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#現代詩

一滴の油が空気へ滲ませる手紙

一滴の油が空気へ滲ませる手紙

誰にもバレぬように
フライパンに油をしいて
こっそりと手紙を焼いてみた
プスプスと音を立てて
息を吹き返したように
蠢いて行く
一瞬見惚れた隙に
炎があがり
全て燃えて消え去った
ように思えた
灰は気付かぬうちに
私の身体に入り込み
退去費用をかさませようと
白い壁に黄色く身を残していった
再来年の住人さん
これはピーマンを焼いたからじゃないよ
タバコなんかよりも
あの手紙の足跡だよ

君達が共に過ごすその夜に、

君達が共に過ごすその夜に、

僕はなりたい
その夜になりたいのだ
比喩だとか擬人化とか
そんな小さな事は置いといて
君達が共に過ごす
あの寒空の夜に
僕はなりたい

過ぎ去った明日

過ぎ去った明日

コンビニでなんとなくいつもとは違った番号を
呟いた
ひと吸いで いつも が恋しくなってしまった
残り19本
ただ火をつけた煙はゆらゆらと
踊っている
君の手のひらの上で

昨日やっと残り2本になってしまった
今朝の番号はいつもどおりで
何となくきみの名前を呟いた
ただ煙に巻かれた日々はだらだらと
過ぎ去っている
君の手のひらの上で

いつしか他の誰かとみたドラマ
言葉をコピー&ペーストして
君に気

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全てが絶妙なバランスで出来ている

全てが絶妙なバランスで出来ている

誰かが置いた小石
デザイナーのパッケージ
あの日のライターに
いつもの煙草
予報から逃れた分厚い雲
果てしなく昔からある山と
今日だけの波の音
吐いた煙は粒子となって
君の体内へと溶け込んでいく

2人はまるで溶けたチョコレート

2人はまるで溶けたチョコレート

ギリギリにお互いの輪郭を保っている
そんな二人
触れ合っている面積よりも
溶け合っていたい
甘い
なんかよりも
苦く
ありたい
君の甘さを
足して二で溶けて
ちょうど
ギリギリ輪郭はうっすらと残って
二人は一人じゃなくいられる
君になりたいわけじゃないけれど
溶けた分だけ君をください
チョコレート

固結びは解けやすい

固結びは解けやすい

なんで物語がないと
評価されないのだろう

鼻をすすってタヒの本を読む
すると
横を小さな子供が通る
スタバの整列用の矢じるしに逆らい
踏みつけている
最初の疑問なんて忘れ去ってしまった
子供の靴は片足が固結びになってしまっていた

花びらは5枚

花びらは5枚

好き嫌い
好き嫌い
好き
なんかずっと好きな人はいなくても
なんかずっと嫌いになれない人がいます
それは紛れもなくあなたの事で
指の長さや
肌の温もりや
髪の毛の香りまで
全ては覚えていないけれど
あなたの事を思って
花びらをちぎると
いつでも好き
と言う結果を突きつけられます

雨は嫌いでも空を嫌いな人がいないように
人は嫌いでも音楽を嫌いな人がいないように

あなたの事をいつになっても
嫌いに

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半分世界を食べてみる

半分世界を食べてみる

朝の埼京線はなんだか薄紫がかっている

いつも乗る横浜線とは違い

少しヤンチャそうな若者と

携帯から漏れる音を気にしないおばさんが

入り乱れている

紫陽花も咲いていないのに

そんな季節でもないのに

紫陽花の香りがした

不思議なくらいに

世界は丸いんだよと

誰かが言っていた

あれは地元の公園によく居る

お爺さんだったろうか

それとも一昨日スーパーで偶然に再開した

飲んだくれ

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猫の目に宝石が

猫の目に宝石が

優雅に歩く

こともできるけれど

しなやかに飛び越える

ことも容易いけれど

うずくまって

君を見つめる

去年のこのころは

君たちを見つめていた

するとしゃがんで

何やら話しかけてくる

「目をえぐり出したい」

「それほどに美しい瞳」

「それを宝石として売ったなら」

しばらくすると何か納得したように

「生きているからなのか」

「命と瞳その輝きなのか」

思い立ったように過ぎ

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愛 夢 そして言葉のようなもの

愛 夢 そして言葉のようなもの

愛してる

愛を伝えるのに彼女達は言葉のような
何かを纏った温度のようなものを用いた

ただ
抱きしめる

たったそれだけでも愛を伝えられるような気がした

夢みてる

夢を語るにも少年たちは言葉ような
何か孕んだ眼差しのようなものを使った

ひたすらに走った

その足跡が夢の骨格を形成しているような気もする

そして綴った

愛や夢のような形のない光だけを通して
自分を映し出す窓は明かりを消した

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送信ボタンは青く光っていた

送信ボタンは青く光っていた

打っては消し、打っては消した。

文章が3行も溜まっていた。

読み返して 語尾を変えて 句読点を入れ直した

あげく送れなかった。

影ばかりが成長して

影ばかりが成長して

のらりくらり歩いていた。
アスファルトからはジリジリと音が聞こえる
何歩か地球の回転に逆らって歩いていると
馴染みのある飲食店が出てくる
そこを右に折れましたら
今度は太陽を背に左右の足を交互に影を踏んでみた
ぽてぽてと歩くとすーっと夏の日に似合わない
涼しい風が吹く
どらっくすとあか、
ぐっどらっく
目の前の信号が点滅したり色を変えたりする。



赤ん坊の泣く声が聞こえてきた。
黄色い声

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逗子アンヴォワ、それから

逗子アンヴォワ、それから

何気ない君の欠伸が宙を舞って私に移って、
混じり気のない笑顔の瞳に私が写っていた。

月が綺麗ですね
貴方ならどう訳しますか

夏目漱石は「I love you.」
友人は 2人で空を半分こにしませんか
後輩は 骨折治りました!
とメッセージを送ってきました。
私は迷わずに
おめでとう!と返しました。

私は 「I need you.」
と訳します。
月が綺麗に見えるには太陽が居ないといけないから

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夜のど真ん中に

夜のど真ん中に

スマホの下の小さなイヤホンジャックにイヤホンを差し込んだ瞬間に私の大きな世界が広がった気がしたんだ。

君からの連絡を駅の改札前で待っていたあの夜
君からの電話。
お酒に酔ったつまみされた気分になったあの夜
私は確かに夜のど真ん中にいました。

夜の端には貴方が居て、自分が中心だと叫んでいました
しかしその頃私は夜のど真ん中に居て端の方のあなたを遠く眺めていました。

イヤホンジャックを引き抜く鈍

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