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ブルース落語@ご隠居と悪魔のブルース


「ジョンソンさん、ジョンソンのご隠居さん」
「何だい、朝っぱらから。うちにゃあ、インターフォンって便利なもんがあるんだ。そんな親の仇みたいにムキになって叩かなくたって、ボタンをポンと押しゃあ、ピンポーンって音がする。こっちは炬燵で優雅にお茶なんかいただきながら、どうぞ、おあがりって声をかければいいって寸法だ。そうすなれば、心に余裕ってもんがあるから、「悪魔のやつ、今日も青白い顔してやがったな、あいつも女房と子供三人抱えててえへんなんだろう、一つ精のつくもんでも食べさせてやろうって、そういう気持ちにもなる。あーときに、お前さん、ウーバなんとかってのは知ってるか。あ、何?そうそう、ウーバイーツ、知ってるか。何でもあれやこれや出前してくれるそうだが、お前さん何が食いたい?なに?サラダ?そんな青白い顔してサラダはいけねえ。あそこは出入りの悪魔に草しか食わせねえって、陰口を言われるよ。うな重なんかどうだい、好きかね?好物?ああそうかい。何、いいんだよ、金のことはね。金は天下の回り物って言うじゃないか。お前さんには十字路の一件以来いつも世話になってるからね、あ、うな平さん?うな重の上をふたつ。あ、そう、肝吸いもつけておくれ。それで、おたくはたしかウーバなんとかってのやってたね。ああ、何?お客様は寝たきりのご老人ですか?悪いが、この通りまだまだぴんぴんしとるよ。もう一人も、活きのいい若い悪魔だ。10万30歳で、少々顔色が悪いけどね。何?それなら、うちはお宅の三軒先だから、デリバリー使うには及びませんよ?いやいや、いいんだよ、物珍しいだけなんだから、ピンポーンって、ほらきた、三軒先だから早いよ。ほれ、デビ公、食え。若いんだから、しっかり食わねえと・・・」
「弱ったね、落語のなかで落語始めちゃったよ・・・あのー、いつまでつづくんすかね、これ」
「もう少しだ。つまりな、お前さんがうちの玄関をどんどんどんどっって無遠慮にたたくんで、今のくだりはなくなったってことだ!インターフォンを軽快に鳴らして、ご隠居ごきげんよう、時間ですよ、ご在宅ですかって、昔のホームドラマみたいに登場してくれれば、うな重の一つぐらい・・・」
「食わせてくれるんですか!」
「あ・・・いやいや。ものの譬えだ」
「ひどいや。口がすっかりウナギになっちまったじゃねえですか」
「何だその口がウナギってのは。それよりこんな朝っぱらから、何か大事な用があったんじゃねえのか?」
「そうだ、そうそう。ご隠居に話があったんだ。聞いたらびっくりしますよ。こんちくしょう。聞いて驚くな!」
「何だ、とことん騒がしい野郎だね」
「そうだ、あっしの話に驚いたら、うな重食わせてください」
「ああ、それくらい、お安いご用だ。連れて行ってやるよ」
「連れてってやる?ウーバイーツは?」
「三軒先だしな。てめえんちのはばかり行くのに、どこでもドアは使わんだろう」
「だいぶ前の爆笑問題のネタじゃないですか。はばかり扱いされたら
うなぎ屋さんが泣きますよ」
「兎に角食わせてやる。驚いたらな」
「約束ですよ」
「ああ、約束だ」
「本当に本当の約束ですよ」
「本当に本当の・・・何だ、この付き合い初めのアベックみたいなやり取りは?」
「アベックって」
「いいから。何だ。早く言わんか」
「ご隠居の奥様」
「ああ、うちの皇太后」
「皇太后って、どんだけ尻にひかれてるんですか。ま、いいや、その皇太后を」
「我が家の皇太后を?」
「やっつけちゃいましょう」
「あわわわわわわ・・・何て恐ろしいことを!」
「昨日、企画会議がありましてね」
「企画会議?何の?」
「悪魔のですよ!それで、今週は恐妻家サポート重点ウイークに決まったんです」
「何だそれは。言っておくが。うちは世間もうらやむおしどり夫婦だから、そんなもの関係ないぞ」
「ふふっ、実はおしどりは毎年パートナーを変えると言う・・・」
「うるさいな。うちはラブラブなんだよ」
「あ、そうですか、残念だなあ。ポイントもつくんだけどなあ・・・」
「ポイントって・・・ペイペイかい?」
「さすがご隠居、よくご存じで。ペイペイだけじゃなく、全12種類の電子マネーに対応しています」
「それは・・・すごいな。じゃあ、とりあえず、女房をやっつける形にして・・・」
「あんたたち!誰をやっつけるって?」
「あ、あんたたち・・じゃないです。ご隠居が・・・」
「お、お前・・・裏切り者!」
「あんた、ちょっと来なさい」
「あいたたたたたた・・・」
「ご隠居!ご隠居が亡くなったら、ハイウェイの脇に埋葬します。ほとんどの高速バスで交通系ICカードが使えます。どうかご無事で」

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