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ブルース覚書③いいぞ!イーゾウ・マッギー
ポール・オリヴァーの『ブルースの歴史』のなかに、実に大胆なデザインのベースギターを抱えた初老の男性の写真が掲載されているのが、気になっていた。キャプションには、「かざりたてた手製のベースを構えたミシシッピ州グリーンズビルのイーゾウ・マッギー」とある(日本語訳では92ページ)。ところが、名前のスペルが知りたくて、原書のを見たら・・・ない。ペーパーバック版ということもあり、増刷を重ねるうちに何らかの理
もっとみるブルース落語@ご隠居と悪魔のブルース
「ジョンソンさん、ジョンソンのご隠居さん」
「何だい、朝っぱらから。うちにゃあ、インターフォンって便利なもんがあるんだ。そんな親の仇みたいにムキになって叩かなくたって、ボタンをポンと押しゃあ、ピンポーンって音がする。こっちは炬燵で優雅にお茶なんかいただきながら、どうぞ、おあがりって声をかければいいって寸法だ。そうすなれば、心に余裕ってもんがあるから、「悪魔のやつ、今日も青白い顔してやがったな、あい
ブルース覚書⑥ブルース大学入学試験問題
問一 B.B.キング、フレディ・キング、アルバート・キングの三大キングは、鳴かないホトトギスをどうしますか。俳句の形式にのっとって答えなさい。
問二 1960年、ニューポート・ジャズ・フェスティバルにおけるマディ・ウォーターズのマディかわ(まじかわいい)ポイントを三つ上げなさい。
問三 無人宇宙探査機ボイジャーに積まれたベートーベンの第九とブラインド・ウィリー・ジョンソン「夜は暗く、大地は冷
ブルース覚書⑦ウォッシュタブ・ベースはどこから来たか
ジャグバンドなどで使われるウォッシュタブ・ベース。ウッドベースの代用品と思っていたが、とんでもない勘違いかもしれない。コントラバスが、ダブル・ベースと呼ばれ(ウッド・ベースは和製英語だそう)指弾きがデフォルトの楽器として広まるのは、20世紀初め。ウォッシュタブ・ベースは19世紀終わりには存在していたようだから、むしろ、ウォッシュタブ・ベースの指弾きでベースを出すスタイルが、コントラバスに導入され、
もっとみるブルース掌小説①風がうなるのが聞こえるかい?
ドラマ化してみました!
「入っておいでよ」唐突に呼びかけられて、方向感覚を失う。どこ?と首を振ると、かすれた声が同じ言葉をくり返す。「入っておいでよ。じきに雨になる」声のする方向に目をやると、網戸の向こうから男がこちらを見ている。砂埃にまみれた廃屋とは不釣り合いなストライプ柄のスーツに、汚れ一つない。とっさに、この世のものではない、と思った。「入っておいで、遠慮しなくていいから」網戸のついた扉を
ブルース掌小説③アロンの杖
その日は上機嫌だった。オレのブルースを録音したいという白人が現れて、さんざん頓珍漢な褒め方をした挙句、見たこともない額の手付金を置いてそそくさと帰っていった。黒人ばかりのジューク・ジョイントは居心地が悪かったんだろう。オレとしては、金さえ置いて行ってくれりゃあ、白人なんかかいないほうがいい。お気に入りの娼婦と取り巻き連中に金をばらまいて、陽気に飲み明かした。そろそろ夜も明ける、お開きにしようかとい
もっとみるブルース覚書⑤ネイション・サックには何が?
オレは彼女のネイション・サックから最後の5セントまでとりあげてしまった(ロバート・ジョンソン「オレの台所に入っておいでよ」)
ネイション・サックは、もともとインディアン・ネイション(居住区)に暮らす先住民の女たちがお守りとして股下にぶら下げていた袋らしい。それが黒人のとくに、娼婦たちの間にモージョー(ヴードゥーのまじない)兼貴重品袋として広まったのだとか。客の前で裸にならなければならない娼婦は、
今日のブルース㉑ロバート・ジョンソン「心優しい女のブルース」(1936年)
”a kind-hearted woman"には、「心優しい女」という字義通りの意味のほかに、「売春婦」の意味があるということが知られるようになった。この発見が意味するのは、単に解釈が「心優しい女」から「売春婦」に変わったということではない。「売春婦」という隠語を知っている人でも、kindという言葉のもともとの意味を忘れることはなかっただろう。重要なのは、ダブル・ミーニングから生まれるポリフォニッ
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