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前半と後半で景色が変わる!とにかく薦めたい良書『いつかの岸辺に跳ねていく』

2年ぶりに大好きな小説を読み返してみました。2019年に読んだ本ベストワンの作品、加納朋子さんの『いつかの岸辺に跳ねていく』です。2年前に図書館で借りて読んで「なんて素晴らしい作品!」と感銘を受け、手元に欲しくなったので購入しました。

展開はわかっているはずなのに、読むのは二度目なのに、物語の詳細を覚えていなかったからか涙が出てきました。大好きな作品で、とにかくいろんな人に読んでほしい一冊なので、紹介したいと思います。

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護と徹子、幼なじみ二人の物語

この作品は、森野護と平石徹子、二人の幼なじみの物語です。二人は赤ちゃんの頃からの幼なじみで、家が近所、幼稚園から中学まで一緒という腐れ縁の仲。恋などという特別な感情も抱くことはなく、普通の幼なじみです。

護視点で語られる前半「フラット」と、徹子視点で語られる後半「レリーフ」に分かれた2部構成で物語は進んでいきます。

前半は青春、後半はファンタジー!? 思わぬ展開に衝撃

前半は「フラット」という言葉通り、穏やかな時間が流れており、微笑ましいようなストーリになっています。護が読者に話しかけるような語りなので、冒頭から引き込まれました。

護からみた徹子は、何を考えているのかよくわからなくて、突然意表をつくような行動をする面白い子。そんな徹子との関わりを、子供の頃から20代後半にかけて描いており、「フラット」を読んだ時は、よくある幼なじみ同士の青春物語だなと思いました。

ところが単なる青春物語で終わらなかった!後半「レリーフ」で視点が徹子に変わったとたん、物語が大きく動いていきます。「フラット」で徹子がとっていた突拍子もない行動、護に対する言動の秘密が明らかになるのです。

後半で一気に前半の伏線が回収されていく構成。登場人物の視点が入れ替わる連作短編は数多くありますが、ここまで景色ががらりと変わる物語は私が読んだ中では初めてかもしれません。ただ視点を変えただけなのに、別の物語のようなのです。

前半「フラット」が青春小説とするなら、後半「レリーフ」はファンタジーでもあり、徹子自身の戦いでもあり、壮大な愛の物語ともいえます。

一人で抱え込まないで

友達や家族など周囲の人々を必死に守ろうとする徹子は、自分を犠牲にするほどの強い正義感であふれていて、何もかも自分一人で抱え込もうとする姿に、胸が締めつけられました。それはまるで、すべての人を悪から守るヒーローのようで、強くたくましくも思いました。

でも客観的に見たらそう見えるだけで、徹子自身はとても辛かったし、苦しんでいました。全部自分のせいだと思ったり、みんなを守ってあげなくちゃいけないと思ったり。そこまで背負う必要はないんじゃないの?って、ずっと言ってあげたかったです。

徹子は決して一人じゃない。一人で抱え込もうとせず、時には周りを頼ることも大事なのだと思います。護や友達がそれを教えてくれました。護や弥子ちゃんの言葉に涙が溢れました。

また、頑張っている人は誰かが必ず見ているんだなと思いました。徹子が諦めずに頑張ってきたからこそ、それを見ていた仲間が救いの手を差し伸べてくれたのだと思います。何かを抱え込んでどうしようもなく苦しくなったら、顔を上げて周りを見れば、意外と近くに護や弥子ちゃんたちのように助けてくれる人がいるかもしれません。

こんなに一生懸命な人、神様が放っておくわけがありません。感動のラストはこれまで頑張ってきた徹子に対する神様からのサプライズであり、最高のプレゼントでした。

幸せと感動で胸がいっぱいになるラスト

護と温かい仲間に支えられるラスト、そして二人の未来、幸せと感動で胸がいっぱいになりました。護は熊みたいで、全然王子様じゃないのだけど、でも王子様だった。かっこよかったよ!

前半で笑えて、後半で怖くて不安でドキドキして、最後に優しく温かい気持ちになる小説。1冊でこんなにいろんな感情を味わえる体験は久しぶりでした。恋愛や友情という枠を超えた、大きな愛を感じられる作品です。




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