日出ひのいり(石立ミン)

滋賀在住。札幌生まれ、小樽育ち。昔、小説を書いていた頃があって、初期の日本ファンタジー…

日出ひのいり(石立ミン)

滋賀在住。札幌生まれ、小樽育ち。昔、小説を書いていた頃があって、初期の日本ファンタジーノベル大賞の最終候補になりました。今回、新しい作品を書くに当たり、この前作「飛び地のジム」を初公開。無料マガジンでまとめ読みも。お問い合わせ:hinoirihinode@gmail.com

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  • 「飛び地のジム」イッキ読みのために

    長編小説を公開しながらも、読みにくかったですね。。。すみません。せめて一覧にしてみました。少しわかりやすくなりましたか?

最近の記事

『カゴ抜けの年』1-1

1  昨夜から降り続いた雪は、翌朝にはすっかり町を覆っていた。  降り積もった雪は、驚くほど白く、朝陽を浴びると、ダイヤモンドのようにきらきら輝いた。  町の家々は総じてみすぼらしかったが、値の張った白粉が、つかの間、盛りを過ぎた女優の老いを隠してくれるように、真綿を思わせる新雪は、この町の秘められた歴史をひっそり覆い隠しているようだった。 「ほーい、ほーい」  奇妙な掛け声とともに、ひとりの男がやって来た。ぼさぼさした茶色い大ウサギの毛皮を着て、小山のような巨体を左右に

    • 『カゴ抜けの年』プロローグ

      プロローグ  そこは単に「ヤマ」と呼ばれていた。  町の東北部に位置するヤマは、その昔――かれこれ三十年ほど前――この地方で「雑古場(ざこば)」と呼ばれた、世間でいうところのゴミ捨て場であり、マルミ興産という産廃業者によって、この地方の各地で集められた、新旧の粗大ごみの一大集積場となっていた。  マルミ興産の持ち主である丸美達義は、町ではよく知られた人物だったが、それは彼がヤマの所有者であることとは関係がなかった。達義はこの町の町長であり、また、町の五分の一ほどを所有する大

      • ライター時代。。。

        こんにちは、ひのいりです。 さっきレベッカの曲が流れていたので、ちょっと昔ばなしをします。 ひのいりがフリーでライターやらコピーライターをやりながら、エロ雑誌で人生相談やったり、編プロでバンダイのボードゲームの新作紹介などをしていたのは、1980年~90年半ばくらいになります。 大昔ですね。若い人は知らないでしょうが、そのころ、地上では首長竜が跋扈し、親がちょっと目を離したすきに、ヴェロキラプトルに子どものひとりふたり、さらわれているなんてことがよくあったもんです。その

        • 遅ればせながら、、、

          皆さん、こんにちは。日出ひのいりです。 自作公開から半年経ってようやく自己紹介というのもなんですが、最近急に全体ビューの数が伸びだして、、、個人的にワケわからん状態にあったのですが、その原因がやっとわかったので(SNS苦手な自分ですが)、思うところあって、今回より徐々に自己開示していきたいと思っています(笑) ひのいりは若いころのペンネーム(実際はカタカナのヒノイリ)で、昔は雑誌のライターやら編集をしておりました。いわゆるエロ系が主で、時にはゴーストライターで本を書いたり

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        • 「飛び地のジム」イッキ読みのために
          18本

        記事

          『飛び地のジム』エピローグ

          ない方がいい(かもしれない)エピローグ  ヴォルフガングはその日、一冊の分厚い封筒を受け取った。  それはハトロン紙に包まれたタイプ原稿の束で、老舗の芸能エージェントの代表としては、いささか手に余る代物だった。  ヴォルフガングは最初それを見て、困ったな、と思った。  確かにうちで抱えているタレントには作家もいる。書いている時間よりもスランプの方がずっと長いノイローゼ気味のSF作家だったが、それは彼が今は亡き知り合いのエージェントからぜひにと頼まれ、引き継いだものだった――

          『飛び地のジム』エピローグ

          『飛び地のジム』終えるにあたって

          皆様、長い間ありがとうございました。「飛び地のジム(完全版)」は第二部を以て本編終了となります。 実はこの後、少し短めのエピローグがあるのですが、以前この作品を読んでもらった友人から最後のエピローグは蛇足だと思うと指摘を受けたことがあり、、、実際、今回自分で全部を読み返してみて、やはり第二部13章で終わるのがスマートじゃないかと思います。。。 しかし、プロローグから始めたならエピローグで終わるのが筋じゃないの、と依怙地な物語作家の部分の自分は主張します。だって、一番好きな

          『飛び地のジム』終えるにあたって

          『飛び地のジム』第二部 13

          13  三台目の車を見送った後、ヤスコ・メイは埃っぽい道路に、ジムにはわからない記号を書いた。それは棒に棒を書き足していく不思議な図形だった。  ジムがそれについて尋ねると、ヤスコはこういった。 「これは日本語なのよ。漢字というの。祖母から教わったわ。今、わたしは“下”という字を書いたのよ。これは3ね。こうやって一本ずつ増やしていくのよ」  そういって、ヤスコは“下”の左横にもう一本、縦の線を書き加えた。 「これが4よ」  ジムはひどく落ち着かない気持ちになった。 「じゃあ

          『飛び地のジム』第二部 13

          『飛び地のジム』第二部 12

          12  ブルンヴァン博士がそのニュースを聞いたのは、本物のワイルドターキーで沈没しそうになっているときだった。  仇敵ポール・マイヤーのいうことは、相変わらずわけがわからず要領を得ないものだった――もしかすると、こちらがぐでんぐでんになっているせいかもしれないが。 「え? なんだって?」とブルンヴァン博士はいった。 「飲んでるのか、あんたは」国連議長はユダヤ人らしい謹直さで非難した。 「もっと早くあんたを首にしとくべきだったな。アル中の医者がアル中の患者を診てるなんて、全く

          『飛び地のジム』第二部 12

          『飛び地のジム』第二部 11

          11  その山はグラン・ヘレナと呼ばれていた。  そこはかつてこの地域一帯を支配していたアメリカ先住民の一部族の聖地だった。部族の長は代々このグラン・ヘレナに、巫女の家であるチリンガという建物を置いた。チリンガは平たい石板と木切れを組み合わせてつくる粗末な掘っ立て小屋で、そこで巫女は様々な占いを立てた。  今から数百年も前のこと、このチリンガの巫女のひとりが、奇妙な託宣を受けた。  コヨーテの脛骨で作った占盤は、煤でいぶされた古ぼけたものだったが、奇妙なひび割れで見るその相

          『飛び地のジム』第二部 11

          『飛び地のジム』第二部 10

          10  ハマーシュタインが目を覚ましたとき、医師のアーノルド・ブルンヴァン博士はちょうど回診に出ているところだった。  ハマーシュタインはベッドの上でぼんやりと天井を見つめ、ここはどこだろう、と思った。格子で区切られた白いタイル。まるで手動式カメラで慎重にピントを合わせているように、行きつ戻りつ、ぎごちなく焦点が合ってくる。  最初に目に入ったのは傍にいた美しい女性だった。 「きみは?」と尋ね、とっさに思い出した。ヤスコ・メイ――オルベラ通りに住む女優にして組合活動家だ。

          『飛び地のジム』第二部 10

          『飛び地のジム』第二部 9

          9  前世紀末、グレイハウンドバスの路線は全部で二五〇を数えていた。ところがその後の二十数年でそれが三六路線にまで減り、今ではその数すらも見直しが図られていた。  今世紀の初頭から始まった交通革命は、地上を走る内燃機関のクルマという存在を、どこかノスタルジーにあふれた愛玩的なものに変えてしまった。  エアカーが移動手段の主流になり始めた頃、連邦議会は内燃機関の地上車を環境汚染源として一掃しようと働きかけたが、国民の猛反対にあった。クルマはいずれ消え去る運命にあるのだし、だっ

          『飛び地のジム』第二部 9

          『飛び地のジム』第二部 8

          8  クラーク・ハマーシュタインが取引先に疑問を感じ始めたのは、かれこれ二年ほど前からだった。当時、ハマーシュタインは得意の絶頂だった。ハマーシュタイン・コーポレーションは地球の交易国の一括窓口の権利を手に入れたばかりだった。  それまでのハマーシュタインの人生は決して満足すべきものではなかった。十年前はハマーシュタインはまだ使いっ走りのチンピラであり、月にある連邦刑務所で、他の囚人たちと共に不毛この上ない水耕栽培の作業に勤しんでいた。  連邦刑務所自体は今世紀の初めに、ア

          『飛び地のジム』第二部 8

          『飛び地のジム』第二部 7

          7  葬儀の日は雨だった。  二、三日前からポートランド市内に居座りつづけた雨降虫のせいだった。  葬儀自体はヴォルフガングが一切を取り仕切り、厳かではあったが、故人への思いがあふれた心温まるものだった。  爆弾処理班の担当者は、犯人が使ったのは、新種のプラスチック爆弾で、非常に局所的な爆発を起こすのだ、とジムに語った。対人用ですよ、と彼はいった。もちろん、即死だった。ジムはそれを聞いて、少し慰められた。  葬儀にはテロ事件を担当していると称する警察やFBIの連中も来ていた

          『飛び地のジム』第二部 7

          『飛び地のジム』第二部スタート

          「飛び地のジム」第一部が終わりました。応援してくださった皆様、お付き合いいただいた皆様、どうもありがとうございます。「飛び地のジム」は二部構成ですので、前半がここで終わり、次からは後半戦、折り返しの第二部ということになります。 この作品をアップするため、第一部を十数年ぶりに読んでみて、結構実験的な作品(創作的にですが)だったな、とちょっと驚いています。まあ、エンターテインメントとして書いたものですので、楽しんでいただければそれでいいのですが。。。また、昨今の社会的事情が全く

          『飛び地のジム』第二部スタート

          『飛び地のジム』第一部 6

          6  その日、ジーナ・シモンズは市内まで足を延ばし、ダウンタウンにある図書館に行った。  エルドン・テイラーの手掛かりを探すためだった。  ポートランドの中央図書館はジョージア様式の優美な造りの三階建で、他の州によく見られる訪れる者を威嚇するような厳めしい建物とは明らかに違っていた。  にもかかわらず、中にいるロボットの司書は決してフレンドリーとはいえなかった。役立たずで気が利かなく、ジーナは結局――さんざん言い争った挙げ句、自分で探すと言い張った。  しかしジーナは今、そ

          『飛び地のジム』第一部 6

          『飛び地のジム』第一部 5

          5  ジーナ・シモンズがそれに気づいたのは、ある晴れた日の午後のことだった。  遮光カーテンの隙間から入ってくる木漏れ陽に目をしかめ、ジーナはこめかみを指で軽く揉んだ。モニターはデータのダウンロード終了を知らせる緑色のインジケーターを点滅させ、次のデータに備えて待機状態であることを教えていた。  ジーナは立ち上がって伸びをすると、モニターに向かって命じた。 「フィルモグラフィを検索して」 「性別、名前?」モニターのコマンドが尋ねる。 「エルドン・テイラー、男性」とジーナがい

          『飛び地のジム』第一部 5