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【詩】刹那

体を貫く激烈の赤
すべてを無に還してしまうほどの熱
大気はひび割れて
昆虫の羽のように
はらはらと落ちた
地上と私とをつなぐ足の裏には
恐ろしい憎悪と悔恨が
もぞもぞ蠢いている
いまこのとき
私は関係のない存在だ
ブランコではしゃぐ親子
楽器をかついでいる学生
ひげを伸ばした浮浪者
狂人のように挨拶ばかり繰り返す社会
いまこのとき
すべては私とは無関係で
はじめからこの世には
私という質量は存在していなかったかのように
世界は背中の向こうで営まれている
太陽の爪が顔を引き裂き
溢れた血だけがいやに優しい
一体全体何が起こっているのだ?
私は求められてこの世に生まれたはずなのに
生活の中にはつま先ほどの猶予もない
耳鳴りが内耳を抉る
天と地は入れ替わってしまった
帰るべき道が分からない
足元では相変わらず
死と親密な者たちが
もぞもぞと手招きしている
体を貫く激烈の赤
すべてを無に還してしまうほどの熱
大気はひび割れて
昆虫の羽のように
はらはらと落ちた
私に残された時間は
おそらくその刹那だけ

大事なお金は自分のために使ってあげてください。私はいりません。