせてよ。
その代わり君の人生はいらないから捨てておくね。それじゃあ。
書き続ける勇気になっています。