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あの値段が気になるから、もう1杯だけ。

私のよく行くバーにはプロジェクターが置いてある。
ワールドカップなどの試合があるとそこに写してみんなで観戦したりするのだ。
スポーツバーというわけではなく、使っていない時もあれば「フジロック流してます!」だったり、BGMは他にかかっているけどアニメや映画などが無音で流れていることもある。
要するにみんなでお酒を飲みながら楽しめるものであればなんでもよいのだ。


先日はWBCを流していた。
そして試合が終わった後、普段は消すことが多いのだがその日はなぜか消音にしてテレビの映像だけが流れていた。
おそらく先ほど左上に出ていた次の番組予告を見て好きな芸能人が出ることを喜んでいた人がいたので、お客さんも少なかったし店主が良かれと思ってつけっぱなしにしてくれたのだと思われる。

流れていた番組は、チームに分かれて家電量販店でいくらか予想しながら商品を選び、設定金額に近い買い物をした方が勝ち〜!みたいなバラエティ番組だった。


最初はなんとなく流し見していたのだが、そのうち私たちは最新家電にへ〜!と注目したり「あっこれ欲しかったやつ!」とか「これ知ってる、すごい高いんだよ」という感じで会話が盛り上がっていった。
バラエティ番組だとテロップもあるし、音がなくても案外映像だけでも見れたりするね〜なんて言いながらみんなでお酒を飲む。

「よし。これいくらだったかわかったら帰ろ〜」

そろそろ飲み終わるだろうかというグラスを持った1人が言う。
彼が気になっていたのは、さきほどみんなで予想をしていた一番高いであろう目玉商品だった。
しかしさすがバラエティ。番組的にもその値段によって勝敗が分かれる決め手のものだったのか、正解のお値段発表をまぁ引っ張るのである。
何度かCMをはさんだ結果、彼は「も〜帰れないじゃん〜」と言いながらもう一杯おかわりを頼んだ。

「あはは!結局飲みたいんでしょ。だってCMの間に走ったら間に合うじゃん」

そこにいたみんなが笑いながら言った。
彼はそのバーから歩いて1分もかからないようなところに住んでいるのだ。
だからそこの常連ということもあるのだが。
みんなに突っ込まれ、彼が言う。

「まぁそうなんだけどさ。でも急いで家に帰ってテレビ点けても"あぁ、いくらだったのね...ふーん"ってなるだけじゃん。こういうのはこうやってわいわい言いながら見るから楽しんだよ」

「まぁそうだよね。確かに今めっちゃ値段楽しみにしてるけど、言うてそんな興味はないもんな」

私はそんな会話を聞いていて、なんか、そういうことだよな、なんて思った。


私の周りにはテレビを持っていないという人も多い。
最近のテレビは全然面白くないとかくだらないし時間の無駄だ、なんて感じている人もいる。
私もテレビは持っているものの、普段見るタイミングといえば朝家を出る準備をしながらニュースを流し見するくらい。
毎週必ず見ているものがあったり、今このドラマにハマっているというほどテレビっ子ではないし、もっと言うとこの番組でやっている家電の値段がいくらか、どちらのチームが勝つかについてはほぼ興味がないのだが、でも、今私はテレビを見ていてとても楽しい。

それはやっぱり、さっき彼が言った通りみんなで見ているからだ。
「12,000円くらいじゃない?」「え〜絶対そんなにしないよ」なんてやんややんやとテレビの内容に対してみんなで盛り上がったりしながら過ごす。
その時間が楽しいのだ。

そしてそれはお酒も同じくそうだと思う。
お酒は人をダメにする、時間を奪う、二日酔いになるしいいことないなんて言われることもあるし、もちろん節度は大事だが、お酒にはお酒そのものの味が好きということの他にお酒を囲む空間が楽しい、人とお酒を飲むのが好きというのがあると思う。
友達と飲みに行くのも楽しいけれど、1人でふらりと行って年齢も職種も時には国籍も違う人達と出会えるのが面白い。
お酒はみんながちょっと陽気になったり、そこに集う理由になるツールなのだ。


確かにずっとテレビばっかり見て過ごしていたり毎日のように延々と飲み歩いていたら時間もお金も飛んでいくし、やりたいことや大事なことができなくなることもあると思う。
でもだからといって「必要のないもの」と切り捨てなくても私はいいと思う。

このとってもくだらないやり取りやなんでもない時間、それを共有して笑うことが明日の活力になったり、しょんぼりして帰ってきた今日を吹き飛ばしてくれる何かになったりする時もある。

ダラダラしすぎても、ストイックすぎても、人生はつまらない。
バランスとタイミングで、程々にいろいろなものをプラスに味わえる方が私は生きていて楽しいと感じる。
なんて、これも酒飲みの言い訳だろうか。

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