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『カゴ抜けの年』1-1
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昨夜から降り続いた雪は、翌朝にはすっかり町を覆っていた。
降り積もった雪は、驚くほど白く、朝陽を浴びると、ダイヤモンドのようにきらきら輝いた。
町の家々は総じてみすぼらしかったが、値の張った白粉が、つかの間、盛りを過ぎた女優の老いを隠してくれるように、真綿を思わせる新雪は、この町の秘められた歴史をひっそり覆い隠しているようだった。
「ほーい、ほーい」
奇妙な掛け声とともに、ひとりの
『カゴ抜けの年』プロローグ
プロローグ
そこは単に「ヤマ」と呼ばれていた。
町の東北部に位置するヤマは、その昔――かれこれ三十年ほど前――この地方で「雑古場(ざこば)」と呼ばれた、世間でいうところのゴミ捨て場であり、マルミ興産という産廃業者によって、この地方の各地で集められた、新旧の粗大ごみの一大集積場となっていた。
マルミ興産の持ち主である丸美達義は、町ではよく知られた人物だったが、それは彼がヤマの所有者であること
遅ればせながら、、、
皆さん、こんにちは。日出ひのいりです。
自作公開から半年経ってようやく自己紹介というのもなんですが、最近急に全体ビューの数が伸びだして、、、個人的にワケわからん状態にあったのですが、その原因がやっとわかったので(SNS苦手な自分ですが)、思うところあって、今回より徐々に自己開示していきたいと思っています(笑)
ひのいりは若いころのペンネーム(実際はカタカナのヒノイリ)で、昔は雑誌のライターやら
『飛び地のジム』エピローグ
ない方がいい(かもしれない)エピローグ
ヴォルフガングはその日、一冊の分厚い封筒を受け取った。
それはハトロン紙に包まれたタイプ原稿の束で、老舗の芸能エージェントの代表としては、いささか手に余る代物だった。
ヴォルフガングは最初それを見て、困ったな、と思った。
確かにうちで抱えているタレントには作家もいる。書いている時間よりもスランプの方がずっと長いノイローゼ気味のSF作家だったが、それ
『飛び地のジム』終えるにあたって
皆様、長い間ありがとうございました。「飛び地のジム(完全版)」は第二部を以て本編終了となります。
実はこの後、少し短めのエピローグがあるのですが、以前この作品を読んでもらった友人から最後のエピローグは蛇足だと思うと指摘を受けたことがあり、、、実際、今回自分で全部を読み返してみて、やはり第二部13章で終わるのがスマートじゃないかと思います。。。
しかし、プロローグから始めたならエピローグで終わる
『飛び地のジム』第二部 13
13
三台目の車を見送った後、ヤスコ・メイは埃っぽい道路に、ジムにはわからない記号を書いた。それは棒に棒を書き足していく不思議な図形だった。
ジムがそれについて尋ねると、ヤスコはこういった。
「これは日本語なのよ。漢字というの。祖母から教わったわ。今、わたしは“下”という字を書いたのよ。これは3ね。こうやって一本ずつ増やしていくのよ」
そういって、ヤスコは“下”の左横にもう一本、縦の線を書
『飛び地のジム』第二部 12
12
ブルンヴァン博士がそのニュースを聞いたのは、本物のワイルドターキーで沈没しそうになっているときだった。
仇敵ポール・マイヤーのいうことは、相変わらずわけがわからず要領を得ないものだった――もしかすると、こちらがぐでんぐでんになっているせいかもしれないが。
「え? なんだって?」とブルンヴァン博士はいった。
「飲んでるのか、あんたは」国連議長はユダヤ人らしい謹直さで非難した。
「もっと早
『飛び地のジム』第二部 11
11
その山はグラン・ヘレナと呼ばれていた。
そこはかつてこの地域一帯を支配していたアメリカ先住民の一部族の聖地だった。部族の長は代々このグラン・ヘレナに、巫女の家であるチリンガという建物を置いた。チリンガは平たい石板と木切れを組み合わせてつくる粗末な掘っ立て小屋で、そこで巫女は様々な占いを立てた。
今から数百年も前のこと、このチリンガの巫女のひとりが、奇妙な託宣を受けた。
コヨーテの脛
『飛び地のジム』第二部 10
10
ハマーシュタインが目を覚ましたとき、医師のアーノルド・ブルンヴァン博士はちょうど回診に出ているところだった。
ハマーシュタインはベッドの上でぼんやりと天井を見つめ、ここはどこだろう、と思った。格子で区切られた白いタイル。まるで手動式カメラで慎重にピントを合わせているように、行きつ戻りつ、ぎごちなく焦点が合ってくる。
最初に目に入ったのは傍にいた美しい女性だった。
「きみは?」と尋ね、
『飛び地のジム』第二部 9
9
前世紀末、グレイハウンドバスの路線は全部で二五〇を数えていた。ところがその後の二十数年でそれが三六路線にまで減り、今ではその数すらも見直しが図られていた。
今世紀の初頭から始まった交通革命は、地上を走る内燃機関のクルマという存在を、どこかノスタルジーにあふれた愛玩的なものに変えてしまった。
エアカーが移動手段の主流になり始めた頃、連邦議会は内燃機関の地上車を環境汚染源として一掃しようと
『飛び地のジム』第二部 8
8
クラーク・ハマーシュタインが取引先に疑問を感じ始めたのは、かれこれ二年ほど前からだった。当時、ハマーシュタインは得意の絶頂だった。ハマーシュタイン・コーポレーションは地球の交易国の一括窓口の権利を手に入れたばかりだった。
それまでのハマーシュタインの人生は決して満足すべきものではなかった。十年前はハマーシュタインはまだ使いっ走りのチンピラであり、月にある連邦刑務所で、他の囚人たちと共に不
『飛び地のジム』第二部 7
7
葬儀の日は雨だった。
二、三日前からポートランド市内に居座りつづけた雨降虫のせいだった。
葬儀自体はヴォルフガングが一切を取り仕切り、厳かではあったが、故人への思いがあふれた心温まるものだった。
爆弾処理班の担当者は、犯人が使ったのは、新種のプラスチック爆弾で、非常に局所的な爆発を起こすのだ、とジムに語った。対人用ですよ、と彼はいった。もちろん、即死だった。ジムはそれを聞いて、少し慰
『飛び地のジム』第二部スタート
「飛び地のジム」第一部が終わりました。応援してくださった皆様、お付き合いいただいた皆様、どうもありがとうございます。「飛び地のジム」は二部構成ですので、前半がここで終わり、次からは後半戦、折り返しの第二部ということになります。
この作品をアップするため、第一部を十数年ぶりに読んでみて、結構実験的な作品(創作的にですが)だったな、とちょっと驚いています。まあ、エンターテインメントとして書いたもので
『飛び地のジム』第一部 6
6
その日、ジーナ・シモンズは市内まで足を延ばし、ダウンタウンにある図書館に行った。
エルドン・テイラーの手掛かりを探すためだった。
ポートランドの中央図書館はジョージア様式の優美な造りの三階建で、他の州によく見られる訪れる者を威嚇するような厳めしい建物とは明らかに違っていた。
にもかかわらず、中にいるロボットの司書は決してフレンドリーとはいえなかった。役立たずで気が利かなく、ジーナは結
『飛び地のジム』第一部 5
5
ジーナ・シモンズがそれに気づいたのは、ある晴れた日の午後のことだった。
遮光カーテンの隙間から入ってくる木漏れ陽に目をしかめ、ジーナはこめかみを指で軽く揉んだ。モニターはデータのダウンロード終了を知らせる緑色のインジケーターを点滅させ、次のデータに備えて待機状態であることを教えていた。
ジーナは立ち上がって伸びをすると、モニターに向かって命じた。
「フィルモグラフィを検索して」
「性別