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私の生きる世界

春。

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肌寒い風が草を撫でる音がすき。夏が待ち遠しいあまり、ちょっと背伸びして開けた窓。網戸の向こうから来る風に耳をすます。

ちょっぴり寒いなんて思いながらタオルケットにくるまる夜がすき。お日様の匂いがするゴワゴワが肌を撫でるあの感触。眩しいくらいの月明かりに夢うつつで目を覚ます。iPhoneを確認して「まだ4時だ全然寝れる」と寝返りを打つ最高の時間。

入学してすぐ。仲良くなりたい一心でぎこちなく気を遣いハニカミあった休み時間。教室には網戸がないのに蚊がはいってこなかったのはなんでだろう?校庭から聞こえる体育の声と国語の先生の朗読が子守唄。寝ぼけて書いたミミズ文字のノートで笑いあった。春の風はあの頃の記憶を連れてくる。

夕暮れのピンクの空。2つしか違わないのに大人で面白い先輩が大好きで待ち遠しかった部活動。早く早く!とそわそわしたホームルームを終え、教室を抜け部室に走った廊下の薄暗さ。先輩より早く部室に着くためにゼーハーしながら開ける部室のドアの重さも昨日のことのように蘇る。

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大嫌いだった外周。

「2分よんじゅー、よんじゅーいちー、よんじゅーにー!!!」

タイムキーパーをする先輩の大声も思い出すだけで心があったかくなる。部活帰りヘトヘトで汗臭いまま寄ったコンビニの冷房。じゃんけんで勝って奢ってもらったガリガリ君の味を覚えてる?
帰り道は腹ペコで自転車を漕ぎ、通学路で漂うカレーの匂いにもどかしくなりペダルを回す足を早めたりもしたよね

冷たい風が頬を撫でるたびに、気味が悪いくらいにピンクと紫に染まる夕焼け空を見るたびに私はあの頃を思い出す。


夏。

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暑くて汗ベタベタで目がさめる朝がすき。目覚まし時計よりちょっとだけ早起きをして麦茶を一気飲みするあの朝がすき。

朝ごはんの代わりに、隣のおじさん家の桃を2つばかり。桃を剥いた後の手の匂いが大好き。普段朝ごはんなんていらないくらいだったけどこの時期だけは楽しみだった。

燃えるような緑、焼けたアスファルト、眩しすぎる太陽、うるさ過ぎる蝉の声。私はこの季節が大好きだ。

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扇風機のボタンを強に入れ直すガシャンという音。座布団になんていられなくて寝転がった畳のひんやり感。昼下がりにそのままウトウト寝てしまい夕方におばあちゃんの「もうすぐご飯だよ」の声で目をさます。

夕飯どき。

「今日は裏山のあそこの木まで冒険した!こんなトンボがいてね?大きなザリガニも釣り上げたんだ!それでね、それでね!」

聞いてなさそうで聞いてくれているみんな。心の中にある何気ない昔の日常が、今でも私の心をホカホカさせる。

夏休みには朝9時から放送してくれてたコナンの再放送夏休みスペシャル。あの夏に見た図書館殺人事件の津川館長は今でもトラウマ

プールに連れてってもらう車の埃くさいエアコンの匂い。窓ガラス一枚挟んだ向こう側の景色は蜃気楼でグニャグニャしていた。プールの後の身体がホカホカするあの感じ。髪の毛からほのかに香る塩素とシャンプーの匂い。タオルを肩にかけないと背中が濡れて気持ち悪かったっけ。

学校から持ち帰って絵日記をつけていたミニトマト。青い支柱が立ったプラスチックの植木鉢。立派な実なんてならなかったけど、ベランダにしゃがみ込んで、ペットボトルから毎朝お水をあげ続けた。今でもトマトを食べるたびに、茎やヘタのトマト特有の青臭い匂いを嗅いで思い出す。

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みんなは知ってる?森の匂い。木陰に差し掛かると世界が変わったように温度が、そして匂いが変わるの。日向から1歩踏み出しただけで湿った緑の匂いがする。土の香ばしい匂いがする。竹林はまた違った爽やかな匂いがするんだよ

セミもカエルも鈴虫も。木の枝が揺れる音に田んぼを風が走る音も。まるで世界がすぐそこにあるような夏が好き。


秋。

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さっきまであんなに明るかったのに、少し見ない間にあっという間に夜が訪れる。一気に別世界に変わるあの瞬間がすき。オレンジがかった夕暮れの世界はまるで夢の中のよう。

衣替えの時期。移行期間の1週間のうち、いつから冬服にする?なんて友達と打ち合わせした帰り道。自分だけ冬服に変えちゃうと浮いちゃうんだよね。

お昼は暑いくらいなのに夕方になると一気に冷え込んで、腕をさすりながら帰る午後6時。冷たい夜風が夏を連れて行ってしまう気がしてちょっぴり怖くなる。

春夏のカラフルな世界が徐々に黒に侵されやがて夜を連れてくる。これまでは明るくてアットホームな雰囲気を醸し出していた住宅街の明かりも急に温度をなくしていく。そんな秋のゾクゾクとする感じが好きだった


遠くから聞こえる汚いノイズだらけの焼き芋屋さんのアナウンス。聞こえた瞬間に家族が焦り出すの。千円札を握らされはやくはやく!と急かされて部屋着のままサンダルを引っ掛けて外に飛び出すんだよね。

ああどうか友達に会いませんように…なんて願いながら遠くの広場に停まる軽トラックに向かう。私と同じような格好の人が沢山いてああ、この人も急いできたんだろうな…なんて可笑しくなった。紙袋を抱えて帰る人はみんなニコニコ笑顔。

まだかなまだかな!なんて列の前を覗きながら待つ。そんな時に友達に後ろから声をかけられるの。驚きと恥ずかしさを抱えて照れ笑いしたっけなあ。


冬。

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鼻に抜ける冷たい空気の匂い。雪の匂い。わかるでしょう?空気にも雪にも決して匂いなんてないはずなのに変だよね。

どんより灰色の気怠そうな空が全ての音を吸収していく。なにも変わらないいつもの街並みなのに急に孤独になる感じはちょっぴり苦手だったなあ。

肌を刺すような冷たい空気が自転車通学の悩みだった。スカートからのぞく膝小僧が痛くなるの。だからちょっと進んでは止まって、手袋をした手でさすって温めて再出発してたっけ。側から見たらちょっと進んでは止まる怪しい女子高生だったろうな

冷えた身体をストーブで温める瞬間も好き。感覚がなくなるくらい冷えていたのに、じんわりじんわり血が流れていくような感覚

コタツも最高だよね?ご飯をたべて満腹になったところでコタツに入ってしまうと絶対に寝る。そうしてお母さんに怒られるの。笑

コタツは魔物が棲んでいる…

なんて言い訳をして笑いあうんだよね。


クリスマスの浮き足立った雰囲気もすき。街中で軽やかな音楽が流れ、カラフルな世界に大変身!誰かと過ごす時間も増えて、まるでアメリカの映画みたい。誰もが誰かの為を思い優しい気持ちになれるウキウキが詰まった特別な期間

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何より大好きだったのは焚き火の時間。祖父母の梨畑ではこの時期になると暖をとるために大きな焚き火を囲む。寒いのが苦手でずっとコタツに潜っていたい私もこの焚き火を目当てに梨畑まで付いていくほど。

焼き芋を仕込んだり、焼きリンゴをやったり。マシュマロを炙ったりココアを温めたり。黙々と仕事をこなすばーちゃんとじーちゃんの後ろ姿を眺めながら、鼻歌を歌いながら焚き火を見つめる時間。15分も過ぎると飽きてちょっかいを出しに行ったなあ。

「焚き火番」なんて役割を与えられて。薪をくべたり火を落とさないようにしないといけないけど火が大きくなるのが怖くて。笑笑

オドオドしてる間に火が小さくなるんだよね。焦って薪をくべて根元をかき回したりね。風向きを間違えると煙くて大変なんだよね

服や髪の毛につく煙臭さは強烈なのにクセになるよね

冬といえば夜。日中はどんより灰色の空なのに夜になると嘘みたいに澄んだ空。宝石箱みたいで星が落っこちてくるよう。部屋の電気を消したけど全然眠れない夜に「おーさぶ」なんて言いながらベランダに出て眺めた星空は忘れられないよ


ふとした瞬間、音や匂いや色で過去の記憶を思い出す。

24時間365日変わらず流れていく時間の中で、あの頃大事にしていたキラキラした感情を少しずつ忘れていってしまう。決して特別なものではないけれど毎日の暮らし。あの頃感じた名前のつけられない感情も、知らず識らずに無くしてしまったキラキラも、ふとした瞬間に音や匂いや色で思い出す。

大人になると良くも悪くも全てが「あたりまえ」。毎日歯を食いしばって働いて我慢することなんてしょっちゅうだ。ついつい嫌なことに目を向けがちになるよね。

でもね、何気ない一瞬の音や匂いや色で思い出すことが出来るんだ。あの時のキラキラは今も変わらず心のずっと奥の方にある。思い出して欲しい。

あの頃好きだったことは何?

些細なことでも構わない。心の奥に眠っているキラキラをひとかけらでもいい、探してみてほしい。

忙しい毎日にキラキラを。頑張るあなたにキラキラを。

お金なんてない毎日、地位も名誉もなく必死になって働くことしかできない私だけれど、豊かな心を全部抱えて大人になりたい。


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