ポキポキと体を鳴らして忍び寄り、私を嗅ぐ父
私の父は変わっている。
私の今まで出会った「変な人コレクション」とはジャンルは違えど、それに負けず劣らずかなり変な方だと思う。
父はあまり喋らない。
母がマシンガントークをするせいで言葉を挟む隙がないというのもあるが、性格的に、物静かで無口なんだと思う。
シャイなのかもしれない。
そんな彼らのコミュニケーションは、会話のキャッチボールというよりは、会話のバッティングセンターという感じだ。
母は相手の返答も聞かずに、次から次へと剛速球をシュンシュンと投げまくる。メジャーリーガーもびっくりの強肩(強口?)選手である。
質問を投げかけている割に、結論まで勝手に自分で話してこちらの返事を聞いていない時もある。
それに慣れてしまっているため、父は母の球を7割くらいは見送って黙って座っている。
父は足音も静かだ。
母はドアを開けるにも階段を上るにも盛大な音を鳴らして駆け回っているため、姿が見えなくても何をしているか大体わかるが、父は忍者のように足音すら出さない。
しかし、彼は細身の体格のせいなのか、そういう体質なのかよくわからないが、歩くとよく関節がポキポキと鳴る。多分脚のあたりから。
足音が静かすぎてそれが一際聞こえるだけかもしれない。
私が2階の自室にいる時など、忍び寄るように(本人はただ歩いているだけかもしれないが)向かってくる時はちょっとした狂気すら感じる。
ギシッと時々軋む階段の音と、ポキッ...ポキッ...という音が近づいてくるのだ。
音だけ聞くと、もうホラーの世界である。
その音は私の部屋の前で止まり、いつも1度だけノックをする。
忍者的には2度目のノックの音すら許されないのだろうか。
そして、いつもこちらの返事を待たずにカチャリと静かに扉を開ける。
微かなポキポキ音と1度のノックで、返事も待たずに扉を開けられては、もはやノックの意味はない。
そんなわけで私は着替えている時や入ってほしくない時は、耳をそばだたせて部屋にいなければならない。
たとえ自室でも、そこは安息の地ではない。
そんな父は、いつからか私に近寄ってくると、私の肩あたりをすんっと1度嗅ぐようになった。
これだけ聞くとかなり薄気味悪いが、事実、薄気味悪かった。
しかも当時、こちとら思春期である。
最初はなんか臭いと言われているのか、何を示しているのかわからず、嫌がりながら「何?」と迷惑そうに肩を払って聞いていたが、返事はない。
1度すんっとすると何事もなかったかのように無言で去っていく。
繰り返されるそれに、気持ち悪がりつつも一向にやめないので嫌々慣れてしまった頃、私はある日思った。
これはもしかして喋らない彼なりのコミュニケーションなのではないだろうかと。
...いや、犬か。
そんなツッコミを心の中でしながらも、きっと彼は私を愛でたかったり声をかけたかったりしているが、シャイをこじらせた結果、このような謎のアウトプットになったのではないかと思った。
それからはハイジに出てくるヨーゼフのような、魔女の宅急便に出てくるジジを助けてくれる大型犬のような(ジェフというらしい)、テンション低めのおとなしい動物のささやかな感情表現みたいなもんかと思って、放っておくことにした。
↑ 父(ヨーゼフver.)
↑ 父(ジェフver.)
細身なのでセントバーナードのような体格ではないが、のそりとした動きが似ている。
父が忍び寄ってくると私の頭の中では魔女の宅急便のジェフのテーマが流れるようになった。
そんな父のとっておきのジェフエピソードが一つある。
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