名辞以前

うまく生きたいと願うけれど、不器用で身勝手で自分が掴みたいものが何なのかすら分からない…

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うまく生きたいと願うけれど、不器用で身勝手で自分が掴みたいものが何なのかすら分からない。日々の備忘録として拙いものを書いていきます。内容はフィクションだったり実話だったり。

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    これまでのダメ人生について色々語っています。

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歳を取ればみな一人ぼっち。お金よりも大切なもの

近い将来、人生100年時代が到来する。今生きている私たちのほとんどは100歳前後まで生きるかもしれない。 定年は65歳から75歳、あるいは80歳になるかもしれないし、かりに80歳だとしても死ぬまでにあと20年もある。20年といえば赤ん坊が成人してしまう莫大な年月だ。 私は仕事柄、高齢者と接することが多い。100歳を超える人と出会う機会も何度かあった。 彼らが抱えている悩みや楽しい思い出、家族の話などに傾聴していると、高齢者といえど、私たちと変わらない一人の人間なんだとい

    • 私をクソだと言った経理のあいつ

       人はみな勧善懲悪が好きだ。  幼い頃から漫画やドラマなどである意味洗脳に近い教育を施された私たちは、不平等や暴力や卑怯さを忌み嫌い、自分はそうなるまいと息巻いている。多くの人は自分のことを善良な人間だと思い込んでいる。 しかし、果たして自分が善か悪かと明確に区別することはできるのだろうか。例えばオセロのように一目でそれが分かればいいのだが、人間は無数のグラデーションでできている。善良な自分もいれば、周囲から嫌悪される醜悪な自分もそこにいるはずだ。 いつでもどこでも善良

      • 足りないものなんて本当はそんなにない。

        さらさらと流れる小川は夕暮れの物悲しげな姿をうつろに映している。透明な水の膜の向こうにはこことは違う生態系があり、それぞれのルールの中で生きている。一つだけ違うのは、彼らは捕食について深く考えていないであろうことだ。もちろん、自分の生き死にについて無関心な生物はいないだろう。どんな生き物にとっても生存していくことは最も重要な使命だ。しかし、人間のように優越感に浸ったり、逆に劣等感に溺れることはないはずだ。 なぜ人間はこんなにも不器用に発達してしまったのか。生物として頂点に君

        • 「自分に宛てる手紙」というのがキモいけど結構良い

          生まれてこの方自己肯定感というものを得たことのない私の心は、干潮で姿を表した岩のようにトゲトゲしていて鬱陶しい。 何をするにもネガティブだし、消極的だし、しまいには純粋にハッピーな出来事すら悲しく思えてくるから厄介なことこの上ない。時折、自分は自分が傷つくことでエクスタシーを感じる変質者なのかもしれないと真剣に悩むことがある。ある程度の年齢まではこれが普通なのだと思って過ごしてきたのだが、大人になるとどうやらこれは異常なのだということに気がついた。 異常なのだから正常に戻

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        歳を取ればみな一人ぼっち。お金よりも大切なもの

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          くそったれ対人恐怖

          「君は背が高いのに内面は小心者なんだね」 かつて精神科医にそう言われたことがある。たしかに私は身長が180cmを超えているため、周囲からは背格好と性格とのギャップに驚かれることが多い。 私がどんな性格か一言で表せば「臆病」だと思う。物心ついた頃から常になにかに怯えていた気がするし、その傾向は年々強まっている気もする。 生来の小心者である私だが、とくに臆病になるのは「人間関係」だ。人から拒絶されたり笑われたりすることを極限まで怖がり、周囲と深く関わろうとしない。 大人に

          くそったれ対人恐怖

          なんと呼べば

          暖かな日差しの粒子を めいっぱいに含んだ 空気を深く吸い 柔らかな決意とともに 吐き出す朝の 高揚を 日々の混沌とした 汚れを洗い落とし 形を整え からりと晴れた 午前に干していく 爽快さを 嵐が過ぎ去った あとの小さな部屋で 埃ひとつ舞い上がらない 静寂に促され 指を重ね合う 甘い諦めを いなくなってしまった 人たちを想って うずくまり けたたましい夕焼けが 夜を拒絶する 悲しいわがままを いったい 私は なんと呼べば いいのでしょうか

          なんと呼べば

          知らぬ間に始まった恋は、知らぬ間に終わっていた

          久しぶりに買ったタバコを見て、気づかないうちに自分が相当疲弊していたことに気がついた。 今年は人生で最も受難の年だったように思う。別に厄年でもなんでもないのだが、これを厄年と言わずしてなんと言おうか。もしも、これから先これ以上の苦難に満ちた一年が訪れるのだとしたら、私の精神は持たないはずだ。怖すぎる。 今年に入ってからいくつかあった人生最悪の出来事のうち、今回書くことは軽傷に過ぎないが、これまでの蓄積もあってかなり心にキテいるので、公の場に書くことではないけど、ここはno

          知らぬ間に始まった恋は、知らぬ間に終わっていた

          【詩】はじめて

          はじめて目が合ったとき ふたり 目を逸らした すぐそばで飛び交う あいさつや笑い声が どこか遠くの 汽笛のように響き たった二人きり かのように ふたたび 目を合わせ 今度は逸らさなかった はじめて手をつないだとき どこまでも 高鳴る胸に 惑いながら 同じ震える きみの手のひらを 静かに抱擁した 夜明けのように 街と人々とが 優しく溶け合い それは ふたりが 別々の人間であることを 忘れてしまう ほどだった はじめて口づけたとき 勢い余って 歯と歯がぶつかり 少しおか

          【詩】はじめて

          【詩】じぶんのために、と笑って

          じぶんのために、と笑って 肩を揺らしている どこか誇らしげで おどけて 傷ついている ひまわりのように伸びた 小さな手のひらには こぼした涙ほどの 優しさが宿っている じぶんのために、と笑って 目を細めている いくらかの強かさと いくつかの諦めが 焦点を結び 柔らかな三日月のように 尖った唇は あるべき明日を示している じぶんのために、と笑って 声を上げている 水のように透き通り 複雑で読むことができない 感情の流れ それは人を惹きつけ 時に遠ざけ 波のように喜怒哀楽を往

          【詩】じぶんのために、と笑って

          【詩】駅をひとつ乗り過ごしたら

          駅をひとつ乗り過ごしたら 変わり映えのしない日常に 少しの余白があるのに気づいた たった一駅なのに 見慣れない街と耳慣れない足音 いつも外を向いているつま先は 今日は少し縮こまって それでも前に進んでいく 本来ならわたしのいない どこか他所で起こり得た物語の中に 迷い込んでしまったような 画風の違う絵の中に 墨で書き足されたような おぼつかない心持ちだが どこか心地いい いそいそと夕飯の支度をする いつものわたしを背中に覗き まな板をトントンと叩く 小気味よい刃音が カビ

          【詩】駅をひとつ乗り過ごしたら

          【詩】私の住む街

          帰り道にふと 足元を見やると 右の靴紐がほどけていた かがんで 結び直していると 迷惑そうに サラリーマンが私を避けて ぬらぬらと輝く夕陽の中へ 消えていった 私の住む街では 立ち止まることすら 気軽ではない スーパーで買い物をしていると きれいにラッピングされた 豚肉が半額になっていた わずか半年ほどで 人生を終える彼らは 何かを考え あるいは夢を見たろうか 屠殺して商品に変え それでいて 売れ残している そんな贅沢を 我々はどんな顔で享受すべきか などと考えていると 冷

          【詩】私の住む街

          【詩】わたしは書く

          わたしは書く 鳥が翼で 風を掴むように 反復する指先が 命に触れるまで 打ち捨てられた言葉たちは ゆっくりと朽ち その身を蝕まれ 途方もない潜在意識の 土壌となる 言葉が口を抜けるとき 小さな隕石のように その身を焼き尽くされ 地上に届く頃には 色彩を失った 石ころに成り果てる 一片の嘘も飾らないものだけが 大気圏を越え 柔らかな大地を享受する あなたに何かを伝えたいとき 私の口は押し黙り 無数の言葉が 飛び交う小宇宙で ついに何も掴むことはできず 手ぶらのままに帰宅

          【詩】わたしは書く

          【詩】土の美しさ

          空よりも星よりも 雲よりも太陽よりも 大木よりも山よりも 猫よりも人間よりも 土は美しい 土は慎ましく 慈愛に溢れ 時に根を張らせてやり 糞を栄養素に変え 天敵から身を隠す住処になり 死骸を優しく受け入れる 土は少女の柔肌のように傷つきやすく あるいは創造主のように自由自在だ ひまわりの咲く頃 蝉の這い出す頃 鮎が川を泳ぐ頃一体どれほどの人が 土のことを想い 感謝するだろうか 生態系の命でありながら 誰に自慢するでもなく ひっそりと横たわっている そんな誠実で はるか

          【詩】土の美しさ

          【詩】その瞳が獣であった頃

          頬を撫でる冷ややかな風 薄ぼんやりとした生を わずかに蘇らせる まだその瞳が獣であった頃 月は謎めいた明かりをもって わたしの心を沸き立てた 夜が人々の存在を割り引いた時 そこには無数の孤独が広がり ひとつひとつの名は失われ ある種の集合体として ただ美しくなった どこからともなく 遠吠えのような慟哭が響き 夜空はそれをたしかに受け止めた 誰も彼もが それをじっと 眺めていた 一人であるということが 他者との結びつきを一層深めた その瞳が獣であった頃 私は一人だったが 幸せだ

          【詩】その瞳が獣であった頃

          【詩】刹那

          体を貫く激烈の赤 すべてを無に還してしまうほどの熱 大気はひび割れて 昆虫の羽のように はらはらと落ちた 地上と私とをつなぐ足の裏には 恐ろしい憎悪と悔恨が もぞもぞ蠢いている いまこのとき 私は関係のない存在だ ブランコではしゃぐ親子 楽器をかついでいる学生 ひげを伸ばした浮浪者 狂人のように挨拶ばかり繰り返す社会 いまこのとき すべては私とは無関係で はじめからこの世には 私という質量は存在していなかったかのように 世界は背中の向こうで営まれている 太陽の爪が顔を引き裂き

          【詩】刹那

          【詩】言葉について

          言葉が好きだ 心の調べに乗って 時に優しく 時に残酷な旋律をもって わたしと あなたとを 通わせてしまうから はるかな宇宙に憩う ちっぽけな塵 吹けば消えてしまうほどの あっけない命 生まれた瞬間から 終焉への帰途であるという 揺るぎない孤独を 忘れさせてくれるから 言葉が好きだ ひび割れた器から あふれたものに 名前を授け およそ正気ではいられぬほどの 激しい情動を いくらか牧歌的なものに変え 人の心を支配する 欲望と戦慄 それを 愛と呼ぶことができるから たった

          【詩】言葉について