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リスキリングと離職問題が大きく関連していた件

こんにちは。かさいです。HR業界に20年以上もいます。採用、人材開発、教育、制度領域にいます。並行してDXやAIの領域にも深くかかわっていて、投資家向けにピッチなどもしています。自身としてはHR×テクノロジーの実践を強みとしています。

巷ではHRとDXというテーマで「リスキリング」についての話題がちらほら。僕もご多分に漏れず相談を受けることが多いので、リスキリングについて調べてみました。

どうせまた、コロナ禍の補助金、助成金みたいなもんなんでしょと思っている方も多いかもしれません。なんかそうでもないらしいです。調べてみるとリスキリングは今後の企業成長に大きくかかわるテーマみたいです。ぜひ、この文章をお読みいただき、リスキリングについて知見をもって、組織運営に活かしてもらえると幸いです。なお、本記事ではリスキリングにおける具体的な話というより、リスキリングが企業にとってどんな意味を持つのかを知ってほしいという思いで書いています。


リスキリングとは

リスキリングとは、「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」とのこと。まあ定義が広い。最近では、専門学校や社会人スクールがリスキリング関連の講習をガンガン出しています。この取り組みは、岸田総理も所信表明で肝入りの話だったらしく、「リスキリング支援、5年で1兆円」とおっしゃっています。なぜこんな発言をされているのでしょうか。

岸田総理が伝えたかったこと

岸田総理 2022年10月3日 第210臨時国会衆議院会議 所信表明演説にて

(三)構造的な賃上げからの抜粋
リスキリングについては、GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直します。
加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します。一方で、企業には、そうした個人を受け止める準備を進めていただきたい。
人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。

岸田文雄首相の施政方針演説抜粋(2023.1.23)

・要点をまとめると…

各企業にはDXや新規テクノロジーを取り入れてもらいたい。それでも全然進まないので、国が直接、DX関連や新規事業関連のスキルアップ支援をする。あわせて、転職支援までのスキームを作るので、すでに取り組んでいるもしくは今後DXに取り組む企業は積極的にリスキリング人材を受け入れてほしい。日本は過去の年功序列型をやめて、あらたな職能テーブルの形をつくっていきたい。

と言っているように聞こえます。では、このメッセージが意味するものは何か?それは、リスキリングを実装しない企業は優秀な人材の離脱が促進していくことを覚悟してほしい。ということです。確かに、以前はベンチャー、スタートアップ企業の給与は一般企業に比べて安く、やりがい搾取が横行していました。しかし、今は違います。DXやテクノロジー企業は資金調達を繰り返し、潤沢なキャッシュを手に入れ、サービス開発、マーケティング。そして、人材獲得のために遠慮なくコストを投下しています。

・人材獲得競争の激化

岸田総理はリスキリングを通じて、成長産業に人材の流動化を図ることを狙っているのだと私は感じました。リスキリングは単なる補助金、助成金ではありません。企業にとってリスキリングはもう見て見ぬふりはできないものになっています。

▼詳しくは第2百回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説で確認を。


リスキリングが注目される背景

ここまでは岸田総理からの見解を中心に記事を書いてきましたが、もう少し俯瞰的観点からリスキリングが注目される理由を書きます。

・産業革命の歴史

歴史は第一次産業革命にさかのぼります。イギリスが世界を席巻した時代から常に新しいテクノロジーや効率化を各国が競争をしていました。第二次産業革命では、石炭が石油に。石炭から石油に移行できなかったイギリスを追い抜くように、アメリカが世界を席巻する時代に突入。第三次産業革命で、インターネット時代を経て、現在は第四次産業革命の真っただ中と言えます。とはいえ、すでにスタートアップ界隈では、ディープテックという分野が急成長をしており、宇宙技術、バイオ技術が数年後にはこの技術が一般化されていくことが予想されており、第五次産業革命はもう目の前です。

となると、第四次産業革命はあと数年で終焉を迎え、DXという言葉ももうオワコンみたいな世界になります。僕の周りの企業すでに企業はAIを活用し始めていますし、個人レベルでもGPTの契約をして、ブログなどの記事を書いたり、調べものを簡素化しています。

・テレワーク

コロナ禍以降当たり前になったテレワーク

働き方も変わりました。テレワークが一般化。コロナが落ち着いた現在はテレワークと出勤を使い分ける企業が増えてきましたが、テレワークも1つのオプションとして活用できるかできないかで、企業の評判や見え方も変わるようになりました。僕は採用支援の仕事もしていますが、もう100%出勤の企業は応募者からの優先順位が下がっている現状があります。

・ダボス会議(2020)

ダボス会議(2020年)

2020年のダボス会議では、すでに2030年までに世界で10億人をリスキリングするという発表をしています。世界レベルでは、もう2020年からリスキリングが始まっていて、岸田政権もこれ以上、世界に離されるわけにはいかないという思いもあるのでしょう。

経営層の方が「まだまだうちの会社は人が余っているので」とか、「業務が属人的なので」「ウチの社員はDX製品は使いきれない」なんて言っている場合ではなくなっています。そんなこと言っているうちに、優秀である社員ほど辞めて、自分のスキルを挑戦できる環境に転職してしまう世の中になるという恐ろしい未来が待っています。もう転職を常に考えている若者はけしからんみたいな発言だって、できません。国が転職をバックアップしているんですから。(これについては後述します)

リスキリングの種類と事例

現在各企業がどのようなリスキリング施策を行っているかを調べてみましたのでご紹介します。

・日立製作所「Hitachi Digital Academy」

・ヤフー株式会社「Yahoo! Career Challenge」

・富士通株式会社「Global Strategic Partner Academy」

名だたる大手企業が続々と社内でのリスキリングプログラムを開始しています。ただ、リスキリングって大手だけなんでしょうか。中小企業はできないのでしょうか。僕はそうは思いません。中小企業でもリスキリングを成功させている事例はあります。

例えば、最新のデジタルツールを導入をする際に、プロジェクトを組んで、導入は成功。アナログからデジタルに移管されていることって、たくさんあると思います。実際、僕がDXサービスを導入した企業では、事務の方がDXについて自ら学び成長。事業開発部門に移動したり、WEBデザイナーの方がが自らDXを学び、本部に栄転後、一気に昇給昇格をしている事例もあります。重要なのは、枠組みではなく、会社と働く人の考え方。既存の仕事のやり方に固執せず、デジタルを使って改善をしていくことからはじめれば良いんじゃないでしょうか。

リスキリングの実施課題

リスキリングを実施する上で、各企業に共通する課題があります。そこで興味深いアンケート結果があったので紹介します。

※「月刊総務」2022年7月15日PRTIMESリリースデータより

月刊総務のアンケート結果によると、時間の確保が第1位。第2位は社員のモチベーション。大変言いにくいのですが、子供が宿題をらなかったときの言い訳みたいな状況になっています。これが実態だとすれば、岸田総理も重い腰を上げる理由が分かります。でもなんでこんな状況が生じているのでしょうか。筆者もDX領域にもいるのでわかるが、DXを通じて社員教育が上手く行っている企業の特徴は

・DXをプロジェクト化して個人の責任にしていない
・DX関連業務にやらされ感がない
・DXリーダーに兼任させない(会社の覚悟)
・DXを設備投資だと考えている(費用対効果発言を連発しない)
・DXを担う人材を正しく評価している

この前提にリスキリング(要は育成や教育観点)を入れています。もっと言えば、片手間ではうまくいきません。

「そんな簡単にはいかないし、コストもかかる」という意見が多発しそうです。そうなんです。だからこそ、国家が支援をしてくれているんです。国はリスキリングを本気でしたい企業には、投資をすると言ってくれているんです。改めて言いますが、今後の人材獲得競争において、リスキリングの助成金や補助金を使わず、あとから自前でやろうなんてありえません。本腰入れてやる時期がもう目の前まで来ています。

リスキリングのコツ

・リスキリングサイクル

リスキリングを回すサイクル

リスキリングはサイクルで考える必要があります。まずは座学を学び、実践をする。そして、社員の能力が向上。そうすると組織の業務効率があがります。これを続けることで定着化。さらに社員は学びたくなる。こういったサイクルです。このサイクルを作るには、最低でも6ヶ月は必要でしょう。育成とはそういうものです。ここを乗り越えて、リスキリングされた社員は会社に貢献し、業務効率を上げていき、会社全体の生産性が上がる。そして、その社員は評価をされ報酬UP。そのまま辞めず会社で頑張り続けてもらえるというサイクルを作れるかが勝負です。

・ツールと育成は歯車の関係

ツール活用と育成の両輪が回ってはじめてDXは成立する

DXがうまくいかないという企業に足りないこと、それは「育成観点」です。なんでもかんでも費用対効果や生産性という言葉だけ(決してこれらが悪いわけではないが、常に短期観点から費用対効果や生産性を見ることが問題)で、DXを頑張っている社員を追い込みます。しかも前述しましたが、すでにタスクフルな社員にさらにDXという重たいミッションを背負いこませます。そして最も重要である「育成」をしません。する人がいないということも言えます。その本人の属人的能力に任せちゃいます。子供のころ自転車に乗れるまで、補助輪をつけて、そのあとは親が荷台をぎりぎりまで持ってくれて、押してくれました。そして、何度も失敗して乗れるようになります。これは大人になっても同じ。何も教えずに自分で勝手に学べとばかりツールを使わせてみて、できないとうちの会社には無理とばかりあきらめてしまいます。

だからリスキリングなんです。外部のリソースを上手く活用して、社員を育成するチャンスを逃してはいけないと筆者は強く思っています。

リスキリング関連の助成金

リスキリングは国、自治体で様々な支援があります。全部上げたらキリがないので、こちらでは厚生労働省のリスキリング助成金を紹介します。ちなみに、経済産業省管轄のリスキリング補助金もありますが、こちらはコンセプトと支給対象が変わるので、今回は触れません。どちらかというと人材会社への補助が出るもので、岸田首相がいうキャリア支援のほうです。

・リスキリング助成金(厚生労働省)

リスキリング助成金の概要

注目いただきたいのは、事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門知識および技能の習得とあります。また事業展開は行わないが、企業内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的知識および技能の習得とも記載をしています。いままで社内で教育ができず困っていた「育成」に対して助成金が出るんです。だったら、どんどん外部に育成支援を依頼して、任せてしまったほうが良いです。下記にあるように、60%から75%は助成されるんですから。

中小企業は最大75%までの助成が可能
助成活用事例

活用事例も一応載せておきます。上記の事例では100万円の研修を外部受講した場合、ベースで75万円が戻ってきて、加えて賃金助成でも約11万円が戻ってきます。合計は86万円。つまり100万円の研修を14万円で受講したことになります。しかも社外に依頼しているので、社内のリソースは使っていません。こういったスキームをいかに活用できるかが肝になってきます。

余談ではありますが、リスキリングは経済産業省管轄の補助金があります。これは、DX企業向けというよりは、キャリア支援強化という観点で運営されています。岸田政権は厚労省管轄で既存社員の育成を底上げしながらも、労働リソースの再配分も考えて、補助金側では全く違う思想での運営をしています。

リスキリング補助金の詳細は下記。2023年9月15日に三まった。

人材会社に社会的支援を期待して予算化されたリスキリング補助金

最後に

リスキリングは企業の今後の生き残りにおいて、重要なことであると書いてきました。しかし、インターネットの普及、オンプレからクラウドなどあらゆる場面で日本企業は変化に対応してきました。ただ、今回のDXやAIは少し複雑なだけ。ちゃんと腰を据えて、地道にいけば乗り越えられる壁です。私もHRとDXの領域には長いことおります。ぜひこの記事をお読みいただき、少しでも思い当たる部分がある場合、よろしければ、かさいまでご相談ください。どんな些細なことでも構いません。

また、読み応えあったなと感じていただけましたら、スキをぜひおねがいします!X/Twitter(@hiroshikasa)でもいろいろとつぶやいていますので、フォローをいただけますと嬉しいです!

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