ヒトシ
2024年の作品たちです。
140文字小説コンテスト「季節の星々」への応募作品です。
2023年に投稿したものたちです。
2021年11月に再スタートした140文字小説コンテスト「月々の星々」への応募作品たちです。
心の中で自分が問う。 わたしは何者かと。 もう一人の自分が答える。 『全ては定義の問題だ』。 宇宙に対峙させるか、 社会に対峙させるか、 家族に対峙させるのか、 あ…
庭に訪れる小鳥たちの落とし文 そこに混じったいくつもの紫が 桑の季節がきましたよと知らせてくれた それでは早速と畦道の先 世話人知らずの老いた木を訪ねれば 艶や…
もう少し待とうかとも思ったけど ぐずつくらしい天気の予報に促され 大蒜たちを掘り起こす 残暑の頃に植え付けた一片は 秋冬春と時を溜めて 六片の塊になって帰ってく…
夜半の雨にたっぷりと潤った朝野良の吾畠 生き生きと葉を広げる野菜たち破顔する ひときわ大きなズッキーニの葉陰に 生まれたての紋白蝶 身じろぎもせずに一心にぶら下…
今年初めて挑戦中のそら豆の畝 小さく吹いた若芽の姿で冬を越し 春陽を浴びて葉を茂らせて 花を咲かせてつけた実は 空を見上げて立ち上がり ゆっくりじっくり太くなる…
ぱんぱんに膨らんだねぎ坊主 薄皮を脱いで弾けると 無数の黄色い蕊たちが 花火のように広がって つんつん、つんと満開に どこで噂を聞きつけたのか 蜜蜂たちが群がっ…
三日続いた慈しみの雨に ぐいっと背中を押されたか 吾畠の麦が一気呵成に穂を出した 清々しく広がった青空を目指し 青々と茂った茎葉の先に みっちりと粒を詰め込んで…
降り続く細やかな雨は 森を穏やかに潤しながら滴り落ちて 降り積もった腐葉の土に沁みてゆく 聳え立つ木々たちは溶け出した滋養を 深く張り巡らせた根で吸い上げて 育…
皐月の風に乗って降り立った 一粒の赤いプロペラが 小さく芽吹いたのは一昨年の春 そして三度目の晴明の候 もう一人前だと枝を振り 柔らかな若葉をいっぱいに湛える …
暖かな陽が野を優しさで包みこみ とりどりの花々が一斉に咲き乱れ 誰も彼もが我世の春を謳歌する 満開の桜に賑わう堤の先 雑木の森が作る陰翳の足元に 密やかに咲くヒ…
南の強い風に乗って 大急ぎでやってきた 遅れ馳せの春 待ちかねていた草花たちは 一気呵成に蕾を解かし 甘い香りを振りまいて 蜜蜂たちが忙しなく渡る みるみるうち…
もう四日もお天道様が隠れ続けて 挙句に今日は冷たい雨 桜の蕾もまだまだ固く 暖冬はどうしたんじゃいと 誰にともなく悪態を吐く 芽吹いたばかりの苗たちも 寒さを避…
暖かな冬だと思いきや 菜虫が蝶になる頃を迎えても 寒さがもたもたと居座って 桜の蕾もまだ固いまま 夏野菜の苗づくりも 低温予報が気になって 二度三度と日延べして…
土づくりと苗づくりの間の早春の日 食卓に欠かせない名脇役を仕込む 山の畠で仲間と共に育てた大豆を 大鍋で柔らかく煮てつぶしたら ひと肌ほどに粗熱をとり 塩と麹を…
巣篭もりの小さな生命が目覚める頃と 春の暦はいそいそと 心を吾畠に向かわせる けれどまだ 大地の目覚めは行きつ戻りつ 照らされて温もって 霜に降られて凍てついて…
秋に実った吾畠の大根たち 暖かかった冬のおかげか いつになく丸々と肥えて 一本で三本分の食べごたえ 鍋に 煮物に たくあんに 冬じゅう美味しくいただいて 大活躍…
2020年11月24日 11:54
心の中で自分が問う。わたしは何者かと。もう一人の自分が答える。『全ては定義の問題だ』。宇宙に対峙させるか、社会に対峙させるか、家族に対峙させるのか、あるいは己らしさに対峙させるのか。己らしさはその問い自体が自己矛盾し、家族は個の尊重の名の下で説得力を失い、社会は今や時代の歯車にしか興味がない。そして宇宙の前ではほんの光の粒である。さほど瑣末なものならば、このひとと
2024年5月30日 17:10
庭に訪れる小鳥たちの落とし文そこに混じったいくつもの紫が桑の季節がきましたよと知らせてくれたそれでは早速と畦道の先世話人知らずの老いた木を訪ねれば艶やかな緑の葉陰に連なる粒房軽く触れるだけで落下する完熟の濃紫だけを選りすぐり感謝を込めておすそ分け今年も巡ってきた実りの季節とそれを知らせる小鳥たちの落とし文ただそれだけの繰り返しこそかけがえのない繰り返
2024年5月28日 12:17
もう少し待とうかとも思ったけどぐずつくらしい天気の予報に促され大蒜たちを掘り起こす残暑の頃に植え付けた一片は秋冬春と時を溜めて六片の塊になって帰ってくる病気にも気まぐれな天気にも虫の悪戯にも負けず今年も無事立派な姿で収穫の時を迎えたきみたちに感謝感激 拍手喝采
2024年5月22日 12:07
夜半の雨にたっぷりと潤った朝野良の吾畠生き生きと葉を広げる野菜たち破顔するひときわ大きなズッキーニの葉陰に生まれたての紋白蝶身じろぎもせずに一心にぶら下がりまだ傷ひとつない純白の翅の隅々までいのちを継なぐエナジーを宿らせる目を凝らさずともそこにある震えるほどに美しい小さな生命の序章
2024年5月14日 15:58
今年初めて挑戦中のそら豆の畝小さく吹いた若芽の姿で冬を越し春陽を浴びて葉を茂らせて花を咲かせてつけた実は空を見上げて立ち上がりゆっくりじっくり太くなる収穫まではあと少しさて、どうやって食そうかと初夏の味わいを夢想する朝の吾畠
2024年5月9日 18:07
ぱんぱんに膨らんだねぎ坊主薄皮を脱いで弾けると無数の黄色い蕊たちが花火のように広がってつんつん、つんと満開にどこで噂を聞きつけたのか蜜蜂たちが群がってきてあちらこちらと飛び回り奥へ奥へと潜り込むまだ花の少ない初夏の吾畠に働きものの蜜蜂たちを呼び戻してくれるねぎの蜜花
2024年4月25日 15:44
三日続いた慈しみの雨にぐいっと背中を押されたか吾畠の麦が一気呵成に穂を出した清々しく広がった青空を目指し青々と茂った茎葉の先にみっちりと粒を詰め込んでさわさわと吹く風になびく生まれたての若穂たち喜びと期待に満ちて
2024年4月24日 15:30
降り続く細やかな雨は森を穏やかに潤しながら滴り落ちて降り積もった腐葉の土に沁みてゆく聳え立つ木々たちは溶け出した滋養を深く張り巡らせた根で吸い上げて育ち盛りの緑葉をいっそう濃く茂らせる森に満ちる噎せ返るような生気穀雨の雨は慈しみの雨生命の躍動を加速させやがて季節は春から初夏へ
2024年4月16日 16:08
皐月の風に乗って降り立った一粒の赤いプロペラが小さく芽吹いたのは一昨年の春そして三度目の晴明の候もう一人前だと枝を振り柔らかな若葉をいっぱいに湛える吾庭の小さな舞台の真ん中で若武者のごとく見栄を切り力強く緑彩を刻むああ なんと美しきため息が出るような迸るわかさ 漲るいのち
2024年4月9日 16:00
暖かな陽が野を優しさで包みこみとりどりの花々が一斉に咲き乱れ誰も彼もが我世の春を謳歌する満開の桜に賑わう堤の先雑木の森が作る陰翳の足元に密やかに咲くヒトリシズカ四枚の艶やかな緑を従えて凛と咲く小さな白いこの花を照らすのは微かな木洩れ陽だけ春の華やぎを遠く見守り一人静かに舞いをまう世の静謐を願うように
2024年4月2日 16:56
南の強い風に乗って大急ぎでやってきた遅れ馳せの春待ちかねていた草花たちは一気呵成に蕾を解かし甘い香りを振りまいて蜜蜂たちが忙しなく渡るみるみるうちに萌えはじめた森では鶯も四十雀も盛んにさえずり軒先を燕がびゅんと掠め飛ぶ我畠の土も温もってきてじゃがいもの芽吹きももう間近野良の手を休めてしばし眺めれば見渡す限り どこもかしこも百花繚乱 春爛漫
2024年3月26日 13:54
もう四日もお天道様が隠れ続けて挙句に今日は冷たい雨桜の蕾もまだまだ固く暖冬はどうしたんじゃいと誰にともなく悪態を吐く芽吹いたばかりの苗たちも寒さを避けて部屋の中へ窓辺でずっと日差し待ち軟風にも折れそうなか細い茎で薄黄緑の双葉をもたげ雨雲のそらへ背伸びする勝てない相手は泣く子と地頭と空模様この先もしばらくぐずつく予報に幼苗達の行く末を案じる薄寒
2024年3月19日 16:15
暖かな冬だと思いきや菜虫が蝶になる頃を迎えても寒さがもたもたと居座って桜の蕾もまだ固いまま夏野菜の苗づくりも低温予報が気になって二度三度と日延べして気づけばもう春彼岸いくらなんでももうそろそろと見切り発車の育苗開始天気予報と隣畠さんのご様子をそっと横目で伺いながら探り探りの春仕事期待と不安を綯い交ぜにしてどうか無事に芽吹きますように太く元
2024年3月12日 14:21
土づくりと苗づくりの間の早春の日食卓に欠かせない名脇役を仕込む山の畠で仲間と共に育てた大豆を大鍋で柔らかく煮てつぶしたらひと肌ほどに粗熱をとり塩と麹を混ぜ合わす辺りに立ち込めるふくよかな匂い手のひらに触れる柔らかな温度しあわせな出来上がりの予感桶につめて塩蓋をしてあとはじっくり寝かせてやれば麹がゆるゆると働いてゆっくりとまろやかに我が家の味に育っ
2024年3月6日 14:38
巣篭もりの小さな生命が目覚める頃と春の暦はいそいそと心を吾畠に向かわせるけれどまだ大地の目覚めは行きつ戻りつ照らされて温もって霜に降られて凍てついて繰り返しながら少しずつ深いところまでほぐされてゆく三寒四温 夢うつつ微睡みの中を揺蕩いながらだんだんと季節が春になっていく足どりのもどかしさを楽しむように
2024年2月27日 16:01
秋に実った吾畠の大根たち暖かかった冬のおかげかいつになく丸々と肥えて一本で三本分の食べごたえ鍋に 煮物に たくあんに冬じゅう美味しくいただいて大活躍の名役者ぶり畠でそのまま冬越しの子は刻んで干して切り干し大根残った首根をいたずらに水に浸して窓辺に置いたら眠っていた本能が目覚めたか青々とした葉を蘇らせてついには小さな蕾を拵えた春待ちの床間に飾ら