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140字小説

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Twitterに投稿した140字小説まとめ
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記事一覧

まじない

まじない

なんか言った? えっ?今さ、なんか言ったよね?あぁ!こんな時、地元では、厄除けの呪いを呟くんですよ。呪い?はい。因みに今なんて言ったの?古い方言なんで正確な言葉の意味とかは解らないんですよ。解らなくても効くんだ?ええ…とてもよく効くんですよ。後輩は、そう言って俺に向かって微笑んだ。

最後のふたりは…

最後のふたりは…

最後の審判に2人で望んだ
この星が完全に
滅んでしまう前に選ばれる
アダムとイブ候補の中で
最後まで生き残ったのは
意外にも僕たち2人だった
いまだ荒野に光は全く見えない
これからどうする?
不安そうに尋ねる僕を見て
繋いでくれた手から
温もりが伝わってきた

まぼろし

まぼろし

宇宙旅行が大流行していた
何万光年も離れた星から
高性能天体望遠鏡で見ると
はるか昔の地球の映像を
覗けるという触れ込みに
何万光年という距離と時間
永遠の命を手に入れて
光の反射を覗くことでしか
見ることの叶わなくなった
母星の記憶を手繰り寄せ
そこでしか会えない人に
会いに行くのだ

ピグマリオン

ピグマリオン

その像は、父が、若かった時の母をモデルにして作った作品だった。まだ幼かった頃、僕が母を恋しがるたびに、父は、この彫刻を見せて、「これが母さんだよ」と慰めてくれた。「心を持たないものに、そんな風に話しかけちゃいけないよ」今更、そんな風に言われても、僕には違いがよくわからなかった。

一房の果実

一房の果実

オレンジの匂いが辺りに漂った。裏山に実る果実は、冬籠りの野鳥の為に残しておくようにとあれ程言っていたのに…。街へと続く道は寸断され物資ももう届かない。起き上がることさえ叶わなくなった僕の命を、この世に繋ぎ止めようとする妻は、固く結ばれていた口に傷だらけの指先で一房の果実を含ませた。

ひと休み

ひと休み

あの頃
キツイなと思うことが
重なるたびに
物語に浸るクセがあった
映画でも
ドラマでも
小説でも
演劇でも
そうして
自分ではない
登場人物たちの
気持ちに浸ることで
自分のリアルで味わう
キツイ気持ちを
一時だけ休憩できた
物語は私にとって
人生の一休みだったのだ

手をつなぐ

手をつなぐ

「今日はずっと手を繋ごうと思ってたんだ」って言って、私の指にそっと触れてくるから、思わず手を引っ込めた。「ねぇそういう風に言っちゃうのずるくない?」「ずるいの?じゃあなんて言えばいい?」そんな初デートから数十年。今では2人、どちらからともなく手を結び、並んで散歩するのが日課である。

ランドセル

ランドセル

実家の机の奥から
キーホルダーが出てきた

卒業式の思い出に
このランドセルを
キーホルダーにして
残しておこう

これは君が6年間
頑張った証だからね

母がそう言い出して
作ったのだった

優しい思い出は
1人になってしまった
こんな時にこそ
生きてくる……

祭りのあと

祭りのあと

「祭りが終わって、もし誰かに呼び止められても、決して振り返ってはいけないよ」祖母に、そう言って送り出された。やがて花火も終わり、友人とも別れ、もう帰ろうとした時に名前を呼ばれた。懐かしい父と母の声だった。祖母の言葉の意味をこの時ようやく理解した。たぶん振り返ったらもう戻れなくなる

クリーニング屋 その1

クリーニング屋 その1

名前を呼ばれて目を覚ますと、
頰が濡れているのに気がついた。どうやら泣きながら眠っていたようだった。「今回は、いつもより随分と時間が掛かってしまいましたが、きれいに消えているはずですよ」そう言われて、今いる場所が、不必要な記憶を消してくれると評判のクリーニング屋なのだと気付いた。

旬

「田舎料理なんで、都会の人のお口に合うかどうかはわからんけど!」そう言って勧められたお椀の縁からは、何やら昆虫の足のようなものが飛び出している。料理人は笑顔で「ちょうど今が旬で美味しいんですよ」と勧めてくる。念願だったテレビの食レポレポーター第1回目で、もう退職を考え始めていた

おやつ

おやつ

目覚めると妻が台所でプリンを作っているのに気がついた。プリンは子どもたちの大好物で、昔はしょっちゅう作っていた定番のおやつだった。子どもたちもとうに巣立ち、今では、僕と妻の2人きりだというのに妻は言う。「ねぇ、子どもたちを呼んで来てくれる?」

裏腹

裏腹

昔から、僕の彼女は意地っ張りで、泣きたいくらい辛いくせに大丈夫だと言うし、食べたいくせに食べたくないという、痛いくせに平気だと言う。今も泣きながら僕のことが大嫌いだと叫んでる。でもわかってるよ。そうは言っても本当は僕のこと大好きなんだろ?

うろこ雲

うろこ雲

手を繋いで歩いていた幼い娘が、ふいに立ち止まった。彼女は見えないモノが見える体質らしく、じっと、空を仰いで見つめている。「何が見える?」と問うと「大きな竜が空にいる」と言った。つられて見上げた私には、ただ、白いうろこ雲が広がる空にしか見えなかった。