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筋肉は裏切らない?マッスルメモリーの科学を考察してみた。

「マッスルメモリー」という言葉を聞いたことはありますか?

しばらくトレーニングを休んだあとにトレーニングを再開すると、休む前の基準までならすぐ戻るという特性があります。
それがあたかも筋肉が過去の記憶を持っているように見えることから「マッスルメモリー(筋肉の記憶)」と呼ばれています。

つまり、数週間から数ヶ月、トレーニングを休んだところで、元通りの筋肉量に戻すことはすぐに可能だということです。

↑このあといろいろ語っていきますが、今日はこれが一番大事なポイント。

緊急事態宣言が解除され、6月1日にからジムが営業を再開し始めました。
ここからジム通いを再開する人は、この2ヶ月で失った筋肉をマッスルメモリーによって早く取り戻して、またトレーニングに励んでいきましょう。


●マッスルメモリーの根拠となる論文

マッスルメモリーは実験によって証明されています。

2018年にイギリスの大学が行った研究によると、
筋力トレーニング未経験である男性を8人集め、週3回のトレーニングを7週間行ってもらいました。
その後、7週間トレーニングを休んでもらい、そして再び週3回のトレーニングを7週間行いました。

被験者は最初の7週間で筋肉が大きくなりました。
そして、7週間の休養を挟むと筋肉量は実験前の状態に戻ってしまいました。
筋トレをすれば筋肉がつくし、筋トレをやめてしまえば筋肉が落ちていく。ここまでは当然のことですよね。

ここからがマッスルメモリーのお話。
7週間の休養後に7週間のトレーニングを行うと、被験者たちの筋肉はまた大きくなりました。
それだけでなく、最初の7週間を終えた状態よりさらに大きくなったのです。
前半7週間のトレーニングと、後半7週間のトレーニングは同じ内容なのですから、ここには何かしらの要因があると考えられます。

これが「マッスルメモリー」です。

昔スポーツをしていた人、一時期ジムに通っていたけど辞めてしまった人にとってこれは朗報でしょう。
過去につけた筋肉が跡形なくなっていても、マッスルメモリーのおかげで、トレーニングを再開すれば以前よりも遥かに早く、大きな筋肉を手にすることができるのです。


●マッスルメモリーのメカニズム

さてこのマッスルメモリー、なぜ起きるのでしょうか。
これには諸説あります。

もちろん正解は誰にもわからないのですが、今回はその説のいくつかを紹介しようと思います。

①筋肉の変化がDNAに刻まれている説

これは上記の研究論文で示唆されている、遺伝子学的な話

筋肉の遺伝子には、遺伝子がメチル化されて遺伝子発現がオフになっている部分(高メチル化)と、メチル化されておらず、遺伝子発現がオンになっている部分(低メチル化)があります。
最初の筋力トレーニング後には、被験者たちの筋肉の遺伝子には低メチル化した領域が増加していました。
さらに、休養後の再トレーニング期間で筋肥大が最大となったとき、遺伝子の低メチル化も最も多くみられたといいます。

注目すべきは、筋肉が落ちたときもこれらの遺伝子は低メチル化の状態を維持することです。
これがのちの運動に応答して、より大きな筋肉の成長を促すスイッチとなり、筋肥大と関連していると考えられます。

このように、過去の筋肉の情報がエピジェネティクスとしてDNAに記憶されているというのが第一の説。


②筋肉の核が増えている説

こちらは化学的な話

「筋肉(骨格筋)」は、複数の筋束からなっており、
「筋束」は、複数の筋繊維(筋細胞)からなっており、
「筋繊維」は、複数の筋原繊維からなっており、
「筋原繊維」はアクチンタンパク質とミオシンタンパク質からなっています。

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トレーニングをして大きくなるのは、筋繊維
筋繊維は、身体の中で最も大きな細胞の一つです。

基本的に人間の身体は、一つの細胞につき一つの「核」がありますが、筋繊維は例外。
一つの筋繊維には複数の核があります。
これを「多核細胞」といいます。

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引用元:慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
筋ジストロフィーに対する筋肉再生療法の開発 湯浅慎介(循環器内科)
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/science/201507.html

筋肉が発達すると、その核は分裂し、肥大しながら増えていきます。
それだけでなく、筋繊維が22%大きくなると、筋衛星細胞(筋サテライト細胞)が筋繊維の中に入り込み核となることがあります。
これを「細胞核オーバーロード」といいます。

…とまあ長く説明してきましたが、要は
「筋トレすると筋肉内の細胞の数自体が増えるよ」
ということです。

その増えた核が筋繊維内に残っているため、マッスルメモリーによって早く筋肉が発達するのではないか?というのが第二の説。


③筋膜が伸びている説

こちらは物理的な話

「筋膜」という言葉を知っていますか?
「筋膜リリース」が一時期流行ったこともあり、名前くらいは知っている人という人もいるでしょう。

そもそも筋膜とは何かというと…
筋線維は、筋膜と呼ばれる線維組織に囲まれています。
つまり、筋膜とは筋肉に巻き付いているフィルムのようなものだと考えてください。

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引用元
https://yasunaga-seikotsu.com/%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%AD%8B%E8%86%9C%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%82%84%E3%82%8A%E6%96%B9/

筋肉を大きくすると、筋肉についている筋膜は伸ばされて大きくなります。
単純に考えて、筋肉が大きくなったのに皮膚がそのままだったら物理的に成り立たないですよね。
つまり、筋肥大が起きるときは、周りの皮膚や筋膜も一緒に成長していると考えるのが自然です。

しばらくトレーニングを休んで筋肉が縮んだとしても、筋肥大によって引き伸ばされた筋膜までが完全に元通りになるとは限りません。
トレーニング再開時は、筋膜が最初から大きい状態からスタートできるのでその分早く成長すると考えることもできます。

これは単なる理論であり、この説を支持する証拠はありません。
しかし可能性として、筋肥大したときの状態を身体が物理的に覚えているということも十分あり得る、というのが第三の説。

筋膜リリース用のフォームローラー。
筋膜リリースについてもそのうち解説します。


④脳のシナプス説

こちらは脳科学的な話

「マインドマッスルコネクション」という言葉を知っていますか。
脳と筋肉は神経を通じて繋がっており、脳からの信号を筋肉がキャッチすることで初めて筋肉は動くことができます。

突然ですが、皆さんは「耳だけ」動かすことができますか?
筆者はなぜか小さい頃からできたのですが、周りの友達にはできない人もいました。
私たちは誰もが耳を動かす筋肉を持っていますが、そこに上手く脳から司令を送ることができるかどうかは、脳と筋肉の繋がり、「マインドマッスルコネクション」ができているかによります。
「胸ピク」とかもこれと同じ原理ですね。

マインドマッスルコネクションは、何度も同じ運動を繰り返したり、強い刺激を与え続けたりすることで、後天的に上達させることができます。

マインドマッスルコネクションを鍛えることで、「モーターユニット」が増えます。
モーターユニットとは、一つの神経と繋がっている筋繊維の数のこと。
つまり、筋繊維自体の強さとは関係なしに、一度に動員される筋肉の数が増えることでより効率的に運動ができるようになります。

大人になっても、水泳や自転車のやり方ってなかなか忘れないですよね。
これは筋肉が動きを覚えているからではなく、脳が過去につくった運動を覚えているからだと言われています。
クロールをするときに「広背筋を収縮させて…」とか考えながらやっている人はいないと思います。
おそらく、脳は「クロール」という単位で信号のセットを保存しているのです。

トレーニングも例外ではなく、脳が動きを忘れることはなかなかないので、効率よく重量を挙げられる
結果としてトレーニングボリュームが増え、より早く筋肥大ができるのではないか、というのが第四の説。

シナプスと核の関係性についての論文。難しすぎて半分も理解できません。


⑤経験が活きている説

最後は人生論的な話…(?)

トレーニングにはたくさんのファクターがあります。
食事方法、トレーニング計画を立てる方法、トレーニングのテクニック、努力を継続する力…

いわゆる「努力の方法」がわかっている状態。
一度トレーニングを経験したことのある人は、あらゆる面において、初心者より上手にできると思います。

英語を習得した人が中国語を習得し、次はスペイン語…と勉強していくときも、「努力の方法」がわかっていればより効率的に学習できますよね。

つまり、筋肉そのものの影響以外にも、「経験」があるからこそ、より早く成長できるというのが第五の説。


●まとめ

これらを総合的に考えると、「マッスルメモリー」、つまり筋肉の記憶という名前は正確ではない気がしてきます。
しかし、どちらにせよ、トレーニングは決して無駄ではない、努力は裏切らないということは確実に言えると思います。

それでは最後に皆さんせーのでご唱和ください。

せーのっ、
「「「筋肉は裏切らない!!!!!!!!!!!!!!」」」



参考ページ

https://www.thebioneer.com/why-muscle-grows-back-more-quickly-its-not-muscle-memory/


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