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『「約束の夏」~あの頃思い描いていたボクたちの今、そしてこれから~』<7>

「図書室のない学校」シリーズにおいて主要人物である桧木春音が大人になった物語です。大人になった秋音物語を受けて書いた、つまり続きの物語です。

 「ねぇ、春音。昨日は急に帰っちゃって、どうしたの?昨日の春音、なんかおかしかったよ?」
心夏からそんなことを言われて、すぐにピンと来た。秋音くん…。またボクになりすましたんだ、きっと。
「ゴメン、ゴメン、ちょっと疲れてたんだよ。ほらレポートとバイトに追われてたから。」
ボクは心夏の話に適当に合わせることにした。秋音くん、きっと何か理由があるだろうから。子どもじゃないんだし、遊び半分でボクになりすましたわけではないだろう。
「秋音くんのことどう思う?なんて突然聞いたりして。春音、やっぱりおかしかったよ。」
そうか、秋音くん、もしかして心夏のこと気になっていたのかもしれない…。そう察したボクは秋音くんの名誉のためにも昨日のことは心夏には絶対バレないようにしようと思った。
「え?あぁ、秋音くんがさ、ちょっと悩んでるみたいだったから、思い切って心夏に聞いてみただけだよ。ゴメンね、今から約束してた映画に行こうよ。」
ボクは昨日何があったのか詳しくは知らないけれど、早く話を変えたくて映画に誘った。
「おかしな春音。昨日は映画ほったらかして帰ったくせに。」
「だから、ゴメンって。」
秋音くん、心夏と何があったんだろう…。聞きたいけど、聞けない。なるべく平常通りを心がけたものの、秋音くんとボクらの距離は少しずつ遠ざかって行った。

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 心夏には「秋音くんは音楽で忙しくなったからあまり遊べなくなったんだよ。」とか適当にごまかしてやり過ごしていた。
 大学を卒業して間もなく、ボクと心夏は結婚した。子どもも授かった。本が好きだから、本当は出版社や書店で働きたかった。就職活動の時もそれらの会社を狙ったけれど、採用されることはなかった。結局、何となく受けていた公務員試験の方が合格して、公務員として採用されることになった。公務員なら安定した収入が得られて、他の企業より良かったじゃないかと父親からは喜ばれた。そうかもしれない。客観的に見れば、公務員試験に合格したことはおめでたいことだろう。心夏の両親だって、ボクが公務員だからすぐに結婚を認めてくれたのだと思う。収入面で安定しているから、春心を育てるのだって、少なくともお金の面では心配要らないと思う。市役所で事務の仕事をするのだって市民の役に立てて、やりがいのある仕事ではあるけれど、ボクは少しだけ物足りなかった。贅沢かもしれないけれど、子どもの頃夢見たなりたかった大人になれていない気がして、少し寂しかった。

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 二十九歳になった夏。市役所で同じ企画課の先輩から隣町の夏祭りを見習って、うちの市でも今年は例年以上に盛大な夏祭りを開催しようと、隣町の夏祭りホームページを見るように促された。そこで「ミュージシャン『秋音』のワンマンライブ」という文字を発見した。秋音くんだと確信した。秋音くん、ついにプロのミュージシャンになるという夢を叶えたんだとうれしくなった。そしてやっぱり自分が少し惨めに思えた。収入が安定しているというだけで、今の仕事を続けてきて、家庭も築くことができたけれど、本当にこれで良いのかと夢を叶えた秋音くんを見ると、自問したくなった。本当は本に携われる仕事がしたい…。ボクは秋音くんと再会を果たしたことによって、諦めた夢を取り戻したくなっていた。

 夏祭りでは秋音くんだけでなく、陽多くんとも再会できた。二人とも変わっていなかった。四人で過ごした小学生の頃と変わっていないと思った。陽多くんはひきこもりがちな生活を送っていたらしいけれど、再会した後、また作家になるという夢を追いかけ始めたようだ。まさか颯太くんが亡くなってしまっていたなんて、ショックだったけれど、三人で来年の夏、十六年越しの夏休みの約束を果たすことに決めた。中学二年生の頃、東京で会ったのが四人揃った最後の夏休みだった。今度は小学六年生の頃みたいにまたうちのおじいちゃんの家で四人で遊ぼうって約束を交わしていた。でもそれは実現しないうちに、少しずつみんなの心は離れ離れになってしまった。みんなそれぞれの生活が忙しくなり、少しずつ状況も変化していた。それは仕方のないことだった。大人になるということは、小学生の頃みたいに無邪気な子どものままではいられないのだから。人間関係だって変わるし、社会の約束事も少しずつ学んでいく。夢ばかり見ていては生きられない。ボクはそう思った。だから真剣に夢を追いつ続けている三人の姿がとても眩しかった。うらやましかった。取り残された気分にもなっていた。

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 十六年越しの約束の夏休みがやって来た。おじいちゃんとひいおじいちゃんとそれから大切な人のお墓参りをするために、年に一度は訪れていたものの、東北に長期滞在はひさしぶりだった。
 廃墟寸前の無人となったおじいちゃんの家をキレイに掃除して、みんなで宿泊できるように片付けた。三人とそれから颯太くんの奥さんと双子ちゃんとそしてボクの家族総勢八人で過ごす賑やかな一週間の夏休みが始まった。
 「冬香(ふゆか)さんとご飯の支度するから、春音、子どもたち連れて外で遊んで来て。」
心夏に言われて、ボクたちは秋音くんが秘密基地を作っていたうちのおじいちゃんの山に向かった。
「あの秘密基地、まだあるかなぁ。」
「もうあるわけないよ。オレもあれ以来、来てないし。」
「ひみつきちってなぁに?」
子どもたち三人は「秘密基地」という言葉に反応した。
「みんなには内緒の楽しいところだよ。」
「ないしょ?」
「たのしいところ!」
春心と双子の颯音くんと陽音くんはすっかり仲良しになっていた。子どもたちはいいな。何も気兼ねすることもなく、すぐに打ち解けられるんだから。
「そう言えば、二十歳になったら掘り起こそうってタイムカプセル埋めたよね?」
陽多くんがふいにタイムカプセルの存在を思い出した。
「そう言えば、木の下に埋めたな。」
「今日、掘り起こそうか。」
「タイムカプセル?」
子どもたちはまたきょとんとした。
「あれ?たしかこの辺だったよな?秘密基地。」
「うん、この辺りだったと思う。」
「公園になってるよ…。」
木々が生い茂っていたその場所はキレイに整備されて、山の中に公園が作られていた。

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「なんかすごい恐竜みたいな遊具があるよ。」
「ほんとだ、まるで本格的な秘密基地。」
子どもたちはその遊具に登って、楽しそうに遊び始めた。
「タイムカプセル埋めた目印の木もなくなっちゃったね…。」
「どこだっけ?切り倒されていて、もうわかんないや。」
十八年ぶりに訪れた秋音くんの秘密基地があった場所は様変わりしていて、ボクたちの思い出の場所がなくなってしまった気がして、何となく寂しくなった。何も知らない子どもたちは整備された公園でうれしそうにはしゃぎ回っていた。
「十八年も経つといろいろ変わるものだよな。」
「そうだね、もうすぐ二十年だものね。」
ボクたちは公園のベンチに座って、遊び回る子どもたちを見つめていた。

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 「楽しかった?どこに行って遊んで来たの?」
冬香さんと心夏がたくさんご馳走を用意してボクらを迎えてくれた。
「あのねーひみつきち!」
「きょうりゅうのひみつきちであそんだの!」
「あそんだのー」
三人はあの公園をすっかり気に入った様子だった。
「秘密基地ってまさか秋音くんの秘密基地まだあったの?」
「あるわけないよ、公園が整備されていて、そこに秘密基地みたいな遊具があってさ、子どもたちすっかり気に入って。」
「良かったわね、お気に入りの場所ができて。あの辺、つい最近再開発されたらしくて、この前颯太さんの実家に来た時、何か工事してたんですよ。」
冬香さんがそう教えてくれた。

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 にぎやかでおいしいご飯の後はあの夏の夜みたいにみんなで花火をして楽しんだ。颯音くんと春心は怖い物知らずで、花火に火を付けてもらうとはしゃいでいた。陽音くんは少し花火が怖いらしい。少し離れた場所から二人の花火を見つめていた。
「陽音は少し臆病な性格なんです。颯音は元気が良すぎるくらいなんですけど。」
「うちの春心も元気良すぎて困ってて。」
母親二人がそんな会話をしていた。
「これなら怖くないでしょ?」
陽多くんが陽音くんに線香花火を見せていた。初めは怖がっていた陽音くんも次第に線香花火に興味を持ち始めた。
「そう言えば夏祭りの打ち上げ花火、もうすぐよね。」
「打ち上げ花火って大きな音するけど、去年は陽音くん怖がっていなかったよね?」
「なんとか花火の音は大丈夫みたいで。音楽の音も大丈夫そうです。間近な火が苦手みたいで。でも陽多さんのおかげで、線香花火は気に入ったみたいで良かった。」
「音楽は苦手じゃなくて、良かったよ。オレのギター嫌われてたら、どうしようって思ってた。」
「秋音さんのギターなら、颯音の方が大好きなんですよ。いつも秋音さんの動画ばかり見てます。」
「アキトのうたすきー」
颯音くんが秋音くんの歌を歌い始めた。
「こら、秋音って呼び捨てしないの。秋音さんでしょ。」
「秋音でいいよ、うれしいなーオレの音楽気に入ってくれて。」
秋音くんと颯音くんは一緒に歌なんか歌ったりして、すっかり仲良しになっていた。まるで本当の親子みたいに陽多くんと秋音くんは父親を亡くした二人の良きパパに見えた。

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 雨の日、あの夏のように、三人の子どもたちの宿題を手伝うことにした。三人とも小学一年生で初めての夏休みの宿題に追われていた。まだ一年生だというのに、もう「好きなモノ絵日記」という宿題があるらしい。
「陽多くんと春音が通った小学校が好きなモノ感想文の先駆け校なのよね。」
「えーそうなんですか。今じゃあ好きなモノ感想文って当たり前になりましたよね。私たちが子どもの頃は読書感想文だったけど。」
「今の小学生の夏休みの宿題は二年生までは好きなモノ絵日記で、三年生以上になると好きなモノ感想文らしいです。」
「夏休みの宿題も変わったなー」
「図書室のない学校が増えたし。今じゃ授業はタブレット使うのが当たり前で、紙の本も減ったし、電子書籍が主流になって。」
「オンライン図書室?なんてのもあるらしいよ。」
「図書室のある学校の方が珍しくて、それを売りにしている学校もあるみたいね。」
「オレたちの子ども時代とは随分変わったよなー」
教育改革が進み、学校には図書室があって当たり前、夏休みの宿題は読書感想文があって当たり前という時代ではなくなっていた。

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「みんなは何について書きたいの?」
「オレはアキトのギター!」
「ボクはハルタくんのほん。」
「わたしはーはなび!」
三人とも好きなモノがそれぞれ違うらしい。
「オレの音楽について書いてくれるの?颯音、ありがとう!」
「ボクの本って?」
陽多くんが不思議そうに尋ねた。
「陽多さんが高校生の頃、主人にくれた『ポプラの木』って手作り冊子を今陽多が気に入って読んでいるんです。電子書籍より紙の本に興味があるみたいで。ひらがなで送り仮名ついてる分、読みやすいですし。」
「えっ、あんな昔に作った本、まだ持っていてくれたんですか…うれしいです。ありがとうございます。しかも陽音くんが読んでくれているなんて。」
陽多くんが涙を浮かべて喜んでいた。
「陽音、防災無線から時々流れるサイレンの音も昔は怖がっていたんですが、あの童話を読んで聞かせたら、防災無線も怖がらなくなって。」
「そうなんですか…書いて良かったです。」
「何?防災無線の話?」
「ポプラの木と防災無線を擬人化したお話なんだ。」
「へぇーそうなんだ。陽多くんって童話も書いていたんだね。」
「うん、高校生の頃はいろいろ手を広げて、書いていたから。」

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「颯音と陽音の好きなモノ絵日記は問題ないとして、春心ちゃんの花火はお祭りの打ち上げ花火を見てから書くのかな?」
「うん!はなびたのしみ!」
春心は心底楽しみにしている様子で目をキラキラ輝かせていた。

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 その年はあいにくの雨降り続きで、なかなか快晴になることはなかった。花火大会当日もあやしい雲行きだった。
「雨が強まったら、中止だって。」
「えーやだ。はなびみるもん!」
子どもたち三人はそれぞれ浴衣を着せてもらってお祭りを楽しみにしていた。
屋台が立ち並ぶ神社へ向かう途中、あの夏、四人で潜り込んだ小学校がぼんやり遠くに見えた。子どもの数が減って、廃校になってしまったらしい。ボクたちの思い出の場所はどんどん少なくなっていた。もうあの図書室に入れないのかと思うと寂しい。思い出まで消えてしまったようで、どうしようもなく切ない気持ちに襲われた。

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 夜になると、ぽつぽつ雨が降り出した。大雨ではないから、花火は打ち上げるらしいけれど、空は厚い雲に覆われていた。
「花火見えるかしら?」
「雲が多いと隠れてしまうのよね。」
ドーンドーンという轟音と共に、花火が打ち上げられ始めた。
「はなび―」
「こんな時はたまやーって言うんだよ。」
「たまやー?」
秋音が春心にそんなことを教えていたけれど、結局花火は厚い雲に隠れて鮮明には見えなかった。
「せっかくの花火大会だったのに、残念だね。」
「来年、またみんなで見ましょう。」
楽しみにしていた花火を見られなかった春心はぐずり始めていた。
「春心ちゃん、元気出して。」
「そうだよ、花火なんて東京でも見られるだろ。」
「ここのはなびがみたかったんだもん。すきなものえにっきかけない…。」
春心は宿題を気にしている様子だった。
「少し遠回りになるけど、帰り道は川にかかる橋を渡って行きましょう。」
「えっ?何かあるんですか?」
冬香さんがにっこり微笑んで提案してくれた。

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 「ほら、春心ちゃん、花火じゃないけど、ここもキレイでしょ?」
その橋の歩道の欄干には黄色いちょうちんがたくさん飾られていた。
「うん、キレイ!」
やっと春心の機嫌が直ってきた。
「そう言えば、この川の橋にはちょうちんついてたっけ。すっかり忘れてた。」
「ここは通り道じゃないから、忘れてたね…。」
水面は黄色に染まって、ちょうちんの明かりが波となり、揺れていた。
「ハルコ、あっちまできょうそうしようぜ。」
「うん、まけないよ。」
「暗くて危ないからそんなに駆けちゃ危ないわよ。」
「だいじょうぶ!ちょうちんがあかるいから!」
子どもたちは黄色の光に照らされた橋の歩道を楽しそうに駆け出した。花火が見られなかった悔しさなんて、まるですっかり忘れてしまったかのように、終わりが近づいた夏休みを全身で満喫していた。

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 「来年もまたみんなでここに来よう。」
「来年こそ、花火見ようね。」
「またきょうりゅうのひみつきちであそびたいー」
「あそびたいー」

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 こうしてボクたちの十六年越しの約束の夏休みは少しだけ形を変えて幕を閉じた。颯太はいないけれど、三人になってしまったけれど、妻たちと子どもたちが増えた。秋音くんの秘密基地は面影さえなくなって、タイムカプセルを埋めたはずの木も切り倒されていて、子どもたちがお気に入りの新しい公園に様変わりしていた。四人で潜入した小学校は廃校になっていて、あの図書室ももうなくなってしまった。そう言えば前はあった駄菓子屋さんもなくなっていた。この街も月日と共に、変わってしまった。ボクたちのあのかけがえのない幸せな夏休みの思い出が消えてしまったようで、寂しかったけれど、颯太くん、陽多くんがこんなことを言い出したんだ。

 「春音くん、あのさ、この春音くんのおじいちゃん家、ボクに貸してくれないかな?」
あの夏、おじいちゃんが撮ってくれた古ぼけた写真の中のボクらの笑顔を見つめながら言った。
「えっ?何で?どうしたの、急に。こんな古い家、快適に過ごせないと思うよ。虫も出るし。掃除し切れてない部屋もあるし…。」
「ここで新しい作品を書きたいんだ。それにライトスクールのクラスで親しい友達をこの街に招待したくて。」
「なんだ、陽多くん、まだライトスクール登録してたんだ。好きだね、ライトスクール。」
「ボクみたいにひこもってる友達はいっぱいいるから。別に何をするわけじゃないけど、この自然豊かな街で過ごせたら何か変わるんじゃないかなって思って。」
陽多くんは何やら壮大な構想を練っているらしい。
「そういうことなら、いいよ!この家相続した父親にはボクから話しておくから。別に誰も使っていない家だし。」
「ありがとう!」
「陽多くんがここで過ごすなら、たまにはオレも楽曲制作のアトリエとして使わせてもらってもいいかな?」
秋音くんまで、この家を使いたいと言い出した。
「いいよ、けど二人ともどうしちゃったの?」
「何だろ、夏休みを延ばしたくなったのかな?」
「ボクも、夏休み卒業する予定だったけど、もう少し延長することにした。」
「二人ともいいなぁ、自由に夏休み延期できて。」
「春音も来いよ、転職して、こっちに住めばいいじゃん。」
「そんなこと、急に言われても無理だよ。」
と言ったものの、それも悪くないなと心の中で思った。そのうち春心が大きくなって自分の手から離れたら、こっちに移住するのも悪くないかもしれない。この街で小さくてもいいから本屋さんを開けたらいいな。自分の好きな本、陽多くんの本を並べて秋音くんの音楽をBGMに流したりして、そういう生活なんかいいな。いつかボクもなりたかった大人になれるかもしれない。みんなのように夢を叶えられるかもしれない。十六年ぶりのボクたちの夏休みはボクに新しい希望を与えてくれた。

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 「陽多くんさ、ピアノ弾けたよね?」
「えっ?何で?今はもう弾けないよ。」
「『タイムマシン』ピアノアレンジでリリースしたいんだ。弾いてくれない?」
「そんなの無理だよ!」
「オレ、どうも鍵盤は苦手なんだ、頼むよ。」
「無理だってば!」
陽多くんは慌てていた。
「そうそう春音。」
「何?」
「あの夏休みの秘密、オレたちの小学五年生の夏休みを新曲にしてもいいかな?」
「えっ、何?今さら、歌詞にしたいってこと?」
「夢があっていいじゃん、オレたちの秘密の夏休み。」
「…いいよ。ただしフィクションでよろしく。」
「えっ?いいの?てっきりまた猛反対されるかと思ってた。ありがとう!」
ここでまたケンカしたら、颯太くんを困らせることになるだろう。ボクたちはいつの間にか大人になっていた。なりたかった大人になれなくても、大人になれていたんだ。退屈に感じていた大人だってその気になれば、きっと子どもに負けないくらい、夏を楽しめる。街並みは変わってゆくけれど、ボクたちのあの煌めいた夏休みの残像はきっと消えない。今では無くなってしまったものもたくさんあるけれど、時間はボクたちの夢までは奪えない。ボクらが生き続けている限り、きっと。颯太くんを忘れない限り、ずっと。
 ボクらの夏休み最終日、やっと真夏の太陽が戻ってきて、遠くで陽炎が揺れていた。

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★「図書室のない学校」シリーズ物語一覧★

☆第1章~小学生編~☆

 <1>『「図書室のない学校」~夏休みの宿題交換大作戦~』

 <2>『「図書室のある学校」~春音と秋音の入れ替わり大作戦~』

 <3>『「夏休みの約束」~「ライトスクール」で友達の秘密を探ろう大作戦』

 <4>『「約束の夏休み」~ミッション変更、四人そろって仲良くなろう大作戦~』

☆第2章~大人編~☆

 <5>『「夢の行方」~なりたかった大人になれなかったオレたちの夏の約束~』(秋音・前編)

 <5>『「夢の行方」~なりたかった大人になれなかったオレたちの夏の約束~』(秋音・後編)

 <6>『「夏休みからの卒業」~途切れた夢の続きを取り戻すボクらの新しい夏の始まり』(陽多)

 <7に登場した童話>ポプラの木

 <8>『「永遠の夏休み」~あの世でみつけたオレの生きる道~』(颯太) 

☆第3章~子ども編~☆

 <9>『「秘密の夏休み」~タイムカプセルみつけて冒険の旅をさあ始めよう~』

 <10>『「秘密の友達」~二人だけのファッションチェンジスクール~』(陽音)

 <11>『「秘密の本音」~颯音から陽音へ送る手紙~』(颯音)

 <12>『「図書室フェスティバル」~遥かな時を越えて新しい図書室で夢を描くよ~』(晴風)

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